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 かつて日本車や日本のクルマ好きにとっては嘲笑の対象だった中国車。しかし中国が世界最大の自動車市場となり、続々とオリジナルモデルが登場し、技術レベルが大幅に向上してから、笑っている場合ではなくなってきた。いま中国車はどの程度のレベルなのか。すでに日本メーカーは抜かれているのか。それともそんなことはありえないのか。中国車研究家が短期集中連載でお届けする第一弾、「中国の国営メーカー編」をお届けします。

文、写真/加藤ヒロト(中国車研究家)

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■パクり? 出火? 爆発? …それとも……中国車のイメージは? 

「中国車」と聞いた時、皆さんは何を思い浮かべ、どんなイメージを抱くだろうか。一昔前にニュースで取り上げられてお茶の間の笑いを誘った「とんでもないパクリ」だろうか、それともソースが怪しいブログで嘲笑の標的にされた爆発事故だろうか。

 イメージがどうであれ、現在の中国メーカーが製造する車たちはもう過去とはまったく違うことだけは声を大にして言いたい。クオリティや安全性、技術、デザインのどの点においても、日本車や欧州車と比較して遜色ないレベルにまで達している。

 そんな「中国車」だがメーカーは多種多様。BYDのように新技術を多く有する革新的なメーカーもあれば、息絶える寸前のメーカーもある。中国のモーターショーで威勢よくコンセプトカーをお披露目するも、その後、音沙汰がないブランドも多い。また三輪トラックにただモーターとバッテリーを与え、無理やり「電気自動車」として販売する弱小メーカーも存在する。事実「中国でEVが爆発!」のような見出しで取り上げられるクルマは日本でいう「乗用車」には該当しない電動カートや電動三輪車が大多数だ。

たしかに「よくわからない中国車」は、いまも存在する。ただし、数年前のそのイメージのままだと、とんでもないことになる…かもしれない

 また、中国の自動車事情を語る上で避けて通れないのが合弁企業の存在だ。中国は輸入車に高い関税を課しており、回避のために多くの外国メーカーは一部モデルを中国国内で生産してきた。合弁なしでは国内の生産は許可されない事情もあった。

 しかしこのルールは2018年にEVの生産に限って撤廃される。その後、段階的に2020年には商用車、2022年には全自動車において合弁が不要となる。緩和の背景にはテスラの中国進出が大きく絡んでおり、テスラはこのルール撤廃適用第1号、中国で初めて外資単独で国内生産を成功させたメーカーとなった。

 では、純粋な中国のメーカーはどのようなものがあるのだろうか。大前提として「国営メーカー」と「民間メーカー」に分類できるが、今回は国営メーカーを中心に紹介していく。国営メーカーの中でも「ビッグ4」と呼ばれるのが「第一汽車」「東風汽車」「上海汽車」「長安汽車」の四社だ。

■中国の自動車界に君臨する「ビッグ4」

●第一汽車
 その名の通り、中国で最初に設立されたメーカーで、毛沢東主導の「第一次五カ年計画」で1953年に誕生した。2021年2月に日本へ上陸した高級車ブランド「紅旗」も第一汽車のブランドの一つだ。2017年に新CEOの徐留平(じょ りゅうへい)董事長を迎えて以来、「新・高尚主義」というプランを打ち出し、数々の構造改革を進行中。その一つが「紅旗」ブランドの拡充で、それまでは主力となる超高級セダンしか無かったのが、現在ではEVやPHEV、FCVなど、紅旗の格式高い伝統を次世代へ継承するモデルを数多くリリースしている。

 日本上陸のきっかけとなった高級セダン「紅旗 H9」も彼が率いる第一汽車の下で誕生した。2020年8月に中国で正式発表され、その後12月にはUAE、2021年1月に韓国、そして2月に日本へ上陸。H9は今まで積極的に行われていなかった紅旗の海外展開を、大きく前進させるという重要な役割を担うモデルだ。

紅旗 H5 FCEV。2021年に開催された上海ショーに出品された燃料電池車
日本に上陸した紅旗 H9。2021年12月、日本第一号店となるショールーム「紅旗日本エクスペリエンスセンター」が大阪市浪速区のなんば駅近くにオープンした

 第一汽車は外国メーカーとの合弁も結んでおりトヨタとの「一汽トヨタ」の他にフォルクスワーゲン(以下VW)との「一汽VW」や、グループ下の「一汽アウディ」も中国で展開されている。

●東風汽車
 同じく国営メーカーの東風汽車は、元々は「第二汽車」という名前で1969年に設立されたメーカーだ。企業グループとしての名前は「東風汽車集団」であり、その下に別々の子会社から展開される各乗用車ブランド「東風風光」「東風風行」「東風風神」「東風小康」などを展開中。また、東風汽車はさまざまな外国メーカーと提携しており、プジョー・シトロエン、ルノー、キアと、日本勢だと日産やホンダと合弁企業を設立している。

