2016年末のデビューと同時に人気を集め、2017年、2018年と日本国内におけるSUV年間販売ランキングの1位となったトヨタC-HR。ニュルブルクリンク24時間レースの出走や新城ラリーでのデモ走行など、かなりスポーツ色を強く演出し、その独特なスポーティな外観と相まって瞬く間に人気車種となった。
しかし、最近ではカローラクロスやヤリスクロスの人気に押されて、売上絶頂期の9分の1の販売台数にとどまっている。
かつては販売台数ランキングの上位だったC-HRは、なぜここまでの苦戦を強いられることとなったのか? C-HRを厳しい状況に追い込んだその要因と、これまでの功績やまだまだ衰えない魅力を紹介する。
文/渡辺陽一郎、写真/トヨタ、ホンダ、ベストカー編集部
■カローラクロスとヤリスクロスが好調な一方、C-HRは……
今はSUVが売れ筋のカテゴリーだ。新車として販売される小型/普通乗用車の25%前後を占めており、ミニバンに匹敵する売れゆきとなっている。
そしてトヨタは一部のOEM車以外は軽自動車を扱わないから、小型/普通車のSUVに力を入れる。2019年にはRAV4とライズ、2020年にはヤリスクロスとハリアー、2021年にはカローラクロスとランドクルーザーという具合だ。SUVのフルモデルチェンジや新規投入が続いている。
特に成功している車種は、2021年9月に発売されたカローラクロスだ。同年11月には7300台、同12月には6290台、今年1月には7510台が登録され、国内で販売されるカローラシリーズ全体の53%を占める。ヤリスクロスも好調で、昨年11月が6480台、同12月は9450台、今年1月は1万760台だから(いずれもコンパクトカーのヤリスを除く)、この2車種がSUVの販売1位を争っている。
カローラクロスとヤリスクロスが好調な一方、人気を下げたのがC-HRだ。2021年1~12月の1か月平均は1508台で、直近の昨年11月は1288台、同12月は1097台、今年1月は1072台であった。登録台数はカローラクロスの約17%だ。
■強烈なインパクトを放つデザインで2016年にデビュー
C-HRとカローラクロスは、基本的に同じプラットフォームを使う。ホイールベース(前輪と後輪の間隔)の数値も、両車ともに2640mmで等しい。パワーユニットは、ハイブリッドシステムは共通で、ノーマルエンジンは、C-HRが1.2Lターボ、カローラクロスは1.8Lを搭載する。
もともとC-HRは、2014年のパリモーターショーに「トヨタC-HRコンセプト」の名称でプロトタイプを出展した。この時点では3ドアボディだったが、2015年のフランクフルトモーターショーには、5ドアモデルに変更して出展されている。2016年にはジュネーブモーターショーで、市販モデルが披露され、日本での発売は2016年12月であった。
C-HRで注目すべきは、各モーターショーに出展されたプロトタイプが、ほとんどデザインを変えずに市販されたことだ。一般的に個性的なプロトタイプは、市販の段階で外観を大きく変えるが、C-HRは個性を弱めなかった。
そのために2016年12月の発売時点では、C-HRは強いインパクトを放っていた。ボディ形状はSUVに含まれるが、既存のカテゴリーに当てはまらない斬新なクルマと受け取られた。
■デビュー当時は今の9倍も売れていた!!
このように注目度の強い新型車が登場すると、好みに合うユーザーは、購買意欲を一気に高める。C-HRも発売直後の2017年1~6月には、1カ月平均で1万3217台を登録した。小型/普通車の登録台数ランキングでは、プリウスとノートに次いで3位に入り、アクアやフリードを上回った。
直近の2021年におけるC-HRの登録台数は、前述のとおり1カ月平均で1508台だから、2017年の前半には今の9倍も売られていた。そこで当時のC-HRの販売が好調で、その後に急落した理由について、改めて考えてみたい。
C-HRが発売直後に売れゆきを急増させた一番の理由は、外観を趣味性の強い個性的なデザインに仕上げたからだ。インパクトの強いクルマは、ユーザーの気持ちとしてスグに手に入れたい。鮮度の高い時に味わいたい気持ちもあるから、今使っている愛車の車検期間が十分に残っていても乗り替える。
軽自動車やコンパクトカーのような実用的な車種は、損失を抑えるために愛車の車検満了を待って乗り替えるが、趣味性の強いクルマは購入タイミングが異なる。その結果、発売直後の売れゆきが急増した。かつて豊富に用意されていたクーペにも、発売直後に売れゆきを伸ばす車種が多かった。
■ニュルブルクリンク24時間レースを走り切った走行安定性
C-HRが好調に売られたふたつ目の理由として、2016年の発売時点から、トヨタの全店で扱ったことも挙げられる。2016年当時のトヨタは、全国に4800店舗以上を構えており、今よりも約200店舗多かった。この販売網で一斉に売られたから、登録台数も急増した。
