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 2021年12月にZOZO創業者で実業家の前澤友作氏が日本の民間人として初の宇宙旅行を成し遂げ、日に日に近い存在になっていると感じる宇宙。

 しかしながら、ほとんどの民間人にとって宇宙は未開の地であり、実際にどのような場所なのか知ることはできない。まだまだ未知の部分が多い場所でもある。

 そんななか、自動車メーカーや自動車部品メーカーが宇宙開発に乗り出しているという。というのも、宇宙開発において自動車技術が重要な役割を果たすというのだ。

 今回は、自動車メーカーや自動車部品メーカーが宇宙に関してどのような研究開発を行い、役割を果たしているのか、そして今後の展望について見ていく。

文/鈴木直也、写真/トヨタ、日産

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■戦後日本の自動車産業の隆盛は航空機産業と密接に関係していた

 日本の自動車メーカーは戦前の航空機産業から歴史と人材を継承しているケースが多い。

 スバルが中島飛行機(機体部門)の末裔なのは有名だが、同じ中島でも発動機部門はプリンスを経て日産に合流している。中島でハ45「誉」の設計主任を担当した中川良一さんは、のちにプリンスを経て日産の専務を務めている。

 三菱は中島と双璧をなす航空機メーカーだったが、ここで零戦や四式重爆を手がけた東條輝男さんは、後に三菱自動車の4代目社長に就任した。

 人材レベルでみても多士済々。トヨタで初代カローラの主査を務めた長谷川龍雄さんは立川飛行機の出身だし、ホンダで第1期F1監督をされた中村良夫さんは中島から陸軍航空技術研究所を経てホンダに入社。スバル360の百瀬晋六さんも中島の出身だ。

 第2時大戦の敗戦によって航空機の開発と生産が禁止されたことで、一流の技術者を集めていた航空機産業から自動車産業へ大きな人材シフトが起きた。

 これが、戦後日本の自動車産業が急成長するひとつの要因になったといわれている。

■トヨタが月面探査用車両を開発中

 こういう歴史があるからか、現在でも日本の自動車メーカーは航空宇宙部門とのつながりが深い。

 例えば、2020年に話題になった「トヨタがJAXAと組んで月面探査用の『ルナ・クルーザー』を開発中」というニュースなんかがそうだ。

トヨタがJAXAと共同で開発している月面探査用車両。この車両に装着するタイヤはブリヂストンが研究開発している

 これについてベストカーWebでボクが記事<https://bestcarweb.jp/feature/column/196554>を書いたが、全長6m、全幅5.2m、全高3.8m。緊急時4名の乗員が滞在可能な与圧キャビンを備え、燃料電池で月面上を1000km以上走るという壮大な計画だ。

 あまりにスペックが大規模すぎて現実味がわかないけど、宇宙開発は多かれ少なかれ夢こそがエネルギー源。トヨタならやってくれるんじゃないか、という期待感はある。

■日産が持つ市販車の技術を応用した共同研究

 その一方、JAXAは日産とも月面車の共同研究を行っていて、昨年末にその概要が発表されている。

 こちらは、トヨタに比べると小規模ながら、より現実的な研究開発だ。

日産がJAXAと共同で研究している月面探査機技術。砂に覆われている月面では、駆動輪の制御が重要なカギとなるのだ

 細かい砂に覆われた月面の環境では、タイヤの空転を最小限に抑えることでスタックを回避しつつ、同時にエネルギーロスも最小化したい。すなわち、4輪のトラクションを精密に最適制御するシステムが求められる。

 その研究を「JAXA宇宙探査イノベーションハブ」という共同研究プラットフォームで実施するという。

 日産がなぜJAXAと組んでこの研究に取り組むのかといえば、アリア用に開発した2モーター4WDシステム、「e-4ORCE」の制御テクノロジーが応用できるからだ。

日産の電気自動車であるアリアの4WDモデルに搭載される四輪制御技術「e-4ORCE」が月面探査機の開発で応用されている

 e-4ORCEは、前後2基のモータートルクを個別にコントロールすることで、加速時のトラクションはもとより、回生量の調整によって減速時のピッチングもきめ細かく制御できるのがウリ。月面ローバ試作機ではこのアルゴリズムを4モーターに拡大し、タイヤの空転量を最小限に抑えた効率的な駆動力制御を追求している。

 公開された試作機は、旅行用トランクほどのサイズの「箱」から左右2本のビームが伸び、その両端にインホイールモーターを備えた車輪が付くといういたって簡素なハードウェア構成だが、この研究テーマで重要なのは制御ソフトウェアの部分。

 それゆえ、試作機はあくまで地上テスト用でロケットへの搭載や月面での走行は想定しないシンプルな成り立ちとなっているようだ。

 ハードウェアは簡素だが、研究開発の過程で得られた制御アルゴリズムやソフトウェア資産は、地上で走るクルマの走行性能向上にも応用が可能となるはず。

「e-4ORCE」開発を担当した先行車両開発部部長の中島敏行さんの「私たちが目指す究極の走行性能の研究開発を進めるにあたり、JAXAとの本共同研究で得られるノウハウは、地上における自動車のイノベーションにもつながると考えています」という言葉どおり、将来の日産車には宇宙で鍛えたモーター制御ロジックが取り入れられるかもしれない、そう考えるとちょっとワクワクするものがあるよね。

■ホンダは小型ロケットの開発を開始

 さらにもうひとつ、昨年暮れに話題を呼んだのが、ホンダのロケット参入というニュースだ。ホンダジェットの成功で、ホンダは今や堂々たるビジネスジェット機メーカーとなったのだが、なんと2019年末から小型ロケットの開発を開始。2030年までに試験機の打ち上げを目指すという。

 きっかけは30代の若手技術者から「自動車エンジンで培ったノウハウがあればロケットを開発できる」という提案だったそうだけど、確かにロケットエンジンの心臓部であるターボポンプは、構造的にはターボチャージャーと同じ。小型ロケットならホンダジェット用に開発したターボファンエンジンよりハードルが低い可能性はある。

 ただ、日経新聞の「ホンダ社長の三部敏宏は『40年から50年には会社を支える事業のひとつになる』と期待する」という記事は、いくらなんでも飛ばしすぎ。さすがにホンダもそこまで脳天気ではないと思う。

■宇宙開発がエンジニアのモチベーションを保つ!?

 これはボクの個人的な所感なんだけれど、最近この手の航空宇宙関連のニュースが増えた理由として、クルマの主力がバッテリーEVに移行する過程で、エンジニアのモチベーションを保つにはどうすべきか、という課題があるんじゃないですかね?

 スポーツカー開発やモータースポーツに代わるエンジニアのエネルギーの受け皿として、航空宇宙部門の事業は格好のテーマ。

 テスラとスペースXの関係みたいに、いいエンジニアをリクルートしたければ、自動車メーカーも宇宙開発が必須という時代なのかもしれませんな。

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