ダッジは近々、マッスルカーの「チャレンジャー」と「チャージャー」をBEVのみで提供する予定だ。
ダッジのマッスルカー「チャレンジャー」と「チャージャー」は、まもなく電気自動車のみになる。悲しむファンもいれば、喜ぶファンもいるだろう。新着情報!
伝説の映画「バニシングポイント」
1970年代のアメリカで、新車の陸送を仕事としている男、コワルスキーは、請け負った「白の1970年型ダッジ チャレンジャー」の陸送で、翌日の午後3時までの15時間で、デンバーからサンフランシスコ(1,544km)まで到着させるという賭けをすることになった。コワルスキーの操る「ダッジ チャレンジャー」とポリスカーとのクレージーなバトルは、スティーブ マックイーンの「ブリット」と並んで、70年代初頭、クルマ少年たちが熱狂した伝説のアメリカンシネマだった。
あれから50年。コワルスキーならこのニュースを聞いてどう言うだろう? 50年前、彼がアメリカの砂漠を駆け抜けた伝説のモデル、「ダッジ チャレンジャー」のボンネットにV8が搭載されていない? 静かな電気駆動で、コーナーをドリフトするずっと前から来るのが聞こえた車がサイレントなクルマで? おそらくこの車では、コワルスキーは、サンフランシスコに向かうことも、デンバーから出発することもなかっただろう。
夢のマッスルカー
「ダッジ チャレンジャー」と「チャージャー」、それは何十年も前から、クルマ少年のためだけのロードムービーの夢だった。圧倒的なパワー、セクシーなデザイン、そのすべてが比較的安価に手に入る。この様々な楽しみのファンたちにとって、ダッジブランドのボス、ティム クニスキスによる発表は悪夢に聞こえるに違いない。2024年からは、クラシックカーはダッジの「eマッスル」と呼ばれるものに変わる予定だ。
マッスルカーはこれからも残る
少なくとも、ダッジの親会社、ステランティスが設計開発した電動プラットフォーム「STLA large」によって、クラシックマッスルカーの命が救われることになるのだ。遅くとも2035年までには、例えばカリフォルニア州では、内燃機関の自動車の新規登録はできなくなる。
ダッジ、2022年に初の電気自動車プロトタイプを公開予定
すでに今年、ダッジは最初のプロトタイプを見せたいと考えている。公式ビデオによると、60年代から70年代にかけて使用された「フラツォーグ」のロゴのもと、四輪を電動モーターで駆動するクルマが作られることが示されている。全輪駆動のマッスルカーはすでに存在しているものの、2年後には純電動のマッスルカーに変身という、カルチャーショックが待ち受けているのだ。
喜ぶファンの代表
だが多くのマッスルカーファンが悲しみ、大きなショックを受けている一方で、アンドリュー ピルスワースはまったく異なる反応を見せ、この事実を喜んでいる。「チャレンジャー」と4ドアの姉妹車「チャージャー」を最初にドイツに持ち込んだ人物は、「最新のeドライブは、これらのモデルの特別な長所をも道路にもたらすと確信しています」と、ヨーロッパ最大のダッジ輸入業者であるAECのボスは驚くべき判断を下すのである。そして、「最近のe-carはパワーも、場合によってはそれ以上の性能を発揮します」と続け、「また、停止状態から瞬時にトルクが得られるという利点もある」と語っている。
サスティナビリティ(持続可能)
さらに、これらのモデルは、自動車業界のサスティナビリティにも貢献しなければならないというのが、ピルスワース氏の意見だ。ダッジ自身の時代遅れのビッグブロックエンジンからの脱却を強調しようとしている。しかしデトロイトは、2024年以降、電気自動車の販売と併行して、クラシックな内燃機関のアメリカンマッスルカーだけは、現地で排ガス規制を行い、販売を継続するとしている。
止められない電化
ドイツの「チャレンジャーフォーラム」でも賛否両論の反応が起きている。フォーラムを主宰するフランク エッシュは、「現場の多くは電動化に懐疑的だ」と言う。しかし、200人のメンバーの内の多くのフォーラムメンバーは、どうせBEVの開発と移行は止められないと理解していて、「電気自動車でマッスルカーを作ること自体は問題ない。しかし、チャレンジャーやチャージャーの名前をそのまま使うのではなく、新しいモデル名でやってほしい」と願う。フォードの「マスタング マッハE」がその好例だ。
ステランティスのEプラットフォームは、最大800kmの航続距離を想定している。2024年にコワルスキーが計画しているデンバーからサンフランシスコへのロードトリップでは、チャレンジャーは3回充電すれば十分ということになる。ただしその場合には、高速充電器でなければならない。
アメリカンマッスルカーと聞いて連想するのは? タイヤスモークとか、腕っぷしの強い男たちとか、V8エンジンの野太い音とトルク、といったものだろうか。そんなアメリカンマッスルカーもついにBEVになってしまう・・・。アメリカの魂ともいえるピックアップトラックが内燃機関を捨ててBEVになるというニュース以上に、なんとも無情な情報ではあったが、それも仕方ない時代なのだろう。
おそらくBEVでも首がへしおれるような加速と、タイヤスモークは残るものの、V8エンジンのあの鼓動のようなものはもう期待しても無駄である。ひたすら滑らかで力強いパワーが、あの脈動のようなエンジンの代わりになるのかどうか、怪しい部分もあるが、速さでは圧倒的に勝利しそうな気もする。
こうなってくると、もはやHEMIという言葉も死語になってしまうし、ディスカバリーチャンネル「名車再生」の入れ墨メカニックたちは意気消沈かもしれないが、上記のレポートで一番興味深かったのは「デトロイトは、2024年以降、電気自動車の販売と併行して、クラシックな内燃機関のアメリカンマッスルカーだけは、現地で排ガス規制を行い、販売を継続するとしている」というくだりで、ちゃんと内燃機関もまだ生き延びるのではないか、と匂わせるような文章である。なんだかんだ言っても、メーカーの中にも「アメリカンマッスルカーの鼓動」を捨てきれない人たちがちゃんといるわけだ。
Text: Hauke Schrieber
加筆: 大林晃平
Photo: Dodge