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 軍事にあまり興味がない人でも「イージス艦」という名前は聞いたことがあるだろう。北朝鮮のミサイル発射などに関連して報道されるなど、高い防空能力が特徴だ。

 日本の海上自衛隊では「こんごう型」「あたご型」「まや型」の8隻が導入されている。

 本稿では、イージス艦とはどのような艦なのか、またなぜ「最強の盾」と言われるのかを見ていくことにする。

文・イラスト/坂本 明、写真/海上自衛隊

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■水上艦艇の主力を担うのはイージス艦

 イージス艦という名称をよく聞くが、それは巡洋艦とか駆逐艦といった艦種のことではなく、イージス・システムを搭載した艦艇のこと。現在、イージス・システムは巡洋艦、駆逐艦、フリゲートに搭載されている。

 また正確にはアメリカが開発したイージス・システムを搭載する艦艇がイージス艦であり、アメリカ以外の国が開発したイージス・システムに似たようなシステムを搭載する艦艇はミニイージス艦と呼ばれる。ちなみにイージス(Aegis)とはギリシャ神話に出てくるあらゆる邪悪を払う盾のことだ。

 最初のイージス艦となったのは、1983年に就役したアメリカ海軍のタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦の1番艦「タイコンデロガ」。アメリカ海軍ではイージス・システムを搭載したタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦とアーレイ・バーグ級ミサイル駆逐艦が原子力空母とともに水上艦艇の主力を担っている。

アメリカ海軍のミサイル巡洋艦。スプルーアンス級駆逐艦をベースに、イージスシステムを搭載するよう設計されている

 日本の海上自衛隊でもイージス艦を運用している。

 海上自衛隊では「こんごう型」護衛艦4隻、「あたご型」護衛艦2隻、「まや型」護衛艦2隻を保有してイージス艦8隻体制を採っており、護衛艦隊の機動運用部隊の主力を担う。

 1993年に1番艦が就役した「こんごう型」護衛艦はアメリカ海軍のアーレイ・バーグ級をベースにして日本独自の運用要求を加えて建造された艦である。また「こんごう型」はアメリカ以外の国で初めてイージス・システムを搭載した艦艇となった。

 「あたご型」護衛艦は2007年から2008年にかけて就役したミサイル護衛艦で、「こんごう型」をベースにしてシステムの更新やヘリコプターの運用・搭載能力などを付加した艦になっている。

 2020年から2021年にかけて就役した「まや型」護衛艦は「あたご型」をベースにして機関方式に電気推進を導入、イージス・システムも最新のものに更新されている。

海上自衛隊では、現在イージス艦8隻の体制となっている

■イージス・システムとはどのようなものか

 1960年代末から1970年代にかけて、遠距離より多数同時に飛来する航空機や対艦ミサイルから艦隊を守る防空戦闘用の艦載武器システムとして開発されたのがイージス・システムである。

 その開発の要となったのがフェーズド・アレイ・レーダーの実用化で、さらにフェーズド・アレイ・レーダーと自艦や艦隊の装備する兵器をコンピュータと連結することで、効果的な対空戦闘を行えるようにしたのが始まりであった。

 正確にはイージス武器システム(AWS)と呼ばれるこのシステムはSPY-1フェーズド・アレイ・レーダー、戦闘指揮決定システム(C&D)、武器管制システム(AWC)、ディスプレイ・システム(ADS)、自己診断システム(ORTS)、ミサイル垂直発射システム(VLS)、スタンダード・ミサイル、射撃指揮装置、イルミネーター(ミサイルの終末誘導を担当する装置)で構成される。

 これによって遠方の敵航空機や対艦ミサイルを正確に探知できる索敵能力、状況や脅威度を迅速に判断対処するための情報処理能力、一度に多数の目標と交戦できる対空射撃能力をイージス・システム搭載艦に与えたのである。

イージス艦による戦闘のイメージ

 そして対空戦闘を担当するイージス武器システムを中核としてより広範囲な戦闘を行えるようにしたのがイージス戦闘システム(ACS)。イージス艦が搭載する戦闘システムの総称で、イージス・システムというと一般的にはイージス戦闘システムのことを指すが、本来はイージス武器システムのこと。

 イージス戦闘システムは、艦のすべてのセンサー(レーダーやソナー、敵味方識別装置など)や武器(対空兵器や対潜兵器、対水上兵器など)、通信データリンク、さらにはイージス艦が管制するヘリコプターや戦闘機までもシステムの中枢となるコンピュータと連結させた統合システムで、これによりイージス艦は対空戦闘のみならず対水上戦闘、対潜戦闘、対地火力投射さらには弾道ミサイル迎撃まで行える能力を有している。

■イージス艦、いったい何が凄いのか

 イージス・システムが優れている点はフェーズド・アレイ・レーダーの性能もさることながら、同時目標処理能力と対応時間の速さにある。

 レーダーを始めとするセンサー・システムにより探知した数百の目標(航空機、ミサイル、水上艦、潜水艦など)の中から脅威となるものを自動的に識別・選択し迎撃手段の選択までを行うのである。

 これによりイージス艦は、全方位の12個以上の空中目標に対して同時に攻撃を行えるほかに水上・水中にある脅威度の高い目標に対する攻撃力も有している。また敵の発見から攻撃を行うまでの時間が自動処理により大幅に短縮されているのだ。

 そして複数の目標への同時攻撃を可能にしたもう1つの装置はミサイル垂直発射システム(VLS)であった。船体に埋め込むように設置された発射機の中に、セルと呼ばれるケースに収納したミサイルを複数垂直に収納し、そのままミサイルを発射できるようにしたもので、これを装備したことで連続的にミサイルを発射することができるようになった。

 ミサイル垂直発射システムでは様々なミサイルを収納・発射できる。たとえば対空戦闘用ならスタンダードミサイルSM-2、対潜水艦戦闘用は垂直発射式アスロック、対水上戦闘用にはハープーン、対地火力投射にはトマホークなどという具合で、イージス艦を様々な戦闘に柔軟に対応できるようにしている。

 ちなみにイージス艦で戦闘の指揮・管制を一括して行うのはCIC(戦闘指揮所)である。

 イージス艦のCICは指揮・管制区画、戦術情報区画、対空戦区画、対水上戦区画、対潜戦区画というように分けられており、フェーズド・アレイ・レーダーを始めとする自艦のセンサーシステムからの目標データ、味方の艦艇や空中哨戒機からの戦術データなどを集中(情報は空中のミサイルや航空機、水上艦艇や水面下の潜水艦にまで及ぶ)してコンピュータにより処理、自艦の戦闘や艦隊全体の戦闘に必要な戦術情報を分配提供したり、戦闘の指揮・管制を行う。

 イージス艦は、単艦としての戦闘能力が高いだけでなく、艦隊の中核として、艦隊全体の戦闘力を高めることができる艦なのである。

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