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トンガ沖の海底火山で15日に発生した大規模噴火は、翌16日にかけ、日本各地に津波をもたらすなどその甚大な影響力を見せつけた。そうした中で、ネット上は、1991年(平成3年)にフィリピン・ピナツボ火山の大噴火をきっかけに発生したとされる日本の冷夏で、米の歴史的な大凶作をもたらした事態の「再現」を懸念する声も相次いだ。

トンガの大規模噴火を捉えた衛星写真(提供:CIRA/NOAA/ロイター/アフロ)

朝日が煽る「平成の米騒動」との連想

気象学会の有力な説では、ピナツボ火山の噴火により噴出物が成層圏に到達し、世界的に日照不足をもたらしたとする見方がある。噴火翌年の92年から日本は冷夏に見舞われ始め、93年の梅雨は、気象庁が梅雨明け宣言を撤回するなどの異例の長雨となるなど「大冷夏」になった。

農作物の生育は甚大な影響を受け、同年の水稲作況指数は例年100前後のところ、全国平均が「73」という歴史的な大凶作に。40代以上の人なら覚えているであろう「平成の米騒動」はこの時の話で、政府の備蓄米も枯渇するほどの緊急事態となったが、当時の細川政権はタイ、中国、アメリカから米の緊急輸入に着手。しかしその多くを占めたタイからのインディカ米は日本の消費者には不評で物議を醸した。

それから30年近く、今回のトンガ沖の噴火について、朝日新聞は防災科学技術研究所の見立てとして、ピナツボの噴火と同等の威力があったとし、噴火から米の凶作に至るまでの経緯を指摘するなど、微妙に「煽り」要素を加味。ツイッターではこの記事にも煽られのか「令和の米騒動」が取り沙汰された。

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ただ、さすがに系列のアエラドットのように週刊誌モードで煽り一辺倒ではまずいと思ったのか、「ピナトゥボ山は北半球だったのに対し、今回の噴火は南半球で起きた」と但し書きをするとともに、今後の影響は「より詳しい解析を必要とする」と言う研究所側のコメントをつけて抑制は効かせたようだ。

日本の経済力が平成より落ちた中で…

一方で、朝日お得意のマッチポンプで終わればただの杞憂や失笑で済まされるが、客観的な事実から気になる点もある。仮にトンガ沖噴火による気候変動が起きながら、日本に直ちに繋がらなかったとしても、トンガと同じ南半球には、農業大国オーストラリアがあり、万一、凶作をもたらすような事態があると日本の食糧事情にも影響は出てきそうだ。

日本の農産物輸入額に占める同国の割合は、アメリカやアセアン、中国などに次ぐ5番目に過ぎないが、豪クイーンズランド大学の野北和宏教授(ノギタ教授)はツイッターで「もしオーストラリアの農業に影響が出たら、日本の粉もの(麺類やお好み焼き)、うどん、そば、牛肉とかの価格に相当影響がでる」との見方を示す。

それでなくても、昨年から世界的に物価上昇が続き、エネルギー価格は高騰。物流も停滞している。昨年の世界食料価格指数は、前年比28.1%アップとなる125.7をマーク。通年では、東日本大震災のあった2011年の131.9に迫る高水準だった。そこに不安要素を強めるのが昨年来続く円安・ドル高の傾向だ。年が明けても止まらず、長期停滞が続く日本の「購買力」低下に拍車をかけている。

その点で言えば、もう一つ気になる客観的な数字がある。ピナツボ噴火当時の日本経済は、バブル崩壊直後だったとはいえ「戦後成長の余力」を残してはいた。近年、韓国に追いつかれたとして話題の1人あたりのGDPランキング(為替レート・ベース)でいえば1993年の時点ではまだ世界3位に位置付けていたが、近年は20位以内にも入らなくなっている。

「今年前半で円安・ドル高は一服する」との見方も一部にあるが、長期化する新型コロナの感染拡大、さらにトンガ噴火が気候変動にどこまで影響するかなど、老いる日本経済を取り巻く不透明感は強まるばかりだ。