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新型アルトの価格は初代モデルとほぼ同じ? 9代目モデルの進化度と軽老舗の意地

 2021年12月22日、スズキ新型アルトが発売された。1979年に初代アルトが発売してから約42年経過し、先代モデルから7年ぶりのフルモデルチェンジとなる。新たなフロントデザイン、内外装が新しくなったほか、新たにマイルドハイブリッドを搭載し、安全装備も充実させた。

 そこで、本稿では、新型アルトがどう進化したのか? お買い得グレードはどれになるのか? さらに初代アルトから継続してきた「購入しやすい価格」は維持することができたのかなどを解説していく。

文/渡辺陽一郎、写真/西尾タクト

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アルトがフルモデルチェンジするきっかけとその進化度は?

2021年12月22日から発売が開始された新型アルト。ボディサイズは全長3395×全幅1475×全高1525mm

 今の軽自動車では、スペーシアやN-BOXなど、全高が1700mmを超えるスライドドアを備えた車種が売れ筋だ。このタイプは、新車として売られる軽乗用車の50%以上を占める。

 しかしそのいっぽうで、100万~110万円の価格帯が売れ筋になる「低燃費と低価格」を追求した車種も、根強い人気を得ている。その代表がアルトで、初代モデルの発売は1979年だから、40年以上の伝統がある。このアルトが2021年12月にフルモデルチェンジを行って、9代目に発展した。

 全国軽自動車協会連合会が公表する軽自動車の届け出台数では、アルトにはアルトラパンも含まれる。このうち、ベーシックなアルトの割合は約55%だから、2021年における先代アルトの届け出台数は、1か月平均で約2800台だ。

 スペーシアは1万台少々を販売しており、ライバル車のミライースも4900台前後に達するから(ミラトコットを除く)、ほかの車種に比べてアルトは伸び悩んでいた。そこで新型アルトは、力の入ったフルモデルチェンジを行った。

 新型アルトの外観は、限られた軽自動車サイズのなかで、先代型に比べるとフロントマスクやドアパネルにボリュームを持たせた。水平基調のボディは、フロントピラー(柱)の角度とウインドーを立てて、ボンネットとルーフパネルの寸法的な比率も整えている。そのために視覚的なバランスも向上した。

インパネとドアトリムにネイビーカラーを採用し、質感を高めた新型アルトのインテリア

 車内に入ると、先代型に比べて内装が上質になっている。低価格車だからインパネの素材は樹脂が中心だが、助手席の前側をソフトパッド風に見せている。先代型のカップホルダーは前席中央の床に装着されたが、新型ではインパネの左右に配置して使いやすくなった。

 新型では全高を50mm高めて1525mmとしたから、立体駐車場の利用性を悪化させない範囲で、頭上の空間も広げている。後席の足元空間は先代型と同じだが、身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先には握りコブシが2つ半収まる。後席の座り心地は硬めで、改善の余地を残すが、前後方向の足元の広さはハリアーやCR-Vと同等だ。長距離の移動でなければ、ファミリーカーとしても使える。

 新型は先代型に比べて視界も良くなった。フロントピラーの角度を立てて、少し室内側へ引き寄せたから、斜め前側の視界を遮りにくい。ボンネットが視野に入り、車幅やボディの先端位置も分かりやすくなった。

 サイドウィンドウの下端は先代型に比べて35mm下げられ、側方視界も向上した。後席のサイドウィンドウは面積を広げたから、斜め後ろも先代型に比べて見やすい。前後左右ともに視界を改善させている。

走行性能、燃費、さらに安全装備を充実しつつも低価格を維持!!

