東京証券取引所(東証)は11日、今年4月の市場再編で新たに発足する東証プライム、スタンダード、グロースの上場企業を発表した。東証の市場再編は現在の一部、二部、マザーズ、JASDAQの4つの市場をプライム、スタンダード、グロースの3市場にするもの。それぞれの市場には、グローバル企業向けのプライム、中堅企業が中心のスタンダード、新興企業向けのグロースという特徴がある。
とくにプライム市場に上場する企業には海外投資家からの幅広い投資が期待されているが、最上位市場であるプライム市場の上場基準を満たしながら、あえてスタンダード市場を選んだ会社もある。
現行制度からの変化にどう対応
現在、東証一部に上場しているエバラ食品工業(神奈川県横浜市)がそのうちの一つだ。テレビ東京のワールドビジネスサテライトに出演した同社の森村剛士社長は東証プライムではなく、あえてスタンダード市場を選んだ理由について次のように話している。
「株主が安心して株式を保有売買してもらうためには、スタンダード市場を選択し、安定した環境で売買してもらえればと思っている」
どういうことか。今回の東証再編で設けられたそれぞれの市場は、上場したからと言ってそこに居続けられるシステムではない。従来の枠組みでは、たとえば東証一部に上場すればよほどのことがない限り二部に降格とはならない。過去に東証一部から二部に降格した企業は、巨額の損失隠しの末に債務超過に陥った東芝、台湾の鴻海(ホンハイ)傘下となったシャープなどほんの一握りだ。
ところが、プライム、スタンダード、グロースはともに上場を維持するためには一定の基準をクリアしなければならない。たとえば、1日の株式平均売買代金2000万円以上がプライム市場の維持基準の一つ。だが、エバラ食品工業の株主は長期保有を希望する個人投資家が多いため、株主が積極的に売買をするかというと不透明だという。1日の株式平均売買代金2000万円以上を維持できなければ、上場廃止となるリスクがある。エバラ食品工業は、株主の属性と市場の特性を考えた時にスタンダード市場が最適と判断したわけだ。
マクドナルドも、ヨネックスも…
同じような理由で、スタンダード市場を選んだ企業は少なくない。建設業の植木組(新潟県柏崎市)は、スタンダード市場を選んだ理由を「事業や主な株主が国内。グローバル展開をコンセプトとするプライムとは合わない」としている。老舗百貨店の井筒屋(福岡県北九州市)も同様で、同社の影山英雄社長はプライム市場を選んだ理由を「地元に根差した百貨店が当社の存在価値で、株主も国内が中心」と説明している。高知銀行(高知県高知市)は産経新聞の取材に対して、「スタンダードの方が、地域密着の当行の運営方針にそぐうと判断した」としている。
現在の東証一部上場企業は2185社。そのうちの約85%にあたる1841社がプライム市場に移る。日本マクドナルドホールディングス(東京都新宿区)やブルボン(新潟県柏崎市)、ヨネックス(東京都文京区)など、プライム市場の基準を満たした二部上場企業やジャスダック上場企業の多くがスタンダード市場を選んでいる。プライム市場を選択したのはメルカリ(東京都港区)くらいだ。
悪く言えば再編後もかわり映えしない日本市場について、専門家の多くは「海外機関投資家の評価は低い」と指摘するが、果たしてどうなるか。まずは、東証が再編されて初めて取り引きが行われる4月4日に各社の株価がどう変動するかに注目したい。