クルマにはさまざまな用語が使われているが、そのなかでもいまいちピンとこないのがボディカラーではないだろうか。
ただの「ブラック」とか「ホワイト」ではなく、色の前後に聞き慣れない単語が付加され、いったいどんな色なのか想像がつきにくい。そこで本稿では、昨今のボディカラーにどうしてこのような複雑な名称がついているのか、名称に隠された秘密について紹介していこう。
文/フォッケウルフ
写真/トヨタ、ホンダ、ダイハツ、日産
■カラー名から想像されること
「デザートカーキ」、「ソニックチタニウム」、「パッションオレンジ」、「フレンチミント3トーン」、「マシーングレープレミアムメタリック」、「ガーデングリーンメタリック」、「ポリメタルグレーメタリック」───。これらは、決してなにかの呪文ではないし、なにがしかのヒーローの必殺技でもない。
どれもれっきとしたクルマのボディカラーであり、さらに言えば、いずれもJAFCA(一般社団法人 日本流行色協会)が主催する、「オートカラーアウォード」のグランプリを授賞した由緒正しいカラー名称なのだ。ちなみに、2021年のグランプリを勝ち取ったのは、銀影ラスター(レクサスLS)と暁-アカツキ(日産アリア)だが、こちらは”呼吸によって繰り出される型”のようでもあるが……。
それぞれの色の特徴を反映した結果、先述のような名称となるケースが大半で、ボディカラーがクルマの個性を決定づける要素のひとつであることを鑑みると、奇抜なネーミングにしておいたほうがより印象に残りやすいのかもしれない。
とはいうものの、「パッションオレンジ」なら、情熱的なオレンジかな? とか、「マシーングレープレミアムメタリック」は、機械っぽいグレーだけど上質な感じ? といったようにギリギリ想像できるが、「ソニックチタニウム」ってどんな色? と問われても、ピンとくるのはオーナーくらいなもので、一般的には想像もつかない。しかもそのカラーが、「チタニウムの硬質なイメージをモチーフに、若干ウォームな色調を付与し、よりダイナミックな陰影感を演出」する効果を狙ったものであるという、深い話なんて知る由もない。
今どきの国産車に用いられているボディカラーの多くは、「スパークリングブラックパールクリスタルシャイン」のように名称こそ長いものの、”ブラック”という単語が含まれているので、正確には光の当たり具合で変化して見えたり、紫のように見える凝った色だったとしても、それがブラック系の色であることは連想しやすい。
■クイズ「ボディカラー名を当てろ!」
では、突然ですがここでクイズを(笑)。次のカラーがどの色を示した名称であるかを、画像を見ながら考えていただきたい。
いずれも個性的なカラーであることは共通しているが、連想するのは容易ではないが、正解は次のようになる。
シトロンドロップ → [6]
オフビートカーキメタリック →[3]
ソニッククロム →[1]
マンガンラスター →[4]
レモンスカッシュクリスタルメタリック →[2]
オペラモーブ →[5]
すべて一致したあなたは、相当なマニアということになるだろう。長年、自動車関連メディアに携わってきた筆者ですら、ひとつも一致しなかったし、記憶にすら残っていないボディカラーもあった。面目ない………。
同系色でもメーカーによって表現が異なるケースも、ボディカラーを複雑にしている要因と言えるだろう。ボディカラーはクルマの個性だけでなく、たとえばマツダの「ソウルレッド」のように、メーカーのアイデンティティを主張する役割を担っていることもあるし、商標登録されているケースがあるなど、同じような赤でも名称を変えるのは必然と言えるだろう。
そこで、さらにクイズを出そう。次のカラー名称の正しい色は、[A]あるいは[B]のどちらかを考えていただきたい。写真は表示する環境によって実際の色とは異なって見えるが、そこはご容赦いただきたい。
答え)
・ソウルレッドクリスタルメタリック →[A]
・ホワイトパールクリスタルシャイン →[A]
・エアーライトブルーメタリック →[B]
・プレシャスブラックパール →[A]
■シルバーやホワイトの名称から垣間見える思想
ボディカラーの特徴を示す単語として、「マイカ」や「メタリック」がよく使われている。2021年、最も売れたヤリスでは、ツートーンカラーを除く全12色のうち7色が、「メタリック」あるいは「マイカ」という表記が用いられている。なかには、「ダークブルーマイカメタリック」や「ボルドーマイカメタリック」のように、両方を用いたカラーも存在する。
一般的にクルマの塗装は下塗り、中塗り、上塗りという3つの層に分かれているが、「マイカ」と「メタリック」は、クルマの塗装工程における上塗りの際に混入されている成分のことを表している。いずれもボディ面にキラキラと光を反射させる効果を持つが、光を生み出す元となる光輝材が異なる。
「マイカ」とは、日本語で「雲母(うんも)」と呼ばれる鉱物の一種で、その粉末が光を反射してキラキラすることから「きらら」と呼ばれることもある。マイカ系のカラーでは、この雲母片を含んだ塗料が使われており、直射日光のもとで光が当たると透過しつつ各層ごとに複雑な反射・屈折をして真珠のような光沢感を表現できる。
ちなみに「パール」という表記が付けられたカラーもあるが、基本的には「マイカ」と同様に塗料に雲母片が混ぜられており、得られる効果も同じだ。「パール」と表記することでキラキラとした“真珠感”をより強く連想させるため、あるいはマイカと差別化を図るという狙いで呼称を変えていると考えていいだろう。
一方「メタリック」とは、通常のカラーのなかに微粒なアルミ粉を混ぜた塗料を用いたカラーのこと。たとえば、「シルバーメタリック」の場合は、薄いグレーのなかにシルバーのアルミ粉を混ぜて塗装されたボディカラーとなる。「メタリック」は、太陽の光などがあたると文字通り金属的なキラキラとした輝きを発する。
ちなみに、雲母やアルミを含んでいないカラーは「ソリッド」と呼ばれる。今どきのソリッドカラーは、質感を高めたり、耐久性を向上させたりするために、トップコートにクリアー塗装を施した2コートソリッド塗装が主流となっている。「マイカ」や「メタリック」のようなキラキラ感はないが、単色であるがゆえに塗装工程がシンプルで「マイカ」や「メタリック」のように有償になることがない。
アクサルタ社という、液体・粉体塗料の大手グローバルサプライヤーが発表した「世界自動車人気色調査年次報告書」によれば、全世界で最も人気の高いクルマの塗色は10年連続で「ホワイト」となっている。近年は、「グリーンブルー」や「グリーンイエロー」といったカラーが、住居やファッション、クルマ以外の製品の最新トレンドと同調して注目を集めているようだが、それでも新車の81%が「ホワイト」、「ブラック」、「グレー」、「シルバー」といった無彩色が定番であるという事実は依然として揺るがない。
しかし、たとえ定番だとしても「ホワイトノーヴァガラスフレーク」、「ソニッククォーツ」と呼称するほうが仰々しくもあり、尊いもののように感じてしまう。興味がない人が見れば、「ホワイトノーヴァガラスフレーク」、「ソニッククォーツ」もただの「白」なのだが、名称の響き、その物々しさこそが個性であり、それを選んだことにオーナーはこのうえなく満ち足りた気持ちになるはずだ。
【画像ギャラリー】あなたはいくつわかりますか!? 最新ボディカラーの数々を写真で見る!(10枚)画像ギャラリー投稿 このボディカラー想像できますか? 最近のボディカラー名が複雑怪奇な理由 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。