もっと詳しく
検証!!『○○の再来』といわれたクルマは本家を超えられたのか!?

 自動車メーカーやメディアが、新しく登場するクルマの特徴や長所を分かりやすく伝えようとする時に、あるいはユーザー自身が体験した乗り味を表現するために使う言い回しがある。曰く「このクルマは○○の再来だ」と。

 もちろん○○には過去に登場した名車の名前が入るのだが、ちょっと待ってほしい。そう簡単に過去の名車を引き合いに出してもいいのだろうか? 少し褒めすぎじゃない? と思うことはないだろうか。

 そこで、これまで『○○の再来』といわれたクルマをピックアップし、本家と比較してその再現度を検証してみたい。

※本稿は2021年12月のものです
文/片岡英明、写真/ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2022年1月10日号

【画像ギャラリー】再現度バッチリ? 似ても似つかない!?『○○の再来』の再来度をギャラリーでチェック!(45枚)画像ギャラリー

■AE86の再来(その1)/トヨタ アルテッツァ(1998年デビュー)

トヨタ アルテッツァ

 さり気ない4ドアセダンだが、軽量コンパクトなボディにパワフルなエンジンを積み、走らせれば驚くほど速い「羊の皮を被った狼」を狙った。

 AE86レビン/トレノというよりは、その先代のTE71カローラ1600GTを現代に復活させたと言えるだろう。FR方式にこだわり、意のままに操ることのできるスポーツセダンを目指した。

 海外では6気筒エンジン搭載車を主役としたが、日本向けの主役はパンチの利いた2L、4気筒DOHCの3S-GE型エンジンだ。着想と狙いは悪くなかったのだが……。

トヨタ AE86

●再来度:★★☆☆☆

■AE86の再来(その2)/トヨタ 86(2012年デビュー)

トヨタ 86

『頭文字D』のヒットと1980年代スポーツクーペのレストアブームが引き金となり、当時のレビン/トレノの型式「86」を車名にして登場。

 AE86レビン/トレノは古典的なFRライトウェイトスポーツだ。その設計コンセプトと精神を現代の技術で甦らせ、気持ちよく走るスポーツクーペに仕立てた。が、当然デザインに共通するところはないし、パワーユニットも別物だ。

 時代に合わせて2Lの4気筒DOHCを積んだが、車重は大幅増。運転は楽しいが、「再来」と言うのは!?

トヨタ AE86

●再来度:★★★☆☆

■ホンダ S800の再来(その1)/ホンダ S2000(1999年デビュー)

ホンダ S2000

 ホンダが作った最初の4輪乗用車がホンダS500に始まる「Sシリーズ」。そこで創立50周年を記念してピュアスポーツを開発したのだ。

 ホンダS800はSシリーズの最後の作品で、高回転まで気持ちよく回るDOHCエンジンを積み、爽快なオープンエアモータリングも楽しめた。

 そのコンセプトを受け継いだため、フルオープンで登場し、エンジンも精緻な2L、4気筒DOHCを開発している。第2世代となるS2000も刺激的なパワーフィールだ。操る楽しさはS800を上回っていた!!

ホンダ S800

●再来度:★★★★☆

■ホンダ S800の再来(その2)/ホンダ S660(2015年デビュー)

ホンダ S660

 フルオープン、ライトウェイトスポーツのS600やS800のコンセプトに共感し、このスピリットを今に甦らせようと思い、開発した。

 ホンダSシリーズの最初の作品は、軽自動車の規格にミートさせたS360だった。これは幻に終わったが、それを現代の技術で今風に仕立てている。

 駆動方式は後輪駆動だが、エンジンを後方に置くミドシップだ。だから、ビートとNSXの流れも汲んでいる。操る楽しさ、一体感は格別だ。気持ちよく走れ、メカだけでなくデザインにも若さが感じられた。

ホンダ S800

●再来度:★★★★★

■TE27の再来/レクサス IS F(2007年デビュー)

レクサス IS F(右はTE27)

 最初にレビンとトレノを名乗ったTE27は操る楽しさに満ちたFR方式のスポーツクーペだった。小さなボディの中に1クラス上の1.6LのパワフルなDOHCエンジンを積み、豪快なじゃじゃ馬走りを見せつけた。

 このTE27のように運転する楽しさを第一に考えて開発されたのがレクサスISのホットバージョンのIS Fだ。サスを引き締め、気持ちいいハンドリングを狙っている。とはいえ快適性はさすがに高級スポーツモデルだ。

 走りの思想はわかるが、車格が違いすぎて実感は薄いよね。

●再来度:★★☆☆☆

■2000GTの再来/レクサス LFA(2010年デビュー)

レクサス LFA(左は2000GT)

