朝日新聞の2月10付の社説が波紋を呼んでいる。社説は、「EU原発回帰 日本の選択肢ではない」とのタイトルで、欧州連合(EU)が、一定条件のもとで原発を地球温暖化対策に役立つエネルギーと位置づけたことを論じた。
社説では、気候条件も環境も異なるため、EUと日本を同一視するなと指摘したうえで、「可能な限り原発依存度を下げ、再生可能エネルギーの導入を進めるという政府の方針を忘れずに、脱炭素に取り組むべきだ」と結んでいる。
朝日新聞と言えば、民意を大切にすることで知られている。「朝日新聞DIGITAL」で「社説 民意」と検索すると、240記事がヒットした(15日時点)。それでは原発立地地域の住民の今の民意はどうなのだろうか。サキシルでは、世界最大規模の原発「東京電力 柏崎刈羽原子力発電所」がある、新潟県柏崎市の市民に話を聞いた。
原発再稼働賛成の50代会社員女性は次のように話す。
「朝日新聞が社説で日本は原発やめろって言ったんですか?知りませんでした。どの立場で言っているんでしょうね。まぁ、朝日新聞が何を言おうが構いませんが、櫻井市長(注:櫻井雅浩柏崎市長)には早く東電と協議してもらって原発再稼働を推進してもらいたいですね」
市内で飲食店を経営する60代女性は、「早く原発再稼働してもらって、活気が戻ってほしいですね。(原発が停止してから)もう10年になりますか。このあたりも本当に寂しくなってしまいましたね」と話す。朝日新聞の社説については、「見ていないし、特に感想もない」とにべもなかった。
再稼動反対派も朝日に苦言するワケ
今回、柏崎市民10人に話を聞いたが、原発再稼働派を自認する人たちはすべて朝日新聞の社説には不快感を示していた。さらに、原発再稼働反対派が朝日新聞の社説を好意的に受け止めているかと言えば、それもまた違うようだ。サキシルの取材に「原発再稼働なんかもってのほか」と話した自営業男性(70代)は次のように憤った。
「確かに俺は原発なんかなくなればいいと思っているよ。だけど、それを朝日新聞が言うのは違うだろ?原発のあり方をどうするのかっていうのは、地元住民が決めるもんだ。朝日新聞の敷地内に原発があるなら(朝日新聞がそうした主張をするのは)まだ分かるけど、朝日と柏崎に何の関係もないだろ?偉そうなんだよ」
原発再稼働反対派の主婦(30代)も、「(原発立地地域の)地元紙なら分かりますけど、なんで東京の朝日新聞から指示されなきゃいけないの?と思ってしまいますよね」と疑問を呈していた。
十八番の「多様な民意」に目を向けられるか?
2017年10月の衆議院選挙では、自民公明が憲法改正の発議ができる3分の2を占める圧勝を見せた。翌日の朝日新聞の社説のタイトルは、「政権継続という審判 多様な民意に目を向けよ」。当時の安倍首相に、選挙結果は「勝者への白紙委任を意味しない」とし、「多様な民意に目を向けよ」と注文を付けた。
昨年11月に沖縄県の玉城デニー知事が、米軍普天間飛行場の辺野古への移設計画を巡って、政府が申請していた設計変更を不承認した。翌日、朝日新聞は「辺野古不承認 国の強権が招いた混迷」と題した社説の中で、「県民投票などで示された民意を無視して突き進む政府は、思考停止に陥っていると言わざるを得ない」と断じている。
柏崎刈羽原発が2012年3月に停止してから柏崎市長選が3度行われているが、直近の2回はいずれも、条件付きでの原発再稼働を容認した候補が、再稼働反対派が擁立した候補を破っている。民意を大切にする朝日新聞は柏崎市民の声や、選挙で示された民意をどのように受け止めるだろうか。