プーチン政権がウクライナ侵攻を続ける中で、ロシア国内での言論統制を強め、反プーチン運動や反戦機運が広がらないよう目を光らせている。
ロシア通信監督庁はロシア軍がウクライナ全土への攻撃を始めた24日、国内メディアに通達を出して、政府などの公式情報以外は情報源として用いないよう求めた。
一方で、独立系メディアはこの通知に逆らい、ウクライナ側の情報や見解も報道しており、今後、ブロックされる可能性も高い。自由なメディアを抑え込み、大本営発表のみを報じよ、と命じるプーチン政権の姿勢は、「真実」や「事実」の拡散を恐れていることの裏返しでもある。
独立系メディアに“スパイ”の烙印
ロシアの独立系メディア「ドシチ」(ロシア語で雨を意味する、@tvrain)はウクライナ危機が本格化してから、SNSで精力的な情報発信を続けている。
公式ツイッターには刻々とアップデートされる首都キエフの被害状況、国際社会の動き、そして、ウクライナ語で国民に呼びかけるゼレンスキー大統領の動画メッセージなどがあがっている。
ДАННОЕ СООБЩЕНИЕ (МАТЕРИАЛ) СОЗДАНО И (ИЛИ) РАСПРОСТРАНЕНО ИНОСТРАННЫМ СРЕДСТВОМ МАССОВОЙ ИНФОРМАЦИИ, ВЫПОЛНЯЮЩИМ ФУНКЦИИ ИНОСТРАННОГО АГЕНТА, И (ИЛИ) РОССИЙСКИМ ЮРИДИЧЕСКИМ ЛИЦОМ, ВЫПОЛНЯЮЩИМ ФУНКЦИИ ИНОСТРАННОГО АГЕНТА pic.twitter.com/IsullwTt1f
— Дождь (@tvrain) February 26, 2022
しかし、その都度、ツイートにはロシア語の大文字であるメッセージが付け足される。情報によっては、目立つように真っ黒な背景に白字のメッセージの画像が添付されることも多い。メッセージにはこう記されている。
この情報は、『外国のエージェント』が『外国のエージェント』から請け負われたロシア法人によって、作られ、広められている。
ロシア当局がSNS上で特別にドシチにつけている但し書きだ。「外国のエージェント」とはソ連時代から使われた用語で、敵対国に情報を流すスパイを意味する。蔑むニュアンスも含まれており、ある種のレッテル貼りに用いられている
当局側「公式情報こそ信頼、正確」
ドシチは2010年にオンライン放送を行う独立系メディアとして活動を開始。プーチン政権の監視を客観的な立場で行っており、昨年、贅沢の限りをつくした「プーチン宮殿」(下記動画)を告発した反政府活動家ナワリヌイ氏の主張も伝え続けてきた。
ロシア通信監督庁はウクライナ侵攻が始まったのと同時に、さらに手を打った。24日の通知では、未確認で信頼性の低い情報が出回っているとして、マスメディア法に基づき、国内の全メディアに対して、ロシア当局の公式情報のみ、ニュースソースとするよう要請した。
さらに、通信監督庁は政府や軍が発表する公式情報こそが「信頼があり、正確なのだ」として、ネット上で虚偽の情報が広まった際はそのニュースソースを即座にブロックすると警告している。
通知の効果はさっそく現れている。ドシチに掲載されているような情報は、ロシアの公式メディアには一切報じられていない。英BBCやドイツの国際公共放送DW(ドイチェ・ウェレ)などの西側メディアがロシア語版サイトを作っているため、完全に封じ込められているわけではないが、ウクライナ発の情報のほとんどはロシア国民にはシャットアウトされるか、「まゆつば」ものとして扱われているのが現状だ。
フェイクニュースが、欧米や日本のような国々の論理とはまったく違う意味で、プーチン政権にとって都合の良い解釈でまかり通り、独立系メディアの信頼を落とす意味で使われている。
「外国のエージェント」に指定されているのは、バルト三国の一角ラトビアの首都リガに拠点を置き、ロシア語で情報を発している独立系メディア「メドューサ」もある。自由を求めてプーチン政権の言論統制を逃れ、拠点を海外に移したジャーナリストが、ロシア国内のニュースソースを頼りに、精力的な活動を続けている。
「この情報は『外国のエージェント』によって広められている」とのメッセージはもちろん、メデューサの公式ツイッター(@meduzaproject)の情報にも表示されるが、メデューサの公式サイトのニュースにも表示される。
読者の「いいね」が少ない恐怖の理由…
公式サイトのドメイン「.io」は英国領インド洋地域を指すが、ロシア通信監督庁はネット上の検閲追跡拡張機能を使って、ロシアのさまざまな公的機関を訪れたユーザーのトラフィックの情報を使って、メデューサに行き着く経路を特定。外国に拠点を置くメディアにも「スパイ」の烙印を押している。
「ドシチ」も「メデューサ」もロシア人にとっては客観的に情勢を判断するための貴重な情報源なのに、リツイートや「いいね」を押している多くは外国にいるユーザーたちに限られている。ロシア通信監督庁は警告を無視して情報発信を続ける独立系メディアのフォロワーや読者も監視しているとみられる。
ロシア国内のユーザーたちのリツイートや「いいね」の件数が少ないのは、それだけ当局の取締りを恐れていることの現れだ。
ロシア軍は軍事手段と非軍事手段を組み合わせた「ハイブリット戦」の手法を使い、ウクライナを攻撃し続けている。こうした国内の言論統制の強化も、侵攻を継続するうえで重要な作戦の1つと言えるだろう。