軽量・高剛性のプラットフォームの採用や防音・防振対策により乗り心地と静粛性を向上

 パワーユニットでは、新たにマイルドハイブリッドを加えた。モーター機能付き発電機が、減速時を中心とした発電、アイドリングストップ後の再始動、エンジン駆動の支援を行う。アイドリングストップ後の再始動はベルトを介して行われるから、再始動音も静かだ。

 WLTCモード燃費は27.7km/L(2WD)で、軽自動車では最良の数値になる。ノートe-POWER・Xの28.4km/L、フィットe:HEVネスの27.4km/Lなど、コンパクトカーの本格的なハイブリッドと同等だ。アルトのベーシックグレードに搭載されるエネチャージも25.2km/Lだから、軽自動車の中でも優れた部類に入る。

 走りの質も高まった。遮音を入念に行ったので、ノイズが抑えられている。乗り心地も向上した。先代型の主力グレードが装着したタイヤは13インチで、転がり抵抗を抑えて燃費を向上させるため、指定空気圧は前後輪ともに280kPaと高かった。

 新型アルトのタイヤは、ワゴンRスマイルで開発した14インチに変更され、指定空気圧も240kPaに抑えている。足まわりのセッティングは、走行安定性の向上を目的に少し硬めになったが、乗り心地は新型が先代型よりも快適に感じられる。

 安全装備も進化して、衝突被害軽減ブレーキを作動できるデュアルカメラブレーキサポート、運転席/助手席/サイド/カーテンエアバッグなどを全車に標準装着した。このように新型アルトは、先代型に比べると、内外装の質、視界、走行安定性、乗り心地、安全装備などを幅広く進化させている。

 そのわりに競争の激しい軽自動車とあって、値上げは最小限度に抑えた。例えば先代型のFにセーフティサポートを加えると、トランスミッションが5速AGS(オートギヤシフト)の仕様で92万4000円だった。

 新型のAは94万8000円だが、サイド&カーテンエアバッグなどが加わり、衝突被害軽減ブレーキも進化した。ATは5速AGSから無段変速式のCVTに上級化され、前述のとおり内外装の質も向上している。実質的には価格を下げている。

初代モデル 現在の価値と新型アルトの価格はほぼ同じ??

1979年に4ナンバーの軽商用車として登場した初代アルト。47万円という低価格で発売され大ヒットとなった

 アルトの買い得グレードはLだ。マイルドハイブリッドは搭載されないが、安全装備は充分に装着され、実用装備も網羅して価格は99万8800円に抑えた。

 ライバル車のミライースL・SAIIIは95万9200円だ。価格はアルトLが約4万円高いが、サイド&カーテンエアバッグ、ゆっくりと後退しているときに衝突被害軽減ブレーキを作動させる後退時ブレーキサポート、運転席シートヒーターなどが加わる。新型アルトは、売れ行きを伸ばすべくミライースを意識して開発されたから、割安度を強めた。

 同じスズキ車のワゴンRでは、アルトに相当するグレードとして、116万3800円のFAがある。ワゴンR・FAはアルトLに比べて後席と荷室が広く、シートアレンジと収納設備も多彩だ。その代わりアルトLは、サイド&カーテンエアバッグを標準装着して、価格はワゴンR・FAよりも約16万円安い。

 このようにアルトの価格は、軽自動車の中でも特に割安に設定されている。これはアルトが1979年に初代モデルを発売して以来の伝統だ。そして初代アルトの1979年における47万円の価格を、大卒初任給をベースに現在の価値に換算すると、約90万円になる。当時は消費税がなかったから、税込み価格に置き換えると、当時の47万円は現在の99万円だ。

 この価格設定は、新型アルトAの94万3800円とほぼ合致する。従って新型アルトAを購入するときの経済的な負担は、1979年に47万円で発売された初代アルトとほぼ同じだ。

 そして今のアルトAは、前述のとおり衝突被害軽減ブレーキやサイド&カーテンエアバッグを標準装着するが、初代アルトの安全装備はほぼ皆無だった。エアコン、パワーステアリング、さらに左側のドアの鍵穴まで省いていた。つまり初代アルトと今のアルトを比べると、購入時の経済的な負担は同程度だが、装備は比較にならないほど充実して買い得度を大幅に強めている。

 そこで歴代アルトの価格を振り返ると、ベーシックグレードの経済的な負担は、いつの時代でも「1979年の47万円」で推移してきたことが分かる。常に「一番安価な4輪車」の立場を守りながら、時代のニーズに応じてメカニズムや装備を充実させてきた。

 軽自動車は、商用車を含めて、常に日本のユーザーに寄り沿うクルマ造りを行ってきた。その本質をひたすら追求してきたのがアルトだ。従ってアルトは軽自動車の中心的な車種に位置付けられ、新型もブレずにその歩みをさらに進めている。

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