東京都町田市で小学6年の女子児童が自殺した問題に関連して、東京・渋谷区内の小中学校近くの路上や区役所前などで、学生団体「日本自治委員会」が街頭宣伝活動を行い、区や学校関係者が対応に苦慮していることが16日明らかになった。
区立小学校PTA連合会は今週に入り、区に要望書を提出し、児童に「極めて悪影響を及ぼしている」として対処を要請。これを受け、区はこの日、「法的な措置も視野に、毅然として対応する」と明言した。
それにしても、なぜ町田から30㌔以上も離れた渋谷で異常事態が起きたのだろうか。
町田「元校長」の渋谷区教育長就任に抗議
デモ活動をしている学生団体は「日本自治委員会」(東京・杉並)。団体のホームページによると、「都立新宿山吹高、都立稔ヶ丘高、大阪市立中央高」の3校の「自治委員会」によって作られた学生組織で、ブラック校則の是正などを訴えてきたとしている。
渋谷区や関係者によると、同団体は昨年の9月頃から、区立小中学校前や長谷部健区長の自宅前などの路上でビラ配りなどの活動を実施している。学校前のデモは、登下校時間に合わせ、今年1月末までに少なくとも50回以上にのぼったことが確認されている。
そして、デモは、渋谷区の五十嵐俊子教育長の都内の自宅前でも年末年始に5回程度実施されたという。団体側がここまでデモを執拗に行う理由が、町田市の女児自殺事案への抗議だ。実は、五十嵐氏は自殺した女児が通っていた小学校の当時の校長で、定年退職後の昨年4月、渋谷区の教育長に就任した経緯がある。
しかし、女児の遺族が五十嵐氏を含む学校側の対応について「いじめを隠蔽した」と批判した経緯から、同調した団体側は、五十嵐氏に「責任を取るべきだ」「許すな」などと非難し、街宣活動をかけた。長谷部区長の任命責任も追及し、区長の自宅前にも押しかけ10回程度活動。区役所前でも数回活動し、トラブルになっている。
教育長選任「問題ない」女児遺書も判断か
五十嵐氏は国のICT教育推進の委員を務めた経験もあるなど学校現場でのICT教育の第一人者として知られる。複数の関係者によると、長谷部区長は、デジタル時代の先進的な教育政策を進める教育長人材を探していた中で、定年を迎える五十嵐氏に白羽の矢を立てた。
ただ、五十嵐氏がいじめ問題に直面していたことから、渋谷区は慎重に選任作業を実施。その際、五十嵐氏も事実関係を説明し、長谷部区長が総合的に判断し、人事を決定した。
長谷部区長は1月17日の記者会見で、教育長人事について「問題はないと判断した」と正当性を改めて強調した。町田市教委が設置した「いじめ問題対策委員会」が10月に公開した「重大事態調査経過報告書」は「いじめ以外にも原因があった可能性」を指摘しているが、長谷部区長も同様の理由を考慮したとみられる。
PTA側、デモに「行き過ぎた行為」
町田の女児自殺を巡っては、遺族が文科省で記者会見した昨年9月以降、「いじめ」ばかりがクローズアップされ、新聞やテレビ、大手週刊誌やネットニュースでセンセーショナルな報道が繰り返された。学校が児童に貸し出した「タブレット端末」のチャット機能が、いじめに使われたことなど、学校側の管理ミスもあり、一部のメディアは、町田市や五十嵐校長の責任を激しく追及することもあった。
しかし、ここにきて自殺の背景に、複合的な要因があった可能性が浮上している。本サイト既報のように、女児が残した遺書には、自殺の背景に、いじめだけではなく、家庭内にも問題があったことを窺わせる記述があった。
文科省と東京都教育庁はすでに自殺の理由に複雑な事情があったとみている。昨秋、ヒートアップした大手メディアも徐々にそうした風向きの変化を察知してかその後は“沈黙”している。
報道やデモを招いた「悪循環」
こうした教育行政の事情を熟知する関係者の1人は「女児の家庭内の問題があるため、町田市も渋谷区も正面から反論することを控え、慎重に対応してきたが、かえって事情を知らない人たちやメディアからの非難を招く悪循環に陥った」と指摘する。
他方、昨年来、渋谷区内で抗議活動をしてきた学生団体は「いじめ」対応を問題視し、年をまたいでもなお、旧年の過熱報道のテンションそのままに、五十嵐氏や渋谷区を執拗に追及。区立小中学校前の路上で、アジ演説やビラ配りを繰り広げてきた。
団体側は、自らのホームページで日頃のデモ活動について「表現の自由を侵害することは許されません」と正当性を主張しているが、「無関係」なのに巻き込まれた区立小中学校の教員や保護者などには怒りが限度を超えたようだ。ついに区立小学校のPTA連合会は今週に入り、区にデモに対処するよう要望書を提出した。
複数の関係者によると、要望書ではデモに表現の自由の権利があることは尊重してはいるものの、「学校は子どもたちの学ぶ環境で、デモ活動は行き過ぎた行為」という趣旨の見解や、デモが与えてきた“実害”について強い懸念が書き込まれているという。
要望書提出を受け、区は16日夕、「教育環境や公務に対する妨害活動への対応について」と題したリリース文を発表(太字は編集部)。
区内の区立小中学校において、令和3年9月以降50回以上にわたり、一部の団体が子どもたちに対して街宣活動を行い、子どもたちの安心と静かな教育環境が脅かされる状況が続いています。ある小学校では、運動会の日に、保護者が抗議したにも関わらず街宣活動が続けられ、子どもたちの楽しい思い出に水を差される事態となりました。また、区役所周辺でも街宣活動が行われ、公務に支障を来す事態となっています。
などとデモの影響を述べた上で、次のように、法的措置も含めた対処を取る方針を明らかにした。
区では、こうした状況が続く中で対策を検討してまいりましたが、今月に入っても街宣活動が続けられ収束の見込みが立たないことから、もはや看過できる状況にはないと判断しました。
子どもたちの安心と静かな教育環境を守るため、また、区の公務に対する妨害への対策として、法的な措置も視野に、毅然として対応してまいります。
デモ側「謎ルール」で取材拒否
ここまでPTAや行政を“激怒”させたとなると、もはや、町田の事案が渋谷に飛び火し、“延焼”という段階を超えようとしている。当のデモ団体「日本自治委員会」は事態をどう認識しているのか。区が見解を出す数日前の時点で、サキシル編集部は取材を試みたが、日本自治委員会の広報担当者は15日までにメールで応答し、
「サキシル」及び「株式会社ソーシャルラボ」は、日本自治委員会が定めている「自由で公正な報道を実現するためのガイドライン規則」(以下「規則」という)第2条エ号にあたる非公認報道機関であり
などと独自のメディア選考基準があることを述べた上で「これらの点を踏まえ、規則第8条第2項に基づき、単独会見には応じないという判断となりました」と取材を拒否した。
謎のルールを持ち出す日本自治委員会はどのような性格の団体なのだろうか。ホームページでは他地域での街宣活動の成果に「勝利」を喧伝する記事があるあたりは、極左系の活動家団体を連想してしまうが、サイト上では「旧学生運動の亜種とか、左翼系党派と誤解される方が非常に多い」「私たちどこの党派にも属していないんです。『革命』とか興味ないんです」と、“無党派”を強調している。
ただ、政治的な背景が本当にないのか、謎は深まるばかりだ。