 トヨタ2000GTは、その当時のトヨタの最新技術を駆使して世界最高レベルを狙ったプレミアム性の高いスポーツカーだ。ほとんどが専用設計のぜいたくな設計で、デザインもため息が出るほど美しい。54年も前の作品だが、美しさは不変だ。

 レクサスのフラッグシップクーペのLFAもハンドリングとパワーユニットは超のつく一級の実力を秘めていて、今も乗るたびに感激する。デザインの優美さにおいてはトヨタ2000GTに及ばないものの、世界に誇れるピュアスポーツカーだ。

●再来度:★★★★★

■4代目レガシィTWの再来/スバル レヴォーグ(2014年デビュー)

スバル レヴォーグ

 レガシィの4代目はキュートなデザインで2003年に登場した。歴代のレガシィのなかで最高の出来、とファンから賞賛され、今でも人気がある。3ナンバーのワイドボディになったこともあり、日本だけでなく北米を中心に海外でもヒット作となった。

 5代目は北米市場を重視してボディを拡大したが、大きすぎてファンから敬遠されている。そこで日本のファンに向けて開発し、送り出したのがレヴォーグだ。デザインはワゴンというより5ドアハッチバックだが、ワゴン的に使え、走りの実力も高い。

4代目スバル レガシィTW

●再来度:★★★★★

■ホンダ CR-Xの再来/CR-Z(2010年デビュー)

ホンダ CR-Z

 バラードのスポーツクーペとして誕生したCR-Xは、冴えた走りとキュートなデザインが若いカップルを魅了した。デートカーとしても持てはやされ、デルソルを含め、3代が登場している。エンジンもホンダらしい小気味よいパワーフィーリングだ。

 これを現代の感覚で復活させたのがCR-Zである。気持ちいい走りだけでなく、時代の要請である環境性能もハイブリッドシステムでクリアした。デザインもCR-Xの名残をとどめ、遠くからでも目立つ。パワーユニットの実力が今一歩だったのが残念。

ホンダ CR-X

●再来度:★★★☆☆

■ホンダ N360の再来/N-ONE(2012年デビュー)

ホンダ N-ONE

 1960年代、軽自動車の革命児と言われたのがホンダN360だ。スモールサイズだが、FF方式と2ボックスデザインによって広いキャビンを実現した。エンジンもライバルを圧倒するパワフルさだったし、驚異的な低価格での販売も話題になる。

 そのコンセプトとデザインテイストを今の技術で表現したのがN-ONEだ。多くの人がかわいらしいというペット感覚のデザインで、走りもいいから女性だけでなく男性のファンも多い。時代に流されないデザインだから安定して売れ続けているようだ。

ホンダ N360

●再来度:★★★★★

■ホンダ ステップバンの再来/S-MX(1996年デビュー)

ホンダ S-MX

 ステップバンは、軽乗用車のライフから生まれた個性派のハイトワゴンだ。優れたパッケージングに加え、ほのぼの系のルックスと軽やかに回る4サイクル2気筒エンジンの走りがファンを魅了した。

 それから20年を経て登場したのがS-MXだ。ベンチシートにコラムシフトの新世代デートカーで、ローダウン仕様も設定。エンジンはステップワゴンなどと同じ2Lの4気筒DOHCだから俊足。フットワークも軽やかで、コーナーでも踏ん張る。ヤングに人気があったからステップバンの再来と言えなくはないね。

ホンダ ステップバン

●再来度:★★★☆☆

■スバル360の再来/R1(2005年デビュー)

スバル R1

 スバル360は「てんとう虫」のニックネームで呼ばれた日本の国民車で、ベストセラーになった。マイカーブームをけん引し、今でもドラマなどに登場するから知っている人も多いはずだ。

 それを21世紀に復活させたのがR2とR1だ。ハイトワゴンが全盛の時代に送り出された異端児で、デザイン優先。特にR1は2ドアにハッチゲートの2+2レイアウト。スバルらしいシャキッとした走りの軽自動車だったが、キャビンが狭いこともあり、売れ行きは今一歩。志の高さとデザインは好印象だった。

スバル 360

●再来度:★★★☆☆

■BMW M3(E30)の再来/M2クーペ(2019年日本販売開始)

BMW M2クーペ

 E30の型式を持つBMW3シリーズのイメージリーダーがレースの世界でも大暴れしたM3だ。その流れを汲むスポーツクーペがM2で、サーキットでも公道でも刺激的な走りを楽しめる。

 多くのスポーツモデルはボディが肥大化し、重くなっているが、M2はコンパクトサイズにこだわってきた。その俊敏なスポーツ感覚はM3の再来と言ってもいい!!

