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ショッピングモール内にディーラーが? 店舗以外でクルマが売れる理由と存在意義

 株式会社トヨタオートモールクリエイトという会社を知っているだろうか。トヨタ自動車100%出資の会社で、ショッピングセンター内でオートモール事業を展開し、オートモール併設型商業施設を運営する会社だ。

 全国4カ所で事業展開し、現在は神奈川県のトレッサ横浜、岐阜県のカラフルタウン岐阜、大阪府のアリオ八尾内にある大阪トヨタ、埼玉県のイオンレイクタウンmori内にある埼玉トヨタモールを運営する。大型ショッピングモール内の一角に、トヨタ販売チャネルが大きなブース(店舗)を構えている様子は、非常に新鮮で驚きもある。

 なぜこのような形態で販売・サービスを行うのだろうか。一般的なディーラー店舗との違いを解説しながら、オートモール事業が販売・サービスに対する影響を考えていく。

文/佐々木亘
アイキャッチ写真/xiaosan@stock.adobe.com
写真/トヨタ自動車WEBサイトからのスクリーンショット、Adobe Stock

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全国に順次拡大? トヨタモールとは何なのか

ショッピングモール内で事業を行うトヨタモール。写真はトヨタモールがあるトレッサ横浜の外観イラスト

 クルマをきっかけにした新しい生活スタイルの提案、そして楽しさや驚きをユーザーへ与えるべく作られたトヨタモール。クルマ・モール・地域を繋げ「よろこび」を表現したCI(編注:コーポレートアイデンティティー)が、これまでの販売店の枠を超えた新事業体であることを感じさせる。

 これまで、ショッピングモールや商業イベントなどに販売店が出張して、クルマの展示・購入相談・試乗体験などを行うことは多かった。しかし、トヨタモールは一時的な「イベント」ではなく、ショッピングモール内で「事業」を行っていくという強い姿勢がみえる。

トヨタモビリティ神奈川 トレッサ横浜店(トヨタ自動車WEBサイトからのスクリーンショット)

 一例として、神奈川県のトレッサ横浜内にあるオートモールを紹介しよう。ここでは、トヨタオートモールクリエイトがデベロッパー・運営管理会社として、商業施設全体を取り仕切っている。

 2008年に開業し、2019年には来場者数が1億5000万人を突破。オートモール内では、年間約2000台を超える新車を販売している。また、車検や整備などのサービス利用は、年間に5万台を超え、買い物のついでにサービス利用ができる手軽さから、リピーターも多いという。

 ここにはトヨタカローラ神奈川、トヨタモビリティ神川、ネッツトヨタ神奈川、横浜トヨペット、神奈川ダイハツの5販社が軒を連ね、カー用品のジェームスやキーパーラボも並ぶ。クルマの購入から整備、カスタマイズまでがワンストップで完結するため、ユーザーの利用価値は高い。

 ショッピングモール内に入るテナント形式でも、事業としての熱さは同様だ。埼玉県のイオンレイクタウンmori内のトヨタモールには、埼玉県内のトヨタディーラー5社が集まり、サービスを広げている。イベントなども定期的に開催し、フラッと立ち寄れて、クルマに興味が湧いてくるスペースを作り上げているのは凄い。

 こうした取り組みは、MEGA WEBで行われていた動きを彷彿させる。

ショッピングモールへ出店する意味を問う! クルマは売れるのか?

 消費者の自動車ディーラーに対する敷居は、依然として高い。国道や県道などの主要道路沿いに軒を連ねる各社の販売店だが、入りにくさは感じるだろう。取材などで行き来に慣れている筆者でも、初めて入るお店では、結構な気を遣うのだ。一般のユーザーは、これ以上に息苦しさを感じるのではないだろうか。

 「入ったら、何か買わされる」「買う気もないのに、興味本位だけで入るのは失礼だよな」と、ディーラーを敬遠する動きは強くなり、さらにコロナによる接触機会を減らす動きが、ユーザーを遠ざける。販売店としては、顧客との接触機会を増やそうと、様々な策を練るが、こうした傾向が大きく改善するまでには至らない。

 トヨタオートモールに関しては、「ことのついで」という心理をうまく使い、ユーザーとの接触機会を自然に増やすための効果的な動きをしているように見える。

 車両販売やサービスの実績は、ほとんどが確率論だ。例えば、新車を買ってもらえる確率は2割ほど、自社客の車検入庫が8割、12カ月点検が6割5分、6カ月点検が5割もあれば御の字だろう。この数字に対して、どれだけの母数があるかが、結果(台数)を生み出す。

 筆者の体感だが、一般的なディーラーでは一日の来店組数が50組前後、そのうち7割程度(35組)はサービス入庫で、車両販売に関する来店は15組程度だ(これでも多い方だと思う)。先ほどの確率に、この数字を当てはめると、このお店では月(営業日数25日)に75台のクルマが売れる。大型店舗で営業マンは10~15名程度と考えると、一人当たり毎月5台の販売だ。

 先ほど紹介したトレッサ横浜の平均年間来場者数は1300万人を超える。組数にしても450万組以上だろう。このすべてがトヨタオートモールへ立ち寄るわけではないが、これだけの接触機会を持てるわけだから、車両販売もサービスも、数打てば当たる確率も高い。  

 さらにモール内のテナントであれば、一般的なディーラーに入るよりも敷居は下がるだろう。販売業にとって、集客力は生命線であり、大型商業施設という人が集まる場所へ、気軽に入れるお店をつくるのは、理にかなっている。トヨタオートモールは、自動車販売業が今抱える悩みを解消する、良い仕組みなのかもしれない。

ディーラー店舗以外でクルマは売れる?車両販売への影響は大きいぞ!

販売店がショッピングモールなどに出張して、クルマの展示・購入相談などを行うイベントから、そのまま販売に繋がることも珍しくない

 筆者も店舗外展示や販売会へ駆り出された経験がある。イベントでは、普段お店に来ないような客層と触れ合う機会があり、「じゃあ次はお店で会いましょうよ」と約束し、そのまま販売に繋がることも珍しくなかった。以前は、全国各地で地域内のトヨタチャネルが一堂に会し、「オールトヨタ○○フェア」といったものを開いていたものだ。

 クルマと触れ合う、クルマを意識する機会が非日常化している今だからこそ、日常的に利用するショッピングモールで、クルマのサービスを行うことは、大きな意味があるだろう。これまでの「当たり前」に縛られないトヨタオートモールの動きは、販売店再編が叫ばれ改革が続く今、中心的な動きになる可能性を秘めている。

 独立した「クルマを売る場所」ではなく、施設や地域に溶け込む形でクルマを届ける。トヨタらしさが前面に出た取り組みだ。こうした動きが一般化され、ユーザーの利便性と販売店の利益がともに高まることを期待したい。

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