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 今回のバス停散策は西鉄バス北九州の2つの停留所を取り上げる。この2つのバス停は直線距離で1kmくらいだが直接結ぶバス路線はない。あえて歩いてみると不自然な歩道が所々にあり、この歩道が世界遺産世界遺産「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」に登録されている稼働中施設をつなぐ道であった。そんな道を歩いてみた読み物記事だ。沿線風景の多くは画像ギャラリーに収録した。

文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)


スタートは福岡県中間市

 スタートはどちらからでもいいのだが、便数が少ない方からスタートした。ちなみにどちらの停留所も西鉄バス北九州香月営業所の管内で、香月営業所所属のバスが多く来るが、双方の路線は香月営業所でしか接続していない。今回のスタートは「通谷団地口」停留所だ。福岡県中間市に所在する。

かつては高速バスも停車した通谷団地口バス停

 最寄りの鉄道駅は筑豊電鉄の通谷電停でバス便は毎時1本程度しかないが、徒歩で来ることも可能。ほかの鉄道駅は筑豊本線の中間駅や筑豊電鉄の筑豊中間電停に接続する筑鉄中間停留所からのバス便もあるが、非常に少ない。

 この停留所はかつて「中間高速」と通称され後、正式に「なかま号」と命名された福岡行きの高速バスが停車していた。なかま号は人が乗っていないわけではなかったのだが、おそらく乗務員不足のあおりを受けて早々に廃止された。

今回の取材区間概略図(西鉄バス北九州の路線図を加工)

 高速路線廃止後は救済のため「高速千代ニュータウン」で既存の高速バスに接続する「N番」が運行されていたが、乗り換えの不便さと便数が少なかったのでこれも早々に廃止された。

 現状で中間市内から福岡へ行く一般的なルートは、筑豊本線の中間駅から折尾駅を介して鹿児島本線で行くしかない。天神であればさらに地下鉄に乗り継ぐ必要がある。

坂道がひたすら続くが……

 バス停から少し通谷電停の方に行くとカーブする上り坂が見える。この坂を登っていくとカーブの出口あたりから、急に広い歩道が設置されている。

 道路自体は2車線で坂の途中までは、この道路が中間市と北九州市八幡西区との境界になっている。まさか4車線に拡幅するための用地とは思えない。坂道を登ってくと途中から完全に北九州市になる。

通谷団地口バス停付近から登ってきた坂を振り返ると右が車道で左が歩いてきた歩道

 坂のサミットではこの広い歩道が反対側に付き別の道路と合流して、また元の側に歩道が戻る。そして下り坂になると車道とは完全に分離して、歩道だけが急に狭くそして強烈な上り坂に変わる。舗装も怪しくなる。この急な坂道は歩道のみで車道は下を抜けている。

今度は強烈な下り坂!

 この舗装の怪しい坂道を登りきると眺めが急によくなる。そしてさらに急な下り坂になり、続く歩道はまた広く車止めがありこちら側から車は入れない。そして車道になり、目的の2つ目のバス停付近に到着する。

急に細くなった坂道を登りきると急な下り坂でその先は車止めがありこちら側から車は入れない

 2つ目のバス停は「愛宕神社」で、左右を横切るバスが通る道路は香月営業所と黒崎方面を結ぶ2つのメインルートの1つになっていて、バスの便数は比較的多い。朝は小倉行きの都市高速経由のバスが通る。

この怪しい歩道の正体は?

 怪しげな歩道はバス通りを越えてさらに進むと川に突き当たる。金山川だ。この河川は二級河川で北九州市の帆柱山から鹿児島本線折尾駅付近の堀川に注ぎ込み、最終的には洞海湾に流れる。件の歩道はここで終わり金山川を渡る橋はここにはない。しかし大きな金属製の管が歩道から突き出て金山川を渡っている。

愛宕神社バス停からは黒崎方面のバスが比較的多くある

 この歩道としては全体的に異様に広く、車道とは完全に分離された道は正確には日本製鉄(元の官営八幡製鐵所・後の新日鉄や新日鐵住金)の私道である。もちろん並行する車道は中間市道や北九州市道である。

 この歩道の下には送水管が埋められており、歩道はその保守管理用だ。普段は管理用の道を歩道として開放しており、意識することなく人が歩いている。

稼働中の世界遺産を結んでいる!

 この送水管の出発地点は遠賀川水源地ポンプ室 (中間市)で、明治42年に建造されたレンガ建てのポンプ施設だ。遠賀川から取水した水を養福寺貯水池まで送水し、貯水池から製鉄所に水を供給している。

 ポンプ室は現役でもちろん現在では蒸気機関ではなく電気ポンプで送水しているが、このポンプ室は世界遺産「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」に指定されている稼働施設だ。

金山川に突き当たると送水管の橋だけがあり管理は市でも河川事務所でもなく日本製鉄

 そして送水された水は、最終的には同じ世界遺産の施設が多く集まる日本製鉄九州製鉄所内に送られている。よってこの歩道は2つの登録された世界遺産を結ぶ送水管の上にある。

 ポンプ室も製鉄所も現役で活躍している施設内にあるので、通常は公開されていない。しかしこの歩道はだれでも歩くことができるのでおススメだ。

 これら2つの停留所を結ぶ経路は、細く古い歩道を除いては30年くらい前までは森と谷で道路や住宅はなかった。現在ではこの区間は谷が埋められ車道ができ、同時に送水管が通る歩道を連続的に歩くことができるので選択してみた。

 愛宕神社バス停からは黒崎インター引野口や西鉄黒崎バスセンターで、高速バスや鉄道に接続できるので便利だ。

見極めはマンホールで!

 これらの歩道と並行車道の一番の違いはマンホールなので、通行の機会があれば確認していただきたい。車道や北九州市道になっている道路のマンホールは北九州市の市章がデザインされているが、歩道には旧新日鉄のロゴが描かれているのですぐにわかるはずだ。

旧新日鉄のロゴマークが入ったマンホール

 中間市内のバス路線と北九州市の路線を徒歩連絡で乗り継ぐ必要はあまりないだろうが、世界遺産をつなぐ道として歩いてみてはいかがだろうか。なお愛宕神社バス停から黒崎方面のバスに乗ると養福寺貯水池の脇を通るので、地図アプリで見れば遠賀川から送水されている距離感がつかめることだろう。

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