成長の続くASEAN。20年ほど前までは製造業のコスト削減がメインで注目されてきたが、最近は経済成長も進み消費市場として魅力的になってきているという。
特にタイ、インドネシア、マレーシアは市場も大きく、2019年の各国の年間新車販売台数は、それぞれ101万台、103万台、60万台と、日本の年間販売台数の半分強くらいまで拡大してきている。
本企画ではその3カ国について、各々市場の特徴を解説した。今は日本メーカー優位だけれど、実はASEANの国産メーカーも成長してきている!?
文/川崎大輔
写真/川崎大輔、ベストカーWEB編集部
■日本車メーカーの獲得すべき市場へと変化するASEAN
時代が経ち、日系企業のASEAN進出の目的も変化してきた。以前は製造業のコスト削減がメインの市場であった。しかし、今はそういった目的は減少傾向で、販売拡大にシフトした。これはASEAN各国にいえることだが獲得すべき市場となってきたためだ。
日本国内の消費が年々減り市場が縮小傾向のなか、多くの自動車メーカーが目を向けているのがまさにASEAN市場だ。
現在のASEAN自動車市場は、日本車メーカーが8割のシェアを持つ「日本車王国」となっている。1960年代ごろより日本車メーカーが進出し、現地の自動車産業を育てていった。ASEANのなかでも大きな自動車3大市場がタイ、インドネシア、マレーシアだ。
コロナ禍で15~25%ほど縮小したが、コロナ禍以前の2019年の各国の年間新車販売台数は、それぞれ101万台、103万台、60万台となっている。
「ASEAN」とは日本の12倍の面積に6億3000万人以上の人々が暮らす、個性豊かな東南アジア地域の10カ国から構成される。人口、面積、宗教、民族、言語、政治体制、経済規模、産業など相違点が多い。
そのため、ASEAN全域での人気車種というのは存在せず、各国で売れる自動車のモデルがまったくく異なる。
■ピックアップ王国のタイ
タイでは自動車シェアの約90%が日本車メーカーで埋め尽くされている。また、タイは輸出と国内需要が半々くらいになっており、タイ国内の内需以上の生産を行い、ASEANのデトロイトと呼ばれるほどの輸出拠点に成長した。
特にピックアップトラック市場は世界最大だ。総生産は年間約100万台、そのうちタイ国内で約40万台が販売され、残りは世界中に輸出され、活躍している。現在でもタイ国内で販売される自動車のうち45%がピックアップトラックとなっている。
また、地方・農村部を中心にピックアップが人気を集めている。タイ政府が、道の悪いエリアで移動をしたり、農作物を運ぶ物流に利用できたりすように、ピックアップトラックに対して優遇税制を行ったことが拡大の要因だ。
地方の都市化やエコカーなどの低価格車が出てきたことで、ピックアップの市場シェアは低下する見方もあったが、現時点まで10年以上、タイ国内におけるシェアは40%以上で安定に推移している。
物流などにも活用できるのに加え、趣味として購入する若者ユーザーも取り込み底堅い需要が続く。最近の売れ筋は、後部座席のある4ドアのダブルキャブタイプだ。2020年の新車販売台数のトップ1、2ともピックアップで、D-Max(いすゞ)、ハイラックス(トヨタ)が人気の売れ筋車種となっている。
■ミニバンが人気のインドネシア
インドネシアは、ASEANのなかで最も日本車メーカーシェアが高く、95%と言われている。また、MPV(ミニバン)3列シートで占められる特殊なセグメント市場となっている。MPVとはMulti-Purpose-Vehicleの略で、日本で言えばミニバンだ。
さらに現地で販売されるSUVも半分くらいが3列シートとなっており、大人数での移動に適した車種に人気が集まる。
なぜ、インドネシアで3列7人乗りが売れるのだろうか?
理由のひとつ目には、大家族主義の伝統が挙げられる。インドネシアでは、会食等で親戚も含めた家族・親族で集まる習慣が強く残っている。そうした際に親戚も含めて乗るために多人数乗りのクルマが必要となる。
ふたつ目として、家族の平均構成員数が、日本では 2.5 人に対してインドネシアは4.0 人と多く、また運転手やメイドや子守も同乗するため7人乗りが必要となるといわれる。自動車を保有している高所得世帯はメイドや子守が必ずいるといわれている。休日には家族みんなで一緒にショッピングに出かける。
3つ目は、故郷に帰省する際に大量の荷物を積むためのスペースの必要度が高いためと言われている。ラマダン(イスラムのお正月)などには、田舎の両親や親戚にジャカルタからたくさんのお土産を乗せて帰省する。
4つ目は、車体サイズの大きいミニバンを保有することが社会的ステータスの高さを示すという認識が長い間に渡って定着しているからだ。インドネシアでは国民車と呼ばれたベストセラーカーのトヨタのキジャンがある。
1970 年代後半にアジアカーとしてキジャンを開発したが、3代目から3列シートになった。インドネシア社会に3列シート7人乗りの車を定着させるうえで強い影響を与えた。
そのため一定の所得を超えた人々はミニバンを購入することによって、自らのステータスの高さを誇示する。さらにインドネシア人の気質で、「人が買っているものを買う、人が見ているものを見る」と流行に乗りやすい傾向も起因している。コロナ禍以降、シェアは減少ぎみだが、3列シートのMPVシェアは40%弱。変わらぬ人気を保っている。
■国産車メーカーが覇権を握るマレーシア
マレーシアでは国産車メーカー(プロドゥア、プロトン)のシェアが約半分を占めている。日系メーカーはホンダ、トヨタと続き、純粋な日系メーカーシェアはタイやインドネシアに比べると低く40%ほどとなっている。セダンに根強い人気があり、特にマレーシア国産車メーカーの小型セダンシェアが高い。
1980年代始めに国民車プロジェクトが打ち出され、マレーシア国産車を中心とした自動車産業の発展があったという点で他国と異なる。長年の保護主義(ブミプトラ政策)を背景に、マレーシア国産車育成・保護のための各種奨励策があった。自動車の取得を積極的に奨励したことで一気に自動車市場が拡大。
具体的に、外資メーカーの組み立て部品には40%の関税がかかるが、国産車メーカーのものは関税免除。さらに官公庁での優先購入、公務員への低金利ローン、1500ccクラス以下の減税など手厚い保護を受けて小型セダンを生産するプロドゥア、プロトンのシェアは拡大した。
小型車が好まれる理由は手頃な値段だからだ。特に国産車メーカーのクルマは相対的に安い価格を維持。また、自動車ローンも最長9年まで組むことが可能で、ほかのASEAN各国に比べてローンも活用しやすく、低所得者層も購入することが現実的となっている。
ASEAN自動車市場は、日本と異なり今後も拡大していくことは間違いない。しかし、ASEANをひと括りにすることは難しい。各国の文化、生活、考え方などにより売れ筋モデルがまったく異なる。それぞれの国を深く理解し、各国の嗜好性にマッチした自動車を投入していくことが必要となることは間違いない。
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