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 西日本鉄道(西鉄)は、2022年3月19日(土)に、一般路線バスのうち都市高速道路を運行する路線を中心に、11路線の一部区間の運賃の見直しを行うとともに、都市高速道路を運行する一部系統を廃止する。また3月1日から高速バスの一部区間の運賃改定や運賃制度を改定する。その内容と背景を記者のオピニオンを交えて考察する。

文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)


理由はコロナと運転士不足

 西鉄によれば新型コロナウイルス感染症の影響やバス運転士の不足など、さまざまな環境の変化に加え、公共交通利用客の減少する中で、持続的な公共交通サービスを提供するために実施するという。なお今回の運賃見直しは、国の認可を受けている運賃(上限運賃)の範囲内での値上げを実施する。

西鉄博多営業所から出庫するバスの列

 これは、どこのバス事業者でも事情は同じだろう。外出がままならず、仕事すらも在宅でできるようになると、レジャーや通勤という行動そのものがなくなってしまうことを意味する。

 完全なくなるわけではないにしても、減少すれば運賃収入は確実に減る。そして運転士不足は日本のバス事業者が抱える深刻な問題でもある。その考察は別稿に譲るが、どこの事業者でもバス路線が整理の対象になる主な原因が、乗客の減少と運転士不足にあると言っても過言ではないだろう。

運賃の見直し路線

 運賃の見直しについて、まずは都市高速を運行する路線のうち、一般道を運行する路線よりも下回る(割安な)運賃設定を行っている路線を、一般道を運行する路線と同等の運賃に見直す。

これは西鉄が都市高速道路を通行し郊外と中心部を速達直結するために積極的に行っている路線網だが、一般道経由のバスと同額にすることにより都市高速道路経由の路線を値上げするものだ。

福岡都市高速道路を走る路線バスは立席乗車可!

 次に他の公共交通機関等を意識して、割安に設定していた路線の運賃を見直す。これは国鉄が主な競争相手であった時代から現在に至るまで、長年にわたり鉄道対抗の運賃設定を行っていた経緯がある。今回の値上げにより過渡な競争合戦から手を引くことになる。

 すでにコロナや運転士不足で増便等の積極策が取れず、その体力もないことから、収益重視に舵を転じたことは容易に察しが付く。詳細な値上げ区間は省略するが、400・21/21A・210/220・21B・23/23Aの各行先番号が値上げ対象だ。

都市高速路線のうち一部を廃止

 都市高速道路経由の路線は、そのほとんどが一般道経由の路線が存在するが、利用の少ないと思われる都市高速経由路線が廃止される。一般道経由の路線はこれまで通り運行され廃止停留所もないので、影響は軽微だとの判断だろう。対象系統は500・501・502・507番の各行先番号だ。

西日本鉄道の高速車

高速バス運賃の改定

 高速バスについては、九州島内発着の高速バスの一部区間で運賃が値上げされる。例えば最も利用の多い福岡・北九州線の場合、天神・小倉間が現行1150円から1350円になる。

北九州都市高速道路を走る福岡・北九州線高速バス

 同区間では西鉄の高速バスの他にJR九州の鹿児島本線、JR西日本の山陽新幹線が選択できる。現行の博多・小倉間の普通運賃・料金の合計額は、山陽新幹線が自由席で2160円、鹿児島本線の普通・快速列車で1310円、特急列車自由席利用で1830円だ。

 高速バスが今のところ最も安いが、値上げされると最安運賃はJR九州になってしまうので、西鉄が長い間の競争で鉄道より運賃面で優位に立っていた状況が崩れることになる。いかに公共交通機関が受けた影響が大きかったかが分かる事例だろう。

フェニックス号はダイナミック・プライシング

 また、福岡・宮崎線(フェニックス号)では、ダイナミックプライシング運賃を導入する。これは需給によりあらかじめ決められた変動幅の中で運賃が変わる仕組みで、予約時に提示された運賃で購入することになる。

西鉄担当便のフェニックス号

 この方法はLCCではおなじみの運賃設定方式だ。WEB予約でクレジット決済もしくはコンビニ決済のみ適用されるので、これ以外の購入方法では最も高い運賃(6000円)になる。

 変動幅の下限は現行運賃(4710円)よりも安い3500円だが、上限が6000円で往復割引乗車券、各種回数券、割引運賃制度は全廃され、新設される65歳以上が利用できるシニア割(4500円)のみが割引運賃になる。よってWEB上の運賃をにらみながら予約することになりそうだ。

ペガサス号はカレンダー運賃

 一方、本州方面の福岡・岡山線(ペガサス号)はカレンダー運賃を導入する。福岡から倉敷駅7230円・岡山駅7540円の現行運賃から、倉敷と岡山を同一運賃としたうえで、6600円から9100円までの6区分で乗車日により変動する。

 カレンダー制運賃はダイナミックプライシングとは違い、購入タイミングに関係なく、乗車日が決まると運賃も決定するのでわかりやすい。

高速道路本線バスストップを発車する西鉄高速バス

 基本的には閑散月の平日が安いが3月の運賃カレンダーを見てみると、最も高額なS運賃の設定はないが、安い方の2区分D・E運賃もないので3月に限った話だと現行運賃よりも必ず高くなる。ちなみに往復割引は廃止される。

西鉄だけが苦しいわけではないが…

 記者のオピニオンではあるが、全体的に見てみると路線バスの基本運賃を値上げするわけではないので設定に苦心したのが見て取れる。しかし高速バスはかなり思い切った値上げ幅の区間もあり、西鉄の置かれた状況も見え隠れする。

小倉・福岡双方向に乗客が多い黒崎インター引野口停留所

 そしてバス事業者のリーダー的存在である西鉄が先陣を切って値上げに踏み切らないと、緊急度の差はあれども日本のバス事業が崩壊しかねない状況にまで陥っているのも背景にはあるのかもしれない。

交通機関に対する支援も検討すべき時か

 確かに利用者からしてみれば、コロナで苦しいのは国民一般も同じで今の時期に値上げなんてとんでもない、と言いたい気持ちはあるだろう。それでも終息まで待てず、終息しても利用者の回復が見込めない状況であれば、重要な足であるバスがなくなり不便を強いられるよりもマシと考えることもできる。

福岡・北九州線の高速なかたに号

 かつての護送船団方式が良いとは言わないが、2年以上もバスを遊ばせておく状況では民間企業が存立するのは難しく、国が支援してでも公共交通機関は守らなければならないのではないだろうか。

 緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などの過去に経験したことがない非常な社会情勢や、バス事業者を取り巻く状況が浮き彫りになった西鉄の運賃改定だ。

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