東風汽車集団が展開するブランドの一つ、「風光」

 中でも特筆すべきなのが、日産との間に設立した「東風日産」だ。ここは日産車の現地生産のみならず、中国独自のブランド「ヴェヌーシア(中国名:啓辰)」も2010年から展開している。ヴェヌーシアの各モデルはごく一部を除き、日産のプラットフォームやエンジンを採用しており、どのモデルも元となった日産車の面影がどこか見て取れる。また、2015年には「e30」という日産 リーフの現地生産モデルをリリースしたのだが、事情を理解していないか、単に中国メーカーを叩きたいだけなのか、「パクリ車」といくつかのメディアで批判されたこともあった。

ヴェヌーシア T60。2019年の上海ショーに出品された

 2017年には東風日産傘下ではなく、大元の東風汽車傘下に入り、「脱・日産」化を進めることとなる。2019年には初の独自プラットフォームを採用したSUV「星」を発表し独自路線は順調かのように思えたが、結局2020年12月に再び東風日産傘下に収まることとなった。その証拠に、今までのモデルはリアのエンブレムが「東風啓辰」表記だったのが、2021年8月に発表された最新モデル「V-オンライン」では「東風日産」となっている。

ヴェヌーシア「星」。2019年の広州モーターショーで発表された

●上海汽車
 上海汽車は中国が当時の鄧小平国家主席の下で行った経済の対外開放の影響で外資と提携した最初の中国メーカーのひとつ。1984年にVWと提携したが、同時期に誕生した合弁は天津微型汽車とダイハツの「天津ダイハツ」、北京汽車とAMC(のちのクライスラー)の「北京ジープ」など、どれも中国自動車市場の大きな礎を築いた存在である。

 1950年代には小型セダンの開発に注力を注ぎ、紅旗に乗れるほど位の高くない政府関係者の専用車として「鳳凰」などをリリースした。1987年からはサンタナのノックダウン生産を開始し、2012年の生産終了までにおよそ350万台を上海で生産した。このサンタナは上海における自動車産業の発展、そしてドイツ車人気の定着に大いに役立った象徴的な存在である。

上汽フォルクスワーゲン サンタナ

 現在もVWとの関係(上汽VW)は継続中で、今でも上海の街中では多くのVW車を目にする。また米GM社とはシボレー、ビュイック、キャデラック車種の生産を行う「上汽GM」のみならず、五菱汽車と3社で出資した合弁企業「上汽GM五菱」も設立している。昨今話題となっている格安45万円EVである「宏光MINI EV」はこの上汽GM五菱が生産・販売するEVで、日本にもイベント展示用で輸入されたことで一躍注目された。

●長安汽車
 長安汽車は造兵廠に由来する。日清戦争を終えるための下関条約に清の全権大使としてのちに調印することになる李鴻章は1862年、上海に「上海洋炮局」を設立。その後数多くの改編と移設を経て、中華人民共和国成立後の1959年には「重慶兵工廠」となった。重慶兵工廠はウィリス M38A1(ジープ CJ-5の軍用版)から着想を得た「長江 46」を1958年に完成させ、中国人民解放軍用の軍用車として1963年まで1390台を生産。その後、長江 46の設計図や生産設備は北京の「北京汽車製造廠」へと移管され、あの有名な「北京ジープ」へと発展した。

長安汽車 CS75 PLUS
北京汽車が製造した中国人民解放軍用車両、BJ212(通称:北京ジープ)

 長安汽車は現在マツダ唯一の中国パートナーだ。マツダの合弁企業は第一汽車との「一汽マツダ」、長安汽車との「長安マツダ」の二つであったが2021年8月に中国事業の大規模な整理を実施。これにて約16年続いたメーカーとしての一汽マツダは終了、中国における生産は長安マツダに一本化された。

中国のマツダ

 また、長安汽車といえばスズキとのかつての提携なくして語ることはできない。スズキは1980年代に長安汽車と提携を開始以来、小型車の設計や製造に関するノウハウの技術供与を行った。1993年には「長安スズキ」を設立し中国におけるスズキ車の生産・販売を開始したが、2018年に保有していた長安スズキの株式を全て長安汽車に売却し合弁を解消させた。現在、長安スズキは長安汽車の完全子会社となり、鈴耀汽車に改称、エンブレムも変更して引き続き旧スズキ車の製造・販売を行なっている。

■そのほかにも国営メーカーあり

 これら「ビッグ4」以外にも北京汽車や奇瑞汽車、江鈴汽車など、多くの国営メーカーが存在する。売上では長安汽車や第一汽車より多い広州汽車はトヨタとの「広汽トヨタ」、ホンダとの「広汽ホンダ」、三菱との「広汽三菱」、日野との「広汽日野」など最も多くの日本メーカーと合弁を結んでいる。新エネルギー車(中国語:新能源車)にも注力しており、広州汽車のEVブランド「広汽新能源」だけでなく、各合弁企業からも新ブランドを設立して電動車の展開を行なっている。

広汽アイオン LX

 国営メーカーだけでこんなにも濃いメンツが揃っているというのも中国車の醍醐味と言えるだろう。これを民間メーカーにまで広げると、中国における自動車事情の「今」が見えてくるはずだ。国営メーカーよりも遥かに多く存在し、無限の特色を持つ民間メーカーの紹介は次に続く。

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