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トヨタ・日産・ホンダ EV合戦前夜!! 国産BIG3のEV戦略を読み解く

 昨年(2021年)12月14日、「EVに消極的だ」という外野の声にブチ切れたかのように大胆な戦略と大量の発売予定車を公開したトヨタ。ここまで強烈ではなかったが、その前には日産とホンダも今後のEV戦略を発表している。

 EVをめぐる世界規模の本格的な競争が始まろうとしている今、トヨタ、日産、ホンダの「国産ビッグ3」はどう戦っていくつもりなのか。自動車評論家 鈴木直也氏が検証する。

※本稿は2022年1月のものです
文/鈴木直也、ベストカー編集部、写真/TOYOTA、HONDA、NISSAN ほか、撮影/三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY ほか
初出:『ベストカー』2022年2月10日号

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■トヨタ&レクサス

●2030年までEV事業に4兆円投資
●2030年にEVグローバル販売350万台
●レクサスは2035年EV専門ブランドに

■巨人トヨタがEVに舵を切った!

説明会会場で披露した16台にeパレット(右上)を加えた17台が勢揃い

 昨年12月14日に行われたトヨタの「バッテリーEV戦略に関する説明会」は世界的に大きな衝撃を与えた(と、ぼくは思っている)。

 当初、このイベントは2022年半ば発売のbZ4Xと、その姉妹車(bZファミリー)についての発表と予想していた。

 ステージの幕が切って落とされると、現われたのはbZ4Xを中心にプラス4台のEVコンセプトモデル。豊田章男社長が「本日はカーボンニュートラルにとって重要な選択肢となるEV戦略についてお話しします」と話し始める。正直この時点ではそんなに壮大な話が飛び出すとは思っていなかったのだ。

■2030年までに30車種のEV

 ところが、プレゼンが進むにつれて徐々に明らかになるバッテリーEV戦略のスケールがことごとく予想を超えている。

 2030年までに30車種のEVを投入して合計350万台を販売するという数字が出てきた時には、「え〜、5月の決算発表会ではFCV/EVで200万台って言ってたじゃん!」と思わずコーヒーを吹きそうになったし、レクサスが2035年にグローバルで100%バッテリーEV化するという話も初耳だ。

 さらに、ダメ押しの演出として、バックスクリーンの布がはらりと落ちると、そこには今後トヨタが発売する予定のEVコンセプトモデルがずらり11台ラインナップ。前列のbZファミリーと合わせて、ステージ上は16台ものEVコンセプトモデルで埋め尽くされてしまったのだ!

 「大半はモックアップでしょ?」とか冷ややかなことを言う人もいるけれど、世界中どこのモーターショーだってワールドプレミアのコンセプトモデルは1社あたり1台か2台。古今東西、こんな大量のコンセプトモデルをイッキに発表した例はない。ここまでやればさすがにトヨタの本気ぶりが理解できる。

 ところが、これもビックリなのだが、このトヨタの発表を「全体の3分の1程度のEV化では手ぬるい。トヨタはまだ電動化に消極的」と評価する声があるのだという。

 まぁ、トヨタと並ぶ1000万台クラブのVWは、2030年までに70種のEVを発売し全体の50%をEVにすると発表しているから、それに比べると数字的に見劣りするのは確かなんだけれど、こういう人は、2つの点で正しく理解していない。

■言ったことはやるトヨタ

例えば世界的メーカーFCAの2020年世界販売台数は343.5万台。トヨタが言うEV350万台というのはそのくらいのレベルだということだ

 ひとつは、トヨタがまんべんなく世界中にクルマを売っていること。欧州で100%、北米と中国で50%、日本で20%程度のEV比率が期待できるとして、そのトータルがほぼ350万台。東南アジアや中南米、中東などをあと10年やそこらでEV化しろといっても無理で、現実的にはこれが限界に近い数字なのだ。

 もうひとつ、トヨタは「できることしか言わないし、言ったことはやる」という体質の会社であること。たとえば、EV用バッテリーの調達といった核心部分でさえ、海外メーカーの多くはサプライヤー頼みでEV戦略を発表してしまう。アテが外れれば予定生産台数は絵に描いた餅だ。

