2021年から2022年にかけてホンダは販売車種の再編を進め、かつて時代を築いた名車たちもひっそりと姿を消すことになった。その理由はさまざまだが、それぞれが自動車史の中で大きな意味を持ったクルマであったことは間違いない。
今回は、惜しまれながらも生産終了が決まったホンダの5車種を振り返ってみよう。
文/入江凱、写真/ホンダ、トヨタ
【画像ギャラリー】姿を消すには惜しすぎる! ホンダの名車たちをもっと見る(14枚)画像ギャラリーハイブリッドカーの可能性を追求した「インサイト」
初代ホンダ インサイトは1999年、ライバルとなる世界初の量産型ハイブリッドカープリウスの発売から2年後に販売が開始された。
当時の開発目標は「低燃費世界No.1」。その目標を達成するため、世界初の量産アルミボディを採用したNSXの経験を活かした新骨格軽量アルミボディ、「まず第一に空力ありき」と言われるほどエアロダイナミクスを追求したスタイリングを採用。その言葉通り、量産ガソリン車で当時世界No.1の低燃費35km/L(10・15モード、5速MT車)を実現した。
ファミリーユースを想定したプリウスに対して、走る楽しさと環境性能の両立を目指したインサイトは、2シーター、リアホイールスカートなどを採用し、よりスポーティなハイブリッドカーというアプローチで、ハイブリッド車の新しい在り方を開拓した。
今回生産終了が決まった現行のインサイトは、2018年に登場した3代目モデル。「時代に流されないクルマの本質的な魅力」を追求した上質なミドルセダンへと変貌を遂げたモデルだ。
シンプルながら上品な内外装、1.5リッター DOHC i-VTECエンジンと、モーターによる駆動を基本としながら、シチュエーションに応じてエンジンを始動するシステム「SPORT HYBRID i-MMD」の組み合わせ、安全運転支援システム「ホンダ センシング」を標準装備するなど、走り、デザイン、安全装備など、すべてにおいて抜かりなしの出来だった。
その結果として価格は335万~372万円と、初代の210万円、先代となる2代目の189万円~221万円と比較して大きく値上がりしている。
この割高感が仇となったのに加え、昨今のセダン人気の低迷も追い打ちとなり、販売状況は決して好調なものとは言えなかった。そして遂に、2022年をもって国内での販売終了が発表されることとなってしまった。
RAV4とともにクロスオーバーSUV市場を盛り上げた「CR-V」
CR-Vは1995年、初代オデッセイに続いて「生活をより楽しく大きく豊かに広げていけるクルマ」を目指した「クリエイティブ・ムーバー=生活創造車」の第2弾として登場した。
車名の由来はComfortable(快適な)、Runabout(自由に走り回る)、Vehicle(乗り物)の頭文字を取ったもので、セダン同等の快適性能、ワゴン並みのユーティリティスペース、クロカン4WD車に匹敵する機動性のすべてを満すことを目指して作られた、なんとも贅沢なクロスオーバーSUVだった。
特に話題となったのは、ステッキ式のパーキングブレーキを採用することで実現したセンターウォークスルー。また、フルフラットにもできる多彩なシートアレンジも好評を博し、ライバルであるトヨタ RAV4とともにクロスオーバーSUV市場を盛り上げた。
その後、三度のフルモデルチェンジを行ったものの、初代の販売台数には遠く及ばず、2016年には日本での販売を終了した。
2022年で生産終了が予定されている現行型の5代目は、海外での発売より2年も遅れて国内に投入された。ハイブリッドモデルに加え、専用開発のターボチャージャーを採用した1.5リッター直列4気筒 直噴DOHCターボエンジンを搭載したガソリンモデルを設定、CR-Vで初となる7人乗り3列シート仕様も用意されるなど、力の入った一台だった。
しかし、巻き返しはならず! 日本自動車販売協会(以下自販連)の乗用車ブランド通称名別順位(軽自動車および海外ブランドを除く)によると、販売開始された2018年8月以降、上位50車種の中にいたCR-Vは翌2019年7月には圏外へと姿を消している。
CR-Vが生産終了すると、ホンダのSUVカテゴリーでの選択肢はヴェゼルのみとなってしまうのはなんともさみしいかぎりだ……。
絶妙なサイズ感で安定した人気を誇った「シャトル」
