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 バスの車内事故とは運転士・乗客双方にとって恐怖であり、交通事故とはまた違う側面での事故だ。今回はたまたま記者が乗り合わせた路線バスで「あわや車内事故!!」という場面に遭遇したのでレポートする。写真はイメージであり本稿事例とは関係ないことをお断りしておく。

文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)


普段は運転士を信頼してボケーっと乗っているが

 記者は路線バスのどこに座っていても、普段は取材でもない限りは運転士を信頼して、ボーっとスマホでもいじりながら乗っていることが多い。もちろんバスファンで大型二種免許を持っているので、普通の人よりも見る方向は多少違うかもしれないが、座っているときはほかの乗客と同じだ。

「止まるまで席を立たないでください」には意味がある!

 車内事故とはバスと他の交通や人とのいわゆる交通事故ではなく、バス車内で乗客がケガをするなどの事故を言う。もちろん交通事故に起因する車内事故が多いのは言うまでもない。

 また交通事故にならないまでも事故を避けるために急ブレーキをかけたり、通常通りの運転操作をしていても発進や減速・停止、右左折のGに耐えられず転倒してしまう高齢者もいる。こうしてケガをすればすべて車内人身事故だ。

 いずれにしても車内事故の責任は運送事業者の責任になり、一般論としては賠償責任を負う。バスに乗車するということは法的には乗客が運送を申し込み、事業者が承諾して当該運送を引き受けるという契約であり、その内容は運送約款に基づく。

 事業者によっても異なるが、標準的な運送約款では「当社は、当社の自動車の運行によって、旅客の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任じます。~中略~ 当社の旅客に対する責任は、その損害が車内において又は旅客の乗降中に生じた場合に限ります。」となっている。

記者が特に注意している区間は?

 記者がよく利用する路線バスで、特にこの区間だけはボケーっとしない区間を例として挙げる。それは都営バス・京王バス共同運行の渋66系統・西武百貨店前-宇田川町間だ。

 この区間は一方通行なので1車線でも対向車と離合することはない。しかし歩行者が非常に多く、両側が歩道になっているにもかかわらず、常時歩行者天国のように振る舞う歩行者が多すぎるのだ。

西武百貨店前バス停付近はホコ天ではない!

 そんな道路に大型バスがやってくると、びっくりしてあわてて歩道に戻る人もいれば、逆に歩道から車道に飛び出してくる人もいる。運転士はこの急な飛び出しに細心の注意を払っているのは明らかで、より神経をすり減らしている緊張区間だろう。

歩行者の挙動を見ながら備える

 記者などよりも運転士の方がはるかに注意していて、慎重にバスを走らせていることに疑いの余地はないが、それでも周りを見ながらこの区間だけはいざというときに備えている。それほどヒヤリハットが多い区間だ。

昼間でも車道を歩く人がいる

 かなり以前の話だが、渋谷駅から渋66系統に乗車して西武百貨店前を出て、宇田川町交番手前まで走ったあたりで歩行者が車道に飛び出してきた。運転士は慌ててブレーキを踏むとともに、クラクションを吹鳴してバスを停めた。

 バスのブレーキはエアブレーキを採用しており、乗用車のブレーキとは仕組みも効き方もまったく異なる。普段はこのブレーキを「舐めるように」踏む。

 そうしないとすべてが急ブレーキになってしまうほど、バスのブレーキは強力に効く。車種や乗車旅客数により異なるが、およそ14トンものバスを止めるのには相当の制動力が必要なのだ。

幸い事故はなかったが…

 幸いにもバスはバシッと止まり、人との接触はなく交通事故には至らなかった。車内は全員が着席しており立席はなかったが、運転士は急制動の理由とその後の状況を乗客に詳しく説明。

 次の宇田川町を通過するまで繰り返し車内放送でケガや気分の悪い人がいないかを尋ね、遠慮なく申し出るようにアナウンスを続けた。

夜になると歩道の歩行者が少なくなるので道は空くが油断はできない

 こちらも幸いなことに乗客からの申告はなく、車内事故もなかったのだが最も冷や汗をかいたのは運転士ではなかったかと推測する。

 運転操作をする運転士が交通事故を起こさないのは当然だ。しかしほかの交通や歩行者の挙動による交通事故を未然に防ぎ、かつ車内事故にも気を配らなければならず約款の上では、または運行規則の上では当たり前のことなのかもしれないが、運転士の対応には頭が下がる思いをした。

交通事故と車内事故の区分

 これまで交通事故と車内事故とに分けて述べてきたが、人身事故という点では特に区分はなく、交通事故が起きなくて車内事故だけが発生したとしても、一般的な交通事故と同じ扱いになる。

 第一義的には運転士が刑事上・行政上の責任を負うことになるのだ。当然だが警察官による見分(けんぶん)が行われ、運転士には刑事罰や免許証にかかわる行政罰が課される場合がある。

渋谷駅で発車を待つ渋66系統

 事故というものは起こそうとして起きるものではなく、注意しておけば未然に防ぐことができる場合もあるので、バスに乗車中は座席が空いていれば優先席でも着席をし、立席の場合は手すりにつかまり、発車時と停車時は特に大きな加速度が加わるので意識するだけでかなり変わるだろう。

 歩行者として歩くときには「まさかこんな狭いところをバスが来るなんて!」は通用しない。自動車と歩行者の事故ではたいていは自動車の方が責任が重くなるが、そんなことよりもバスに接触してしまっては一大事だ。

 酒を飲んでいようが仲間とふざけていようが、止むを得ず車道に出る際には、指差呼称までとは言わないが、せめて前後左右の安全確認はしておきたい。

 運転士はクラッチのつなぎ方やブレーキのかけ方を、乗客への加速度の影響がなるべく小さくなるように訓練を積んでいるが、交通事故を回避するための急ブレーキだけは止むを得ないので躊躇せず踏む。

 レールの上だけを走る鉄道や、管制を受けて自動操縦で航空路を飛行する航空機、港内や航路以外は自由に航行する船舶とは違い、不特定多数が行き交う複雑な道路交通の特性を理解してバスに乗車していただければ幸いだ。

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