もっと詳しく

毎日新聞が21日からはじめた「毎日新聞×Z世代プロジェクト」が波紋を呼んでいる。Z世代(1990年代後半から2000年代に生まれた人たち)を読者に取り込むために、新聞記事を「AIラッパー」がラップ調に仕立て、動画をTikTokなどのSNSに投稿する。動画のコメント欄に寄せられた意見を元にしたラップ調の「レスポンス動画」も制作していくという。

毎日新聞社プレスリリースより

同プロジェクトは、毎日新聞と博報堂DYメディアパートナーズの共同企画。毎日新聞は、同プロジェクトの狙いを「新聞離れが進む10~20代にSNSを通じて働きかけ、双方向型の新しいメディアの創造を目指す」としている。21日夜には、「理不尽な校則~~」と始まるブラック校則をテーマにした動画が配信された。毎日新聞によると、「今後は社会問題や文化などさまざまなテーマを取り上げる予定」という。

毎日新聞創刊150周年を記念した企画の一つだけに、同社のプロジェクトにかける思いは熱いようだ。「言いにくいことを言いやすく、聞きにくいことを聞きやすくする特性があるラップを通じて意見を発信するように促すことで、新聞の双方向性を高め、SNSを使いこなす若い世代と一緒に新しい時代のメディアを創っていきます」と決意を述べている。

「若者を馬鹿にしたひどい企画」

ただ、ネット上での反応は毎日新聞が期待したものとは違うようだ。現役新聞記者や元新聞記者を中心にツイッターには次のような疑問や辛辣な意見が数多く寄せられた。

毎日新聞社内に若者がいないからこのような若者を馬鹿にしたひどい企画が通るのでしょうね・・・提案する博報堂も愚か。内容を若者向けに磨き直すところから始めてください。手法を語るのは150年早い。

広告会社に払えるお金が少ないので企画が寒くなった説。

こんな会社勤めてるってバレたら恥ずかしくて死ねる

一般ユーザーの意見も似たようなものが大勢を占めた。

ラップ=若者?????

発想が平成なんだよな…

バカっぽいなー。記事で重要なのは正確と簡潔だろうに韻を踏む事が最優先されるのか

ラップって時点でもうおっさんか、それ以上だろう

東京・竹橋の毎日新聞東京本社(PhotoNetwork /PhotoAC)

発行部数は200万部割れ

また、近年の毎日新聞の経営状態を分析したうえで、「こんなプロジェクトにお金をかけている場合ではないのでは」といった意見も少なくなかった。

新聞業界全体がここ20年ほどで大きく発行部数を落としているが、全国紙の中でも毎日新聞の落ち込みは特に顕著だ。1970年代に400万部台だった毎日新聞の発行部数は昨年、200万部を割り込んだ。

当然、経営は悪化の一途を辿り、毎日新聞は昨年、資本金を41億5千万円から1億円に減資している。法律上は中小企業扱いとなり、法人税の軽減税率の適用や外形標準課税の対象外となる。結果的に毎日新聞は、大企業としてのプライドや信頼性より節税を選んだわけだ。

さらに、毎日新聞は昨年、大阪市にある「毎日新聞大阪本社ビル」を信託銀行などに譲渡する代わりに210億円の資金を借り入れた。また、2019年以降に、延べ数百人規模のリストラを行ってきたのも有名な話だ。

深刻な経営危機に陥っているにも関わらず、抜本的な経営改善ができないまま、安直に見える、なおかつ費用もそれなりにかかるだろうプロジェクトなどやっている場合か、という指摘は当然と言えば当然かもしれない。

Skathi /iStock

なお、TikTokのコメント欄では「音楽、流行りそうで草」「ラップ、カッコいいね!」など好意的なコメントが寄せられていたほか、動画をきっかけにブラック校則についての真摯な問題提起が多数寄せられていたことは付け加えておく。

TikTokの反応を見る限りでは、このプロジェクトで毎日新聞に興味を持つ若者が出てくる可能性もあるだろう。ただ、それがすぐに購読に結びつくかどうかは不透明ではある。TikTok以外のSNSやメディアではおおむね不評な同プロジェクトだが、苦境にあえぐ毎日新聞の起死回生の一手となるか。