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2021年SUV販売NO.1! ヤリスクロスがメガヒットした理由とあまり気付かない盲点とは

 2021年に国内で最も多く販売されたクルマは、ヤリスとされている。ただし日本自動車販売協会連合会が公表するヤリスの登録台数には、コンパクトカーのヤリスに加えて、SUVのヤリスクロスとスポーツモデルのGRヤリスも含まれる。ヤリスシリーズ全体の販売実績だ。

 この数字をタイプ別に算出すると、2021年の登録台数は、ヤリスが10万1460台(1ヵ月平均は8455台)、ヤリスクロスは10万4000台(1ヵ月平均は8667台)であった。ヤリスクロスが若干多く、派生車種がベース車よりも多く売られた。

 ヤリスと同様、カローラもシリーズ全体の登録台数を公表しているが、個別に売れ行きを見ると、最も多いタイプは2021年9月に追加されたSUVのカローラクロスだ。

 カローラクロスは2021年9月から12月までの4か月間で1万7780台を登録している。1ヵ月平均は4445台であった。そのほかのSUVでは、ライズも堅調だが、2021年の登録台数は8万1880台(1ヵ月平均は6823台)だ。

 したがって2021年におけるSUVの販売1位は、ヤリスクロスになる。そこでヤリスクロスが好調に売られる理由について考えたい。

文/渡辺陽一郎、写真/ベストカー編集部、ベストカーweb編集部、トヨタ

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■ヤリスクロス好調の理由

ベースモデルのヤリスよりも多く売れているトヨタ ヤリスクロス(写真は2WD・Z)。SUVらしい力強さとシャープさをうまく調和させた外観も人気の理由のひとつ

 ヤリスクロスの売れ行きが好調な背景には、複数の理由がある。まずは外観だ。フロントマスクは鋭角的なデザインで、ホイールとタイヤのサイズは、少し大きな16~18インチを装着する。

 それでもC-HRほど個性的ではなく、SUVのイメージから逸脱しない範囲で、適度にカッコ良く仕上げた。このバランス感覚も人気の秘訣だ。

 ボディサイズは、全長が4180mm、全幅は1765mmとされ、最小回転半径も5.3mに収まる。3ナンバー車ではあるが、街中でも運転しやすく、コンパクトカーに近い手軽さも魅力になる。内装は質感が特に高いわけではないが、不満もなく、機能的にデザインされている。

 注意したいのは後席で、足元空間は狭めだ。身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ1つ少々に留まる。ヴェゼルの2つ半に比べると大幅に狭い。

 それでもコンパクトカーのヤリスと比較すると、ヤリスクロスは床と座面の間隔に余裕があり、座った時に腰が落ち込みにくい。長距離の移動でなければ、大人4名の乗車も可能とする。

 荷室にも似たことが当てはまる。リアゲートを寝かせたから背の高い荷物は積みにくいが、コンパクトカーのヤリスよりは荷室が広い。荷室長、荷室高ともに、ヤリスクロスに余裕がある。

トヨタ ヤリスクロス(2WD・Z)。ヤリスと比較してゆとりある車内も人気のポイント

 このようにヤリスクロスは、ヤリスに準じた運転のしやすさと、少し広い後席や荷室を両立させた。そのために販売店からは「ヤリスを目当てに来店されたお客様が、車内の広さに不満を感じられ、最終的にヤリスを買われることもある」という話が聞かれる。

 価格の割安感も、ヤリスクロスの特徴だ。1.5LノーマルエンジンのZは、LEDヘッドランプやアルミホイールを標準装着して221万円、ハイブリッドZでも258万4000円に収まる(駆動方式は2WD)。