BMW M3(E30)

●再来度:★★★★☆

■同一モデル/原点回帰系

 『○○の再来』には、ブランニューカーだけでなく同一モデルのケースもある。その多くは初心に立ち返る原点回帰だが、なかには過去の成功例に回帰するケースもある。

 現行モデルではロードスター、ジムニーが典型的な成功例だ。

■マツダ ロードスター(現行)→初代(NA)に原点回帰

現行マツダロードスター(右手前)と初代NA(左奥)

 モデルチェンジのたびに大柄になり、エンジンも大きくなってきた。が、現行の4代目はダウンサイジングとダイエットを図り、ヒラリとした運転感覚を取り戻している。積極的にシフトレバーを動かし、懸命に走る姿は初代のNA型を思わせるものだ。

●再来度:★★★★★

■日産 ブルーバード(910)→510に回帰

日産 ブルーバード(910)

 歴代のブルーバードは「510」の成功体験に惑わされてきた。あの手この手を打ってきたが、この6代目となる910はスタイリングだけでなく、走り味も似ている。販売は好調で、当時ブルーバードの復活にみんなホッとした。

日産 ブルーバード(510)

●再来度:★★★★☆

■日産 フェアレディZ(Z34)→初代(S30)に原点回帰

日産 フェアレディZ(Z34)

 初代S30型フェアレディZは北米だけでなく日本でもヒットしてスポーツカーの概念を変えた。6代目は誰が見てもフェアレディZとわかるデザインと走りだ。

日産 初代フェアレディZ(S30)

●再来度:★★★☆☆

■スズキジムニー(現行)→初代(LJ20)に原点回帰

スズキ ジムニー(現行)

 1970年にデビューした初代ジムニーは、軽自動車でありながらメカニズムは上級のクロカンSUVと変わらなかった。先代型では販売面で苦戦したジムニーだったが、現行モデルからは初代のワイルドな雰囲気と味が伝わってくる。SUVブームもあるが、原点回帰が大ヒットの要因。

スズキ 初代ジムニー(LJ20)

●再来度:★★★★★

■名車をオマージュした復刻車たち

■トヨタランドクルーザー(FJ40)

トヨタ FJクルーザー(2010年日本販売開始)

 名車FJ40系ランクルの精悍なフォルムを今風にアレンジし、タフなメカニズムに磨きをかけたのがFJクルーザーだ。街の景色にも似合う洗練されたデザインにまとめているし、運転しやすいなど、進化がよくわかる。

トヨタ ランドクルーザー(FJ40)1960年デビュー

●再来度:★★★★★

■VWビートル(タイプI)

VW ニュービートル(1999年日本販売開始)

 20世紀の偉大な傑作車をオマージュしたデザインを積極的に採用するとともに、21世紀の今に合うようにFF方式に転換してフレンドリーなファミリーカーに料理した。特に初代モデルは、ビートルらしさが全開だ!!

VW ビートル(タイプI)1941年デビュー

●再来度:★★★★☆

■フィアット NUOVA500

フィアット 500(2008年日本販売開始)

 そのネーミングからわかるように、21世紀に活躍するニュー500だ。スタイリングに目が行くが、走りの雰囲気も上手に再現している。パッケージングも上手で、次の世代ではEVもラインナップした。見事な再現度だ!!

フィアット NUOVA500(1957年デビュー)

●再来度:★★★★★

■アルピーヌA110

アルピーヌA110(現行)2018年日本販売開始

 ラリーやレースで活躍したリアエンジンの名スポーツカーを上手に21世紀に甦らせた。デザインはアルピーヌA110とわかりやすい。しかも走りの実力は初代モデルを大きく超えている。見事な出来栄えだと思う!!

アルピーヌA110(1963年デビュー)

●再来度:★★★★★


【番外編】メーカーを超えた再来/ロータスエラン → ユーノスロードスター

ユーノスロードスターは全長3970×全幅1675×全高1235mm 重量940kg

 1989年夏にデビューした時、ロードスターはロータス エラン(もちろん初代モデルだ)と言われた。スタイリングがどことなく似ているからだろう。

 実際のロードスターは独自の世界観を持っているし、走りのフィーリングも違っている。ボディはエランよりちょっと大きいし、車両重量も重い。しかしオープンカーで、人馬一体の気持ちいい走りを楽しめる点は両車に共通するところだ。

ロータスエランは全長3683×全幅1422×全高1149mmでS1は640kgというライトウェイトオープンスポーツのお手本

●再来度:★★★★★

■まとめ:今後の再来車に期待!

 名車の再来、復刻というのはマーケティング上わかりやすいが、失敗した時のダメージも大きい諸刃の剣だ。

 しかし、電動化が進むと、イメージ作りのために今以上に再来グルマが登場するケースが確実に増えるハズ。

 次に登場するのはセリカか? MR2か? 実現に期待しよう!!

【画像ギャラリー】再現度バッチリ? 似ても似つかない!?『○○の再来』の再来度をギャラリーでチェック!(45枚)画像ギャラリー

投稿 検証 「○○の再来」といわれたクルマは本家を超えられたのか!?自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。