 トヨタの生産システムでそんなことが許されるはずもなく、確実に調達可能な体制を整えた結果が「350万台」という数字。豊田通商を通じてリチウム鉱山の権益を確保するところから始めているというから、まさに用意周到。このへんが「トヨタはEVに消極的」と誤解されるひとつの要因ではないかと思う。

 いずれにせよ、巨人トヨタがついに本格的なEVシフトに向けて舵を切ったのは間違いない。ぼく的には40年を超える自動車ジャーナリスト生活で、記者発表としては最大のサプライズといえるイベントでございました。

■日産

●今後5年間で約2兆円投資(電動車全体)
●2030年度までに15車種のEVを投入
●全固体電池を2028年度に市場投入

 2030年度までに15車種のEVを含む23車種の新型電動車を投入するという長期ビジョンを発表した日産。これにより同時期までにグローバルでの電動車の販売比率を50%以上にするとしている。

 また、EVの実用性を飛躍的に向上させる全固体電池を2028年度に市場投入すると発表しているのもポイント。この全固体電池を使ったコンセプトカーも3車種公開している。

アリアと同じ「CMF-EV」プラットフォームと、緻密なモーター制御で性能を向上させる4WDシステム「e-4ORCE」を使用するクーペタイプのクロスオーバーEV。ステアリングを収納してくつろげる室内空間を実現するなど、クルマの新しい価値を探求している

 日産が発表した「日産アンビション2030」は、電動化に向け今後5年間で約2兆円を投資し、2030年度までに15車種のEVを市場に投入するという内容。

 あわせて新しいコンセプトカーを4車種披露したが、初代リーフから継続的にEVに注力してきた日産だけにそれほど目新しいものはなく、中期経営計画の発表という印象が強い。

 残念だったのは3車のコンセプトカーがCGだったことで、まさに絵に描いたナントカ。大半はモックとはいえ実車を16台も並べたトヨタの物量作戦がいかに凄まじかったかを逆説的に証明している。

 巨大な物量を誇る相手に、戦力を逐次投入していたのでは絶対勝てません。ホンダも日産も、EV戦略の練り直しが必須なんじゃないかなぁ?

■ホンダ

●今後6年間で5兆円投資(EV以外も含めて)
●2020年代後半に全固体電池市場投入を目指す
●2040年にEV、FCV専門メーカーになる

 2040年までに内燃機関の販売をやめ、EVとFCVのみにすると宣言しているホンダ。

 今年、中国でホンダ初のEVブランドとなる「e:Nシリーズ」を立ち上げ、その後中国を含む先進国でのEV、FCVの販売比率を2030年に40%、2035年に80%、そして、2040年に100%という計画だ。また、2024年に日本で軽EVを発売し、2020年代後半に全固体電池の投入を目指している。

中国e:Nシリーズのコンセプト3車は5年以内の市販化を目指す。これはクーペタイプ

 ホンダは2021年10月13日、日産は11月29日にそれぞれ重要な電動化戦略を発表したが、トヨタの発表を聞いた後ではどうしても印象が薄れる。

 まずはホンダの発表だが、タイトルが「中国電動化戦略発表会」とあるように、中国向け新型車は2030年以降すべてハイブリッドとEVにするというのがメイン。あわせて新しいEV専用ブランド「e:N(イーエヌ)シリーズ」を立ち上げ、5年間で10車種を新開発するという。

 この発表会ではe:Nシリーズ第一弾として、東風ホンダ向けの「e:NS1」と広汽ホンダ向けの「e:NP1」がデビューしたのだが、現行ヴェゼルをベースにEV化しただけだったコトに逆に驚いた。

 現在の中国EV市場は、テスラを中心に蔚来(ニオ)や小鵬(シャオペン)などの新興ベンチャー、そして低価格の宏光ミニなどがしのぎを削る激戦区。そこにヴェゼルベースのEVではねぇ……。

 この発表会ではe:NシリーズのコンセプトモデルとしてSUV、GT、クーペの3車も発表されたが、中国EV市場をリードするにはこのコンセプトモデルを来年発売するくらいの速度感が必要だ。

 4月の三部社長就任会見で衝撃の内燃機関撤退を発表しただけに、EVで世間をアッと言わせなければアブハチ取らず。

 そういう意味で、ホンダのEV戦略発表はあまりに中途半端な内容だったと言わざるを得ない。

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