2021年12月10日。新型アルトの発表会の席上、鈴木俊宏社長は、初代アルトに当時の鈴木修社長が47万円という破格の値段を付けたことに触れ、新型アルトの94万3800円という価格(※A・2WD)が、当時の47万円に比肩するものではないか、と発言しました。
本稿を執筆してくれた自動車評論家、渡辺陽一郎氏が詳述してくれているように、大卒初任給をベースに1979年の47万円を今の貨幣価値に換算すると94万4000円。鈴木社長の発言は妥当かつ、しかも安全装備へのコストが上昇しているなかで考えれば、素晴らしいコストパフォーマンスだと表現しても差し支えないでしょう。
ただ、そうは言っても、(100万円を切るクルマを目の前にしても)厳しいお財布事情の昨今。今回はそれでもなんとかしてクルマが欲しいという人に向けて、ただ安いだけじゃない、年収200万円台の人でも買える価格と装備を両立させた「コスパのいい」軽自動車、ご紹介します。
文/渡辺陽一郎
写真/SUZUKI、DAIHATSU、HONDA
■コスパNo.1:スズキアルト A(94万3800円/CVT)
クルマの購入予算を抑えたい場合、中古車を選ぶユーザーも多いが、新車も魅力的だ。新車は誰にも使われていないから、キズや汚れがなく、他人が運転したことによるクセも付いていない。
しかも設計が新しいから、進化の著しい安全装備も最先端の内容が備わる。安全なクルマが欲しいユーザーにとって、新車を選ぶメリットは特に大きい。
ただし新車は当然ながら価格は高い。そこでなるべく少ない予算で購入できる新車について考えたい。候補は軽自動車から挙げる。軽自動車は価格が安いだけでなく、税金や燃料代など、購入後の出費も抑えられる。そのために割安度がさらに強まる。
低価格の車種とグレードを推奨するが、衝突被害軽減ブレーキなどの安全装備はなるべく多く装着したい。安全性はクルマにとって一番大切な性能で、先に述べた通り、安全なクルマを選べることが新車を買う大切な魅力になるからだ。
軽自動車の割安度で1位になる車種は、2021年12月にフルモデルチェンジを行ったアルトだ。ベーシックなAは94万3800円の低価格だが、安全装備は本格的だ。
衝突被害軽減ブレーキのデュアルカメラブレーキサポートに加えて、車庫入れなど、低速で後退している時に衝突被害軽減ブレーキを作動させる後退時ブレーキサポートも備わる。車線逸脱やふらつき警報機能、運転席/助手席/サイド/カーテンエアバッグなども標準装着した。
実用的な快適装備も、キーレスエントリーやパワーウインドウを標準装着する。上級グレードと比べて劣るのは、電動格納式ドアミラーの非装着程度だ。これだけの内容で、価格が94万3800円であれば、とても割安だ。
ちなみに初代アルトは、1979年に47万円の低価格で発売され、ヒット作になった。大卒初任給をベースに、1979年の47万円を今の貨幣価値に換算すると94万4000円になる。つまり初代アルトの貨幣価値は、現行アルトAの価格と合致するのだ。今の大卒初任給は、1979年の約2倍に相当するので、この計算が成り立つ。
初代アルトの装備は簡素で、エアバッグや4輪ABSなどの安全装備は一切装着されていなかった。パワーステアリングも非装着で、エアコン、時計、ラジオなどはオプションだ。左側の鍵穴まで省いていた。
一方、ほぼ同じ貨幣価値で販売される現行アルトAは、前述の通りフル装備になる。表現を変えると今のアルトは、47万円だった初代モデルに比べると、装備が大幅に充実した分だけ格安だ。超絶的な買い得車になっている。
そしてアルトの歴代モデルを振り返ると、現行Aのようなベーシックグレードは、いつの時代でも「1979年の47万円」に相当する価格で設定されていた。「なるべく安く新車を買いたい」と考えるユーザーのために、アルトは常に同程度の経済的な負担で、機能や装備を時代に応じて進化させていった。
そのために「1979年の47万円」に相当する歴代アルトを時系列で見ていくと、軽自動車の、というよりも日本のベーシックカーの歴史が分かる。
アルトAの購入予算は、94万3800円の車両価格に、税金や自賠責保険料を加えて約105万円になる。5年間の残価設定ローンを利用する場合は、頭金のない均等払いで、月々の返済額は1万5600円だ。
なおアルトAは、マイルドハイブリッドを搭載しないが、WLTCモード燃費は25.2km/Lと優れている(マイルドハイブリッドは27.7km/L)。
空間効率の優れたプラットフォームによって車内は広く、身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ2つ半とタップリしている。足元空間の前後方向の余裕は、ハリアーやCR-Vと同程度だ。
後席の座り心地は、座面の奥行寸法が短く快適性を妨げているが、長時間の移動でなければ大人4名が乗車できる。つまりアルトAは、ファミリーカーとしても使えるから、低価格で新車を買いたいユーザーには推奨度が最も高い。
■コスパNo.2:ダイハツミライース B・SAIII(92万6200円/CVT)
2位はミライースB・SAIIIだ。アルトAのライバル車で、衝突被害軽減ブレーキを作動させるスマートアシストIIIを標準装着して、価格を92万6200円に抑えた。