商品力については、C-HRは走行安定性が優れていた。プラットフォームは2015年に発売された現行プリウスと基本的に同じだが、後輪の接地不足が解消され、SUVながらも安定性を向上させた。開発者は「C-HRはプリウスの登場から約1年を経過して発売されたので、プラットフォームや走りの熟成も進んでいる」と述べた。
全長は4400mm以下だが、ホイールベースは2640mmと長く、カーブを曲がる時などに慣性による悪影響も受けにくい。全高は大半のグレードが1550mmに収まる。このボディ各部の数値も走りの向上に役立った。走行安定性を高めながら、乗り心地の粗さを抑えたことも、C-HRのメリットであった。
サスペンションは、2WD、4WDともに、前輪はストラット、後輪はダブルウィッシュボーンの4輪独立懸架だ。発売時点では、ショックアブソーバーにザックス製を使い、欧州車の運転感覚を連想させた。
開発者に経緯を尋ねると、以下のように返答された。「ザックス製はグローバルに採用されている。このブランドを選んだ理由は、サプライヤーの立地条件や供給体制によるところが大きいが、結果的に優れた足回りに仕上がった」。
■趣味性の強いC-HRは一気に売れて一気に急落
C-HRの走りのよさは、足回りの滑らかな動きにあったので、販売店の試乗でも確認できた。そのために適度なボディサイズで、上質な運転感覚と4名乗車の可能な居住空間が欲しい場合、C-HRはちょうどいい選択肢になった。
それなのにC-HRの需要は急落していく。2017年1~6月には、1カ月平均で1万3217台を登録したが、2018年は6396台に半減している。2019年は4640台、2020年はコロナ禍の影響も受けて2806台だ。2021年は前述の1508台であった。
C-HRの売れゆきが下がった一番の理由は、趣味性の強さに押されて売れゆきを一気に伸ばし、短期間で欲しいユーザーに行き渡ったことだ。しかもC-HRはインパクトの強い外観を重視して開発されたから、SUVらしさとか、SUVの実用性は乏しい。後席や荷室の広さ、車内の使いやすさを重視するファミリーを中心としたユーザーには選ばれにくく、販売面で災いした。
■先代ヴェゼルは地味に淡々と売れ続けた
この経緯は、C-HRの販売動向を先代ヴェゼルと比べるとわかりやすい。先代ヴェゼルは2013年に発売され、2017年と2018年の売れゆきは、新発売されたC-HRを大幅に下回った。この販売順位が2019年には逆転して、設計の古い先代ヴェゼルがC-HRを上回っている。
先代ヴェゼルは、後席と荷室の広い実用型のコンパクトSUVだから、雰囲気は地味だが淡々と売れ続けた。目立ち度で勝負するC-HRは、持久戦に持ち込まれると弱味が露呈した形となった。
また2019年には、価格帯は異なるものの、同じトヨタから現行RAV4が登場した。その年末にはコンパクトSUVのライズも加わっている。2020年にはヤリスクロスの投入もあり、C-HRは身内となるトヨタのSUVに需要を奪われた面もある。
■改良を重ねたC-HRにはほかの車種にはない魅力がある
特にカローラクロスは、適度なボディサイズで、C-HRよりも後席と荷室が広い。C-HRの欠点とされる後方視界も優れているので、多くのユーザーにとってカローラクロスのほうが選びやすい。
C-HRの人気動向について販売店に尋ねると、以下のように返答された。「C-HRが発売された時は、トヨタのSUVは車種がかぎられていたが、その後に新型車が続々と登場した。車内の広さを求めるお客様には、価格は少し高いがRAV4がある。価格の安さなら、ライズやヤリスクロスという具合だ。C-HRの需要は、今ではほかの車種に分散して吸収されている」。
もっとも、C-HRも改良を重ねている。価格も割安で、C-HRハイブリッドSの2WDは274万5000円だから、カローラクロスハイブリッドSの275万円とほぼ同額だ。カローラクロスの2WDは、リアサスペンションが車軸式のトーションビームだが、C-HRは独立式のダブルウイッシュボーンになる。
ディスプレイオーディオのサイズも、カローラクロスは7インチだが、C-HRは8インチだ。サイズと価格が適度で、なおかつ目立つクルマが欲しい場合、C-HRは今でも候補に入るクルマとなっている。
【画像ギャラリー】強烈に派手なルックスと欧州で鍛えた走行性能でまだまだイケるヨ!「C-HR」を写真でチェック!!(32枚)画像ギャラリー投稿 カローラクロス投入でもはや居場所はなし? C-HRの功績を改めて考える は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。