 カローラクロス1.8Zの264万円、ハイブリッドZの299万円に比べると、エンジン排気量や装備が異なるものの、ヤリスクロスは40万円以上安い。

 そして残価設定ローンを利用する場合は、ヤリスクロスの返済額が、価格の安いコンパクトカーのヤリスを下まわる場合もあるのだ。

 具体的には、ヤリスクロス2WD・Z(221万円)を3年間の残価設定ローン(均等払い)で利用すると、月々の返済額は4万100円になる。

 ヤリス2WD・Z(197万1000円)は、ヤリスクロスと違ってアルミホイールが標準装着されない。そこでオプション(8万2500円)で装着すると、合計額は205万3500円だ。

 それでもヤリスクロス2WD・Zの221万円に比べれば15万6500円安いのに、月々の返済額は逆転して、ヤリス2WD・Zは4万4000円に達してしまう。ヤリスの返済額は、ヤリスクロスに比べて3900円高いのだ。

 なぜヤリス2WD・Zは、アルミホイールを含んだ合計価格がヤリスクロス2WD・Zよりも15万6500円安いのに、月々の返済額は逆に3900円高くなるのか? ヤリスクロスがオトクな理由は、残価設定ローンの残価(残存価値)を比べると、ヤリスよりもヤリスクロスの方が高いからだ。

 残価設定ローンは、残価を差し引いた金額、つまり価値の下がる金額を分割返済するローンだから、残価が高ければ返済額を減らせる。ヤリスクロスは人気車だから中古車価格が高く、残価も高まるので、返済額を安く抑えられる。

 逆にヤリスは、残価が低いので、たくさん返済せねばならない。その結果、価格と残価設定ローンの返済額が逆転した。

 残価設定ローンを使っても、返済期間の満了時に残価を支払って車両を買い取る場合、ヤリスクロスはその時点で高い残価を支払う。従ってヤリスクロスの安さは解消されるが、車両を返却するなら、ヤリスクロスを選ぶと価格の高いクルマなのに少ない返済額で使うことができる。

 今は残価設定ローンを利用するユーザーが増えたので、ヤリスクロスの買い得度が際立ってきた。

■割安なぶんウィークポイントも

ヤリスよりゆったりしているがカローラクロスやアクアに比べると若干窮屈な後席

 以上のようにヤリスクロスは、デザインから運転のしやすさ、ヤリスと比べた時の買い得度など、いろいろなメリットの相乗効果によって好調に売られている。

 ただし完全無欠なクルマではないので、欠点にも触れておきたい。実用面では、前述の通り後席が狭い。4名乗車は可能だが、カローラクロスやアクアに比べて後席は窮屈に感じる。乗り降りする時も、後席が狭いと足の取りまわしが悪化する。

 Zは運転席の電動調節機能を装着したが、反応が遅く違和感が伴う。コスト低減のために、シートの各部を調節するモーターを1個に抑え、クラッチを使って調節箇所を切り替えるから反応に遅れが生じた。

 荷室はヤリスよりは広いが、リアゲートを寝かせたから、背の高い荷物は積みにくい。この点ではカローラクロスが便利だ。

 動力性能は、ノーマルエンジン、ハイブリッドともに排気量が1.5Lだから不満はないが、直列3気筒とあって登坂路では粗い独特のノイズが聞こえる。特にノーマルエンジンは、モーター駆動を併用するハイブリッドに比べてノイズが大きい。乗り心地は、時速40km以下では路上の細かなデコボコを伝えやすい。

 このほかノーマルエンジン、ハイブリッドともにXを選ぶと、後席の背もたれを4:2:4に3分割して倒す機能が備わらない。

 中央だけを倒して、長い荷物を積むことはできない。Xには後方の並走車両を検知して知らせるブラインドスポットモニターのオプション設定もなく、選びにくいグレードになっている。

 なお販売店によると「ヤリスクロスの納期は約半年だから、2022年1月に注文を入れると、納車されるのは6月以降」だという。SUVは売れ筋のカテゴリーとあって納期は全般的に遅延傾向にあり、人気車のヤリスクロスはその代表だ。商談は早めに開始したい。

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