アルトAと違って、サイド&カーテンエアバッグなどは標準装着されない。そのために価格が1万7600円高くてもアルトAが割安だが、ミライースB・SAIIIも、低価格で新車を買いたいユーザーには有力な候補になる。
ミライースB・SAIIIのWLTCモード燃費は25km/Lだから、アルトAとほぼ同じだ。後席の足元空間はアルトよりも少し狭いが、大人4名の乗車は妨げない。
安全装備や乗り心地の違いも含めると、アルトAの推奨度が高いが、ミライースB・SAIIIも価格を100万円以下に抑えた軽乗用車では注目される。アルトと比べて検討したい。
■コスパNo.3:スズキワゴンR・FA(116万3800円/CVT)
アルトとミライースは、全高を立体駐車場が使いやすい1550mm以下に抑えて、価格が100万円以下のグレードも用意する。「低燃費と低価格」という軽自動車の本質を突いたが、今の売れ筋は背の高い車種になった。
人気が特に高いのは、N-BOX、スペーシア、タントなど、全高が1700mmを超えるスライドドアを装着したタイプだ。
このタイプの届け出台数は、軽乗用車の半数以上を占めるが、価格も高く大半のグレードが140万円以上になる。
そこで軽自動車で3番目に割安な車種として、ワゴンR・FAを選んだ。衝突被害軽減ブレーキを作動できるデュアルセンサーブレーキサポート、後退時にも衝突被害軽減ブレーキを作動させる後退時ブレーキサポートなどを標準装着して、価格は116万3800円だ。
ワゴンR・FAの価格は、アルトAよりも22万円高いが、全高が1650mmのボディによって車内は広い。後席には左右独立式のスライド機能が備わり、後席の左側にチャイルドシートを装着した時は、前側に寄せると便利だ。
運転席に座る親との間隔が縮まり、信号待ちの時などに子供のケアをしやすい。この時に後席の右側は、左右独立スライド機能を活用して後端まで寄せると、大人がゆったりと座れる。
さらに後席を畳むと大容量の荷室になり、助手席の下側には大容量の収納ボックスも装着した。荷物を積みやすく、小物類の整理もしやすい。ワゴンR・FAには、電動格納式ドアミラーなども標準装着されるから、アルトAに比べて22万円高くても納得できるだろう。
■コスパNo.4:ダイハツムーヴ L・SAIII(120万1200円/CVT)
価格が120万円を超えるものの、ムーヴL・SAIIIも割安だ。全高が1630mmのボディにより、タントほどではないが車内は広い。ワゴンRに比べてシートアレンジの種類は少ないが、後席の左右分割スライド機能などは装着されている。
そしてムーヴの注目点は、スタビライザー(ボディの傾き方を制御する足まわりのパーツ)を全グレードの前後(4WDは前輪側のみ)に備えたことだ。足まわりの挙動が制御され、走行安定性と乗り心地のバランスも優れている。
特に路面にウネリのある場所を通過した時など、ムーヴはスタビライザーを装着しないワゴンR・FA(2WD)、アルト、ミライースなどに比べて挙動の収まり方が良い。
この優れた走行安定性も、安全性を高める大切な要素になる。荷物の積載性やシートアレンジで、ムーヴに際立った特徴はないが、走りを含めて基本性能が良好だ。セダン的な価値を備える軽自動車に仕上げた。
ムーヴで注意したいのは、2022年にフルモデルチェンジが予想されていること。軽自動車は競争が激しく、装備を充実させない限り値上げはできないので、ムーヴの割安度は維持される。
むしろベーシックなグレードにもサイド&カーテンエアバッグを標準装着して、価格の上乗せを抑えるなど、次期型は現行型以上に買い得になる可能性も高い。従って可能であれば、次期ムーヴを選びたい。
■コスパNo.5:ホンダ N-WGN・Gホンダセンシング(129万8000円/CVT)
価格は130万円弱まで高まるが、N-WGN・Gホンダセンシングも、価格の割安な軽自動車だ。乗り心地は価格の割に上質で、操舵に対する反応は少し鈍いが、後輪の接地性は高い。軽自動車ながら、高速道路での安心感も高い。
車内は広く、特に後席の足元空間はタップリしている。後席のスライド位置を後端まで寄せると、身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ3つ半に達する。後席のスライド位置を前側に寄せると、車内後端の荷室を拡大できる。
さらにN-WGNは燃料タンクを前席の下に設置するから、荷室の床面地上高は490mmに抑えられ、ほかの車種に比べると100mm以上も低い。荷物を高い位置まで持ち上げる必要はなく、荷室高にも余裕がある。専用のボードを活用すると、荷室を上下2段に分けて使うことも可能だ。
後席の下側には、幅が約1mのワイドなトレイも備わり、傘などを収納しやすい。さらにサイド&カーテンエアバッグ、エアコンのフルオート機能などがGホンダセンシングにも標準装着されるので、価格が129万8000円でも、それに見合う機能と満足感が得られる。
以上のように軽自動車には、予算に応じて選べる買い得車が豊富に用意されている。
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