トヨタの最高級ミニバン「アルファード」のレクサス版として、2019年の上海国際モーターショーで「レクサスLM」が世界初公開されました。その後、2020年に中国で発売開始。一時期「日本導入はあるか?」と話題になるもののトヨタ(およびレクサス)からの情報はいっさいなく、一時期「並行輸入業者がLMを販売開始」という話もあった。しかしあれから2年、LMが販売され国内で登録された…という話はいっこうに広まりません。あれだけ豪華であれだけ話題のクルマなのだから、お金持ちの間で流行してもいいはずなのに…。取材を進めると意外な理由と事情が浮かび上がってきました。以下、レポートします。
文/加藤久美子
写真/加藤久美子、加藤博人
■初代レクサスLM 中国では今も中古車3000万円
2019年4月の上海モーターショーにてワールドプレミアとなったLEXUS LM300hが、2020年2月に中国で発売されて間もなく2年になる。
中国本土ではアルファードが異常といえる人気を博しており、現在でも登場から5年を経てやっと(プレミア価格が付かないようになって)本来の新車価格に落ち着くほどだ。中国では中古車としての市場価値を「保値率」というが、アルファードは、中国で販売されるすべてのクルマの中で保値率ナンバーワンをキープしている。最大手の中古車情報サイトでは9万キロ走行のアルファード(2018年9月登録)が約1800万円という価格で掲載されている。
その大人気アルファードのレクサス版がLMで新車価格116.60-146.60万元(1元=18.18円で邦貨換算:2120~2665万円)のところ、2022年2月現在の中古車価格は162.00-192.00万元(2945~3490万円)とアルファードと同様、中古車価格もすさまじいプレミア価格となっている。
なお、中国では新車を買う場合、車両価格には「納車費用」なるものがプラスされる(他にも日本とは違う諸費用が色々ある)、これは各販売店によって価格を自由に設定できるので、アルファード/ヴェルファイアやLMなどの人気車種ともなれば、納車費用も高額になる。
またレクサスLMはアルファードやヴェルファイア同様、中国では生産をしておらず、すべて日本からの輸入車となるため、新車価格には関税(10%)も含まれている。
もともと超人気車種であるところに、今は半導体不足&コロナの影響で新車の輸入がままならない状況だ。納車費用や中古車価格が高騰するのも自然な流れだろう。
そのような背景もあることから、中国では相変わらずレクサスLMの人気が非常に高くなっているのだ。
そして中国で今、ひそかに行われているのがLMの「買い戻し」である。どこから? 誰から買い戻すのか? それはなんと日本の並行輸入業者である。
日本のトヨタ自動車から出荷されたLMは、中国に正規輸出されて各販売店で販売されるわけだが、そのLMを日本の業者が購入し、日本へ並行輸入という形で入って来たLMを、再び中国の販売店か輸入業者が買い戻しているという。
これはどういうことなのか。詳細は後述するとして、日本に並行輸入されたLMが今どういう状態にあるのか、まずはそこからレポートしていきたい。中国や台湾、香港などで販売が始まった数か月後くらいから輸入が始まっており、並行輸入でLMを輸入する業者が続出した。日本でナンバーをつけるべく試行錯誤していた業者も多かったと聞いているが……。
■並行輸入のLM 結局ナンバーはついたのか?
2020年時点で大きな話題となった並行輸入のレクサスLM。結論から先に書くと、台湾から輸入したLMは日本の保安基準を満たすことが証明され、(最初の1台に関してはかなりの時間と手間はかかったものの)ナンバーは取得できている。そして、外国大使館の公用車として、さらに一般オーナーへも数台が納車されているとのことだ。
「え? なんでそんなに大変? アルファードをベースに日本で製造された日本車なのに? 日本の保安基準を満たしているのは当然なのでは?」と思う方も多いと思うが、実際、これが非常に大変なのである。
簡単に言うと、並行輸入で日本に入って来たクルマがナンバーを取得する(=日本の保安基準をすべて満たす)ためには、そのクルマが販売されていた国が1958年に締結された国連の多国間協定である「車両等の型式認定相互承認協定」(以下、58協定)の締約国がどうかで大きく変わってくる。
そのクルマや部品が「どこで製造されたのか」ではなく、「どこ向けに販売されていたのか」が基準となってくるのだ。中国や台湾はこの58協定メンバーではないため、日本で製造したクルマであっても並行輸入(逆輸入)で日本に持ち込んだ場合、すんなりナンバーが取れるわけではない。
LMの場合、アルファードがベースであり共通部品が多いからまだマシなのかもしれないが、保安基準を満たしていることを証明する書類は部品ごとに必要となる。ドアミラーのカバーなど保安基準に関係ないものはノーチェックだが、都内の並行輸入業者によると日本の保安基準を満たしていることが証明される技術適合書類(通称:技適)が必要な部品は「100や200じゃきかない」とも。それぞれに、メーカー担当者のサインかそれに準ずるメーカー発の正式書類が必要となる。
保安基準が関わるすべてのパーツにおいて、どこの国のどの工場でいつ製造されたのかというところまで詳しく確認される。
