国民民主党が21日、きょう衆院本会議で採決する予算案で賛成に回る方針を明らかにした。政府提出の当初予算案に野党が賛成するのは極めて異例で、波紋を広げている。
野党なのに予算案の責任を背負うことに
なぜ賛成に回るのか。玉木代表の発言がすでに報道されているが、まずは同党の正式見解。大塚政調会長が発表した談話では、
高騰を続けるガソリン・軽油価格対策について、政府は私たちの「トリガー条項凍結解除」の提案を採用する方向を示しました。また、政府の予算については、不十分ながらも賃上げと人への投資を重視した内容になっています。
との理由を示している。「トリガー条項凍結解除」は昨年10月の衆院選後、国民と維新が提起する形で脚光を浴びた。特に国民は、ガソリン価格の高騰を受けて、衆院選の投開票日の3日前に公約に緊急追加したことを発表。さらに遡れば、2018年の段階で「税制改革」に盛り込んでいる。
玉木代表としてはまさに“肝煎り”の政策。当初は頑なにトリガー条項発動に否定的だった岸田政権も「選択肢として排除しない」という慎重な物言いながら軟化の兆しは見せている。
しかし、まだ政権側から確約を取り付けたようには見えない。「『是々非々』路線をアピールする狙い」(毎日新聞)の一手にはなるが、当初予算案に賛成することは、単に野党として異例というわけではない。仮に今回トリガー条項発動が確約されていた状態であったとしても、「その他大勢」の政策の裏付けとなる予算を承認することになり、国民民主は、野党なのに自民・公明と同じく責任を背負うことになる。政策目的が本意で、連立政権入りを否定するにしても、形の上では“閣外協力”となり、参院選で国民の審判を受けることになる。
維新にすら「政権と取引?」指摘
そういうわけで、従来の政界の“常識”からすれば明らかに反するわけだ。実際、党内で前原代表代行が反対し、前原氏は予算委理事会の出席から外れ、締めくくり質疑の質問者は前原氏から玉木氏に変更された。
他の野党の反応も推して知るべし。選挙協力の可能性が実質的になくなったことで立民が「非常に信じ難い対応」(泉代表)とアレルギーを示すのはお約束としても、リベラル勢力から「ゆ党」と揶揄されるなど、独自の政治行動を取る維新にすら、「政権与党になんらかのディールをしたいのか、入りたいのか、そういう形に捉えられても仕方ない」(藤田幹事長)と指摘される状態だった。
過去10年をさかのぼると、2015年度予算案に次世代の党(当時)が賛成したケースだけ。この時の同党は前年の衆院選で大敗。最高顧問の石原慎太郎氏は若い世代へのバトンタッチを名目にあえて比例名簿最下位になって落選、政界を勇退。その後は党名を「日本のこころ」に変更するも、党勢は回復できぬまま、自民党に吸収された。
トリガーというよりトランプを切りすぎた?
翻って国民民主は昨年の衆院選で8議席から11議席に増やし、比例票も全国合わせて259万票を獲得したばかり。立民や維新との間に埋没のリスクは続いているとはいえ、“ジリ貧”だった次世代の党とは明らかに違う。連合という支持基盤を擁しており、加えて、小池都知事が特別顧問を務める都民ファーストの会との連携を深化。今後の展開によっては、少なくとも衆院比例票で30万票を獲得した東京など首都圏を中心に一定の存在感を見せることはあり得たはずだった。
玉木代表も当然、ここまで書いたような波風が立つのを熟慮した上で“トリガー(引き金)”を引く決断をしたのだろう。問題はここからだ。党勢を一定度拡大し、「対決よりも解決」という独自路線の確立に成功すれば、政党運営のイノベーションになるかもしれない。
だからこそ、参院選に向けての打ち手をどう繰り出すのか重要になる…と思った矢先、夜になって毎日新聞や産経新聞が、都民ファーストの会の荒木千陽代表を参院選東京選挙区に擁立すると打電してきた。国民民主も推薦を出す方向になると報じられている。
国民民主の予算案賛成のタイミングと偶然重なっただけかもしれないが、率直なところ、著名人の立候補も多い首都決戦にあって、当選ラインの50万票以上を集めるには求心力を感じさせるとは言い難い動きだ。個人的には、荒木氏を「当て馬」にして、「本命」の小池氏がサプライズ出馬するくらいの奇策をやらなければ、参院選から政局を動かしていけるようには思えないのだが…。
今の時点では、トリガーというより、トランプ(切り札)2枚を早く切りすぎただけなのか、それともこの後意外な展開を見せるのか、いましばらく生温かく見守られることになりそうだ。