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 山梨県の韮崎本町運送が導入した「ウイスキー樽運搬車」は、ウイスキーメーカーの工場の敷地内において、熟成させるウイスキーが入った樽の運搬を行なっている構内専用車。構内専用車とは、私有地の敷地内で運用される、保安基準の寸法や重量の制限を受けない車両のことだ。

 ウイスキー樽運搬車は、一度ウイスキーメーカーの工場の敷地内に入ると、30年近く運用されるため、一般の人が見る機会はほとんどない。それはまるで30年に一度しか咲かないリュウゼツランの花のような存在なのだ(リュウゼツランの球茎はテキーラの原料だけど……)。

 今回、30年ぶりに製作された新型ウイスキー樽運搬車を、納車直前にレポートする機会を得たので紹介したい。

文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部
※2021年9月13日発売「フルロード」第42号


ウイスキー樽運搬車ってどんなクルマ?

韮崎本町運送が導入したウイスキー樽運搬車。積載量的に2軸車で充分なところ3軸車を採用する理由は実用ホイールベースを短くして取り回しを良くするためという

 韮崎本町運送は、トレーラによる食品の大量輸送を持ち味とする運送会社。関連事業も幅広く手がけており、その1つとしてウイスキーメーカーの「熟成工程」を受託。同工程では、熟成させるウイスキーが入った樽を、ウイスキー樽運搬車で貯蔵庫から出し入れする業務を行なっている。

 ウイスキー樽運搬車は、荷台フロア部にレールを搭載しているのが最大の特徴。貯蔵庫のプラットホームにも同じ幅のレールが敷かれており、車両をプラットホームに付けて、アウトリガーで傾斜させることで、樽を転がして積み降ろしを行なう。

 韮崎本町運送では約30年前に先代のウイスキー樽運搬車を導入したが、ここにきて機器の不具合や耐久性の問題が出てきたことから、新型の製作を決断。昨今のハイボールブームで、ウイスキー生産量が増えていることに対応する狙いもあるという。

 約30年ぶりとなる新型のボディ製作は、ベース車両の購入先である三菱ふそうを介して本所自動車工業に依頼。本所自動車工業は、平ボディなど一品モノのトラックボディを得意とする創業100年の老舗架装メーカーだが、ウイスキー樽運搬車の製作は同社の長い歴史でも初めてという。

30年ぶりに登場した新型のポイントは?

ウイスキー樽運搬車は1本200kg超の樽を1回20本以上、1日約50往復で運搬する

 韮崎本町運送が導入したウイスキー樽運搬車は、ウイスキメーカーの工場敷地内でのみ運用される構内専用車。ナンバーが付かず保安基準の寸法や重量の制限を受けないため、車両寸法は全長10160mm×全幅2730mm(保安基準は全幅2.5mまで)×全高3180mmと独特だ。

 ベース車両は三菱ふそうファイターFQ系6×4シャシー(GVW20t級)を採用。先代の幌型からバン型に変更されたボディは、一部ステンレスも含むスチール製。天井は耐久性と遮熱性を高めるため、断熱材入りのサンドイッチパネルを採用する。

 いっぽう、フロントパネルにはキャブのリアウィンドウと同じ大きさのガラス窓を採用。バックでプラットホーム付けする際に目視で確認するためのもので、雨天時の視界確保に寄与する雨水カバーも装備。アルコールを扱うため照明が備わらない貯蔵庫内での作業に備えた照明も多数搭載する。

 レールが敷かれている床面の地上高は、貯蔵庫のプラットホームと同じ1130mm。前後の出入り口には、ドライバーが出入りするためのステップ、およびパイプ式のスライドドアが備わる。ちなみにステップの高さやパイプの組幅は、ウイスキーメーカーの安全基準に則ったものだ。

 先代の前2本から前2本+後2本となったアウトリガーは、本所自動車工業が油圧回路のチューニングを行なったワンオフ品。押している間だけ動かしたり、1本1本を個別に動かすことができるので、路面形状に応じた微調整も容易となっている。

 操作スイッチパネルもワンオフ品で、荷台の内からでも外からでも操作できるよう、同じスイッチを2面に配置。万一の油圧回路の故障等に備えた手動レバーも備わる。

投稿 トラック界のリュウゼツラン!? 30年ぶりに製作されたウイスキーの樽を運ぶ構内専用車とは?自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。