さらに2021年7月1日からは、並行輸入車の審査事務規程が厳格化(とくに技適関連の書類の確認)されているため、58協定の非加盟国からの輸入→登録はかなり難しくなっている。
なお、58協定非加盟国である中国からの輸入であっても、自動車メーカーが完全にバックアップしているのであればナンバー取得は比較的容易である。中国第一汽車の紅旗H9などは、メーカーである第一汽車が完全にバックアップしており、各種の書類もスムーズに出されていることから、紅旗H9第一号車のナンバー取得は3か月程度で完了している。
いっぽう(ウワサの域を出ないが)レクサスLMのナンバー取得において技術適合の書類を偽造して保安基準を満たしていることを証明しようとした悪い業者もいたそうだが、日本の自動車技術総合機構(NALTEC)がそんな偽造を見破れないはずはない。提出された技適書類などはすべてそれを発行した現地メーカーなどの担当部署、担当者に連絡をして確認を取っている。
なお、2021年7月から並行輸入車のナンバー取得が厳格化された背景には、そのような悪徳業者を門前払いする目的もあったと聞く。実際、あの手この手でナンバーを取ろうとする悪い業者は少なくなかったのだ。
■多くの並行輸入業者がLMを日本で販売しようと試みたが…
上述のような事情もあって、今のところ並行輸入でLMのナンバーをつけることに成功した業者はごくわずかだ。関西のとあるモータース販売店はこう嘆く。
「うちもLMを入れて日本で売ろうと思ったんですけど、車両価格が高いし、日本での登録は非常に難しいと聞いたのでやめました。知り合いの車屋はLMを数台輸入したんですけど、結局ナンバーをつけられませんでした。最近はアルファードをベースにLM仕様にするボディキット(純正)もありますから。そのほうがいいですよ。LMより各段に安くできますし、内装もやろうと思えばできなくないでしょう」
またミニバン専門店を経営する関東の業者いわく、
「中国の業者は(日本と違って)簡単に海外(LMの場合は日本)の業者に販売してくれるんですよ。日本は今話題のランドクルーザー300もそうですけど、メーカーが全力をあげて転売防止、輸出防止に躍起になっていますから、海外で人気がある日本車の新車を輸出するのはとても苦労します。LMの場合、日本に持ってくること自体はそれほど大変じゃない。だけどナンバーがねえ…。中国や台湾のクルマで日本のナンバーを取るのは、お金も手間も格段に掛かりますから。それでも取得できればいいですけど、まず無理でしょう。これがFMVSS(米国の保安基準を満たしている証明)やWVTA(EU諸国の保安基準を満たしている証明)などのラベルが貼られた並行輸入車なら、さほど苦もなく日本のナンバーがとれるんですけどね…」
LMを扱おうとしていた業者の一人は、「一回アメリカに持って行ってから日本に再度輸入するほうが簡単にナンバーとれるんじゃないでしょうか?」とまで言っていた。
さて、LMの並行輸入についてはこんな状況なわけだが、話を戻して、日本に一度輸入したLMを買い戻す動きが進んでいるという話を戻そう。「買い戻す」…? これはいったいどういうことなのか(ここまでの流れで「買い戻す理由」はなんとなくお察しいただけたかもしれないが)。
「買い戻し」とは、日本で登録することが事実上不可能となったLMを、中国の販売業者が買い戻しているということである。日本に並行輸入したはいいがナンバーのつかない2000万円以上のLMが宙に浮いた状態となっている。そこに目を付けた(?)中国の並行輸入業者が、日本からLMを買い戻して中国や周辺国に「再輸入」しているという。
なお中国では原則として日本からの中古車輸入を認めていないが、LMに関しては日本でナンバーがついていない(=登録も販売もできていない)わけだから、「中古車」ではなく「新車」扱いとなる。それゆえに「買い戻し」も比較的スムーズに可能となる。
しかも今は新車供給が遅れている状況なので、日本で行き場を失くしたLMを買い戻せるなら大歓迎! と言ったところだろう。
日本でLMのナンバー取得に成功したとある自動車販売店いわく、
「きちんとした手続きさえとればLMに日本のナンバーをつけることは可能ですし、自動車保険も契約ができますよ。また、ナンバーが付く=車検証が出るということになりますが、車検証の各種データがあればメーカーの純正部品も注文できます。私のところには、登録の方法を教えて欲しいという要望もすごくたくさん来ましたが、全部断っています。もうこの先、LMを日本に輸入して販売するつもりもありません」
とのことだった。
最近では都内近郊にて見た目はLM、中身はアルファードを見かける機会も増えてきた。
今年の東京オートサロン(2022年1月開催)や大阪オートメッセにも「LMルック」のアルファードの初出展が相次いでおり、どれもぱっと見はLMに見える。特徴的なスピンドルグリルをはじめとしたLMのボディパーツは、ほとんどが中国経由で入手可能な純正部品となりパーツの付け替えも簡単とのこと。
中国や台湾から輸入されたLMを数千万円で購入するより、LM純正パーツを装着してコンバートされたアルファードを購入する方が賢明と言えるだろう。
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