日本電産は26日、2022年3月期 第3四半期決算を発表したが、オンライン会見の画面を通じて見える永守重信会長の表情はいつもと違って終始不機嫌そうに見えた。怒りが爆発、「永守節」が全開となったのはQ&Aセッションでのことだ。「三流週刊誌が書いているようなことはない」と自らまくしたてた。
関社長「『永守経営』に1ミリもずれていない」
“三流週刊誌”とは、永守氏がアメリカの通信社ブルームバーグのことを皮肉った表現であり、同社が25日、「日本電産の永守会長が関社長に失望感」などと題した記事を配信したことに怒りを露わにしたのであった。
その記事では、日本電産が掲げる2030年に売上高「10兆円企業」の推進力となるEVなど向けモーターの車載事業の収益がぱっとしないことに永守氏がしびれを切らして、自らが陣頭指揮をする体制に変えたことなどに触れている。
記事のソースは、永守氏が社内向けに流した「檄文メール」が下敷きになっていると見られる。記事の真偽はともかく、会見に欧州からオンラインで参画した関潤氏も「『永守経営』に対して1ミリもずれていない」と説明した。
仮に永守会長と関社長の間に何らかの対立があったとしても、それは、日本電産がさらに脱皮して日本の産業界をけん引するような企業に脱皮していくための健全なフリクションであると筆者は信じたい。そもそも永守会長自身が昨年の記者会見で、「今度後継者選びで失敗したら私の任命責任が問われる」と説明している。永守氏は目をかけている人物に対しては厳しくあたることも自著では明かしている。
ソニーの車載半導体エースが移籍
肝心の決算の内容は、売上高が前年同期比18.8%増の1兆4072億円、営業利益も16.6%増の1346億円でいずれも過去最高を更新した。営業利益率は9.6%。それより筆者の目を引いたのは、業績ではなくむしろ同時発表された役員人事。2月1日付で大村隆司氏が執行役員としてソニーから転じて入社することだ。日本電産での担務は、副最高技術責任者兼半導体開発担当となる。
大村氏は三菱電機、ルネサスを経てソニーに移り、イメージセンサーを生産するソニーセミコンダクタソリューションズの取締役で、ソニー本体でも執行役員を兼務していた。ルネサス時代は“車載半導体事業のエース”と言われ、業界では有名人だった。
年初にソニーの吉田憲一郎CEOがEV新会社の設立を発表したが、ソニーのEVや自動運転のプロジェクト「VISION-S」でも大村氏の役割は期待されていた。スマートEVの時代には高度な半導体の技術が求められるからだった。
その車載半導体のエースを日本電産が引き抜いたというわけだ。その狙いを永守氏はこう説明した。
「半導体の開発・生産をすべて外に頼っていては、(現在起きている半導体不足のような)供給リスクがある。それを回避するためには、半導体企業を買収するか、自分たちでやっていくしかない。大村氏を招いたことで、日本電産の半導体戦略をこれから構築していく」
永守氏の狙い「手の内化」
この永守氏の説明を捕捉するとこうなる。日本電産は自社製品のキーコンポーネントや、それを製造する設備は内製化することでコストを落とすことを強みとしてきた。たとえばEV時代には減速機に使う歯車の技術が重要になる。EVでは強いトルクがかかると、減速機が弱いと劣化して発進時などに音が出るようになるからだ。
この歯車を内製するために、日本電産は21年に工作機械会社を立て続けに買収した。三菱重工業の工作機械子会社と、創業100年の老舗工作機械メーカーのOKKだ。すでに三菱重工の子会社は「日本電産マシンツール」に社名変更している。
半導体も同様に手の内に置くことで、安定的な調達と、「ダブル・プロフィット・レシオ(WPR)」と呼ばれる日本電産流の熾烈なコストダウン手法を徹底させようということだ。日本電産の強みの一つが部品、設備の「手の内化」だが、半導体の場合は開発を自社で行い、生産は受託企業に任せる可能性もある。さらに日本電産は26日、ロボット事業を強化し、EVに続く次世代事業の柱にしていく方針も明らかにした。こうした事業でも半導体は不可欠だろう。
会見で漏らした一言
最後に一言。永守氏は半導体事業強化の狙いを説明している時に、「ルネサスを買収する予定だったが、フェアではないやり方で買えなかった」とポロリと漏らした。この「フェアではない」という指摘は、ルネサスを「生かさぬよう、殺さぬように」と考えていたトヨタや日本経団連が邪魔したというのが筆者の見解だ。
その点については24日に公開した記事「日本の半導体産業が育たなくなったのはトヨタのせいだ」で論じている。