シャトルの大きな魅力は、5ナンバーサイズの扱いやすいサイズ感と最小回転半径4.9mという取り回しの良さ(現行プリウスの最小回転半径が5.1~5.4m)だ。それに加えて、ホンダの特許技術であるセンタータンクレイアウトによる広い車内空間と、リアシートを倒すことで最大荷室幅184㎝にもなるフラットな荷室など、スペースユーティリティの高さも魅力のひとつ。
ハイブリッド車のパワートレインには1.5リッターDOHC i-VTECと1モーターハイブリッドシステム「SPORT HYBRID i-DCD」を採用し、マイナーチェンジ後の現行車ではカタログ値で34.4km/L(JC08モード)を記録するなど、燃費の面でも優れている。
現在ではステーションワゴンのシェアは、ミニバンやSUVに奪われているものの、シャトル自体の販売台数はそれほど悪いものではない。自販連の乗用車ブランド通称名別順位(軽自動車および海外ブランドを除く)でも2021年の通年で39位と上位50車種にランクインしている。
そんなシャトルが2022年に生産終了が予定されているのは、ホンダの2040年までにすべてのグローバルモデルの新車をEV、もしくは燃料電池車(FCV)化するという目標に向けての準備なのかもしれない。
今後、シャトルの後継となるモデルが登場する可能性も否定できないが、現状ではシャトルの代わりとなるモデルは見当たらず、シャトルの退場を惜しむ声も多く聞こえてくる。
ミニバンらしくないミニバンというオンリーワンの個性を持った「オデッセイ」
初代オデッセイは1994年にワンボックスカーの居住性とセダンの爽快な走りや快適な乗り心地を両立するホンダ初のミニバンとして登場した。
当時、一般的なワンボックスに見られた床下エンジンレイアウトを、乗用車と同じフロントエンジンレイアウトにすることで低床・低重心化に成功。低い車高でありながら広い車内空間と安定性を実現した。これが大当たり! ワンボックスらしくない、セダンのような感覚で乗ることができるミニバンとして、好調なセールスを記録した。
基本のアイデンティティである低床・低重心・低車高は引き継ぎながら世代交代を重ね、2013年、最終モデルとなる5代目オデッセイが発売された。
歴代モデルの中でも初となるリアスライドドアを採用し、車高は従来モデル比プラス150㎜の1695㎜に。上級ミニバンという立ち位置となったことから全体的な質感が高められ、タイプ別設定ではあるものの、2列目にはオットマン付きのプレミアムクレードルシートを設定、2016年にはハイブリッドモデルを導入するなど、5代目はオデッセイの既存のイメージを覆すような変貌を遂げた。
2020年11月にはエクステリアを含めた大規模なマイナーチェンジが行われるなど、安定した人気を維持していたが、2021年末のホンダ狭山工場の閉鎖に伴い生産終了。約27年の歴史に幕を下ろした。
ホンダの誇るフラッグシップモデル「レジェンド」
1985年、ホンダのフラッグシップモデルとしてレジェンドは誕生した。国内では当時高級車を取り扱っていたクリオ店の専売、北米で展開する高級車ブランド「アキュラ」の最高級モデルとして販売された。搭載エンジンは2.5リッター、ならびに2.0リッターの横置き90°V型6気筒SOHCエンジンの2種類が用意された。
1987年には、天然銘木の樟(くすのき)の中でも美しい木目の部分だけを厳選してコンソールに使用するなど、高級感を高めることにも注力された。
代を重ねるごとにエンジンの大排気量化が進み、2015年に登場した最終モデルとなる5代目はハイブリッド仕様のみとなり、3.5リッターV6 直噴i-VTECエンジンを搭載。
高性能モーターを内蔵した7速DCTと、車体後部に左右それぞれの駆動力を管理する2つのモーターを内蔵したTMU(ツインモーターユニット)、計3つのモーターを組み合わせたシステム「SPORT HYBRID SH-AWD」や、世界初となる歩行者との衝突回避を支援する「歩行者事故低減ステアリング」など、ホンダの誇る最先端技術が惜しむことなく投入された。
こだわりと技術に比例するように車両価格も上昇し、2018年マイナーチェンジ後のモデルでは約710万円にも達した。
セダンというカテゴリー自体の需要が落ち込むなか、高級路線を貫いたフラッグシップモデルの販売台数は振るわず、オデッセイ同様、2021年末のホンダ狭山工場の閉鎖とともに生産終了となった。
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