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新型ヴォクシー/ノアに残った「兄弟」の銘 ミニバンならではの理由と「顔」評価

 かねてから日本市場で販売している60車種を段階的に半減することを報じていたトヨタ、その代表格として考えられていたのが、ノア/ヴォクシー/エスクァイアであった。

 実際、2020年5月に行われたトヨタ系列販売会社の統合のタイミングで、エスクァイアは上級仕様のみに、ヴォクシーも標準仕様を廃止し、エアロ仕様のみに縮小している(※その後、2021年12月にエスクァイアは生産終了している)。

 この流れから想像すると、後継となる新型モデルでは、ヴォクシーも廃止となり、ノアに一本化されるものと考えられていたが、実際には、新型ノアと新型ヴォクシーの両方が登場した。

 トヨタはなぜ兄弟車を残したのか。その理由と葛藤について、開発責任者へインタビューすることができた。その内容を交え、考察していく。

文:吉川賢一
写真:TOYOTA、HONDA、NISSAN、ベストカーWEB編集部/撮影:中里慎一郎

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「勝ち続けるためには、この2台が必要と判断」

 インタビューに応じてくれたのは、トヨタ車体 開発本部本部長の水澗英紀チーフエンジニア。2代目と3代目のノア/ヴォクシー、エスクァイアでもチーフエンジニアを担当されており、トヨタの国内ミニバンの第一人者的なエンジニアである。

 前段で振り返った通り、トヨタは国内で販売している60車種を段階的に半減させることを公表している。そうした背景を元にして、単刀直入に、「なぜノアとヴォクシーの両方を残したのか」と聞いた。

 水澗チーフエンジニアは、「(会社指示などで)明確に残さざるを得ない理由はなかった」としながら、「3世代にわたって販売されてきたノア/ヴォクシーは、もともとは販売系列用に用意した5つの顔(ノア標準、ノアエアロ、ヴォクシー標準、ヴォクシーエアロ、エスクァイア)があったが、これらのユーザーの多くは、新型が出るとそのまま乗り換えてくれることが多い。そうした中で、「5」あったモデルを「2」にして戦うか、「2+1」で戦うのかは、大いに悩んだ。

 だが、競争の激しいミドルサイズミニバン界で勝ち続けるためには、ヴォクシーの持つ「カッコよいミニバン」というブランドの高さ、そして販売台数が必要と判断し、兄弟車を残し、ノア2つ、ヴォクシー1つの顔で戦うことを選択、安易にブランドをやめないこととした」と答えてくれた。

 販売台数不振を理由に、エスティマ(※これも水澗氏が担当していた)が2019年10月に生産終了というショッキングなニュースが入ったのが2年前のこと。あれほどの有名ブランドであっても消えていく中で、ヴォクシーは今後も貴重な戦力になると見込んだようだ。

ヴォクシーの持つ「カッコよいミニバン」というブランドの高さ、そして販売台数が必要と判断し、兄弟車を残し、ノア2つ、ヴォクシー1つの顔で戦うことを選択したという

新型ヴォクシーの人気は、先代からの乗り換え需要の多さが理由のひとつ

 某地区を統括するトヨタ系販売ディーラーに尋ねたところ、2月時点での受注台数はヴォクシーのほうが多いという。目標台数はノアが8100台/月、ヴォクシーが5400台/月。販売スタートしたばかりの現時点では、開発サイドの思惑とはやや外れたようだが、今後はどのように変化していくのだろうか。

 水澗英紀チーフエンジニアへ今後の展望を伺ったところ、(2020年5月の)全車種併売にした結果、ヴォクシーの標準が一気に売れなくなり、エスクァイアも売れなくなったという。それまでも(販売台数の)デコボコはあったが、系列店ごとに分けていたことで分散していた人気の違いが浮き彫りになり、お客様がもとめるクルマがダイレクトに見えるようになったそうだ。

 また、水澗英紀チーフエンジニアは、「このミニバンクラスは「顔」で選ぶ方が多い。その中でも、落ち着いたミニバンがいい方、スポーティなミニバンが欲しい方は新型ノアを、独創的な路線を求める方には新型ヴォクシーを用意した。

 新型ヴォクシーを、あえてチャレンジング(好き嫌いが大きく分かれそう)なデザインにしたのは、人とは異なるモデルを求める若者や、ミニバン以外を乗ってきた方が、「今回のヴォクシーはちょっと興味あるな」と受け止めてくれればOK、乗り換えのお客様以外に、新たな顧客が購入してくれれば狙い通り」とも話していた。

 新型ヴォクシーの受注が多いのは、母数が多い先代ヴォクシーからの代替えが理由のひとつだろう。初見ではかなり衝撃的に受け止めた新型ヴォクシーだが、見慣れると絶妙にカッコ良く見えてくるから不思議だ。(メッキ面積を重視した)王道を歩む新型ノア、新たな造形で魅せた新型ヴォクシー、双方のバランスが、今後どのように変化していくのかは非常に注目だ。

トヨタ車体 開発本部本部長の水澗英紀チーフエンジニア。2代目と3代目のノア/ヴォクシー、エスクァイアでもチーフエンジニアを歴任された方で、トヨタの国内ミニバンの第一人者だ

現時点はやはり「ギラギラフェイス」が正解か

 ただ、前出の某地区を統括するトヨタ系販売ディーラーによると、ティザー写真が出た12月8日直後は、新型ヴォクシーの受注台数の方が7割と、圧倒的に多かったというが、面白いことに、正式発表(1月13日)後は新型ノアが台数を伸ばし、現在は4:6の割合まで戻しているという。フロントフェイスの全貌が見えたことで、ノアに流れた顧客もいたのだろう。

 新型ノア/ヴォクシーを見てみると、新型ノアは横3本の太いメッキラインが入り、80系ノアのフロントグリルをそのまま引き継いだようにも見える。現行アルファード程の壮大さはなく、「ライトなギラギラフェイス」という印象だ。

 一方の新型ヴォクシーは、プレデターやエイリアンのような「生き物が口を開いたようなフェイス」となった。フロントサイドに付いたウネリ模様は「気味の悪さ」すら感じ、人によっては苦手と言うだろう。先代ヴォクシーとは大きく異なり、「異様な雰囲気」すら漂っている。「先鋭的、独創的」というキャッチフレーズにぴったりだ。

 一転、ライバルであるステップワゴンの新型のフロントフェイスは、「原点回帰」したことで、シンプルで清潔感のあるデザインになった。懐かしい顔に寄せたことで、かつてステップワゴンに乗っていた層へアピールすることができるのかも注目だ。

 ミニバンのフェイスの「正解」を見出すのは、なかなか難しい。この一年の間にヒットしていたのは、先代ヴォクシー、現行アルファードあたりだろうが、先代ヴォクシーは、「2018年以降の後期型ヴェルファイア」に近い顔をしていたりもするが、ご存じの通り、ヴェルファイアはこの後期型で販売台数を激減させている。

 ボディサイズ毎に、「正解」が異なるのか、偶然が重なっただけなのか、そもそも正解を見出そうとするのが間違いなのか、分析はなかなか難しいところだが、新型ノア/ヴォクシーが今後、トヨタの思惑通りの売れ行きとなっていくのか、今後の動向が楽しみだ。

新型ノアは横3本の太いメッキラインが入り、80系ノアのフロントグリルをそのまま引き継いだようにも見えるが、今後は販売割合を伸ばしていくのだろうか
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