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もう絶対無理?完全に不可能??「変形」大好きリトラクタブルライトの名車たち

 かつてはスポーツカーの証でもあった「リトラクタブル式ヘッドライト」。ロボットが「変形」するかのようにライトがせり上がるその姿には、ワクワクさせられる魅力があり、当時のスポーツカー好きの心をつかんで離さなかった。筆者も子供の頃、せり上がるリトラクタブルライトが見たくて夕暮れ時に街をうろうろしていたものだ。

 残念ながら現在は見かけなくなってしまったリトラクタブル式ヘッドライトだが、いまでも、そのスタイリングとギミックに憧れを抱いている読者諸兄は多いだろう。リトラクタブル式ヘッドライトの歴史と、リトラの名車たちを振り返ろう。

文:立花義人、エムスリープロダクション
写真:TOYOTA、HONDA、MAZDA、Ferrari、MITSUBISHI、NISSAN、ISUZU、ベストカー編集部

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デザインと空力性能を追求して考案された

 世界で初めてリトラクタブル式ヘッドライトが登場したのは、1936年にアメリカで少量生産された高級車「コード810」というモデルだったそう。国産車では、1967年発売のトヨタ 2000GTが最初。固定式のフォグライトと小型のリトラクタブル式ヘッドライトという斬新な組み合わせで、5ナンバー枠に収まる小型のボディサイズながら、存在感とインパクトは抜群だった。

 リトラクタブル式ヘッドライトへの人々の憧れが強まったのは、1970年代のスーパーカーブームだ。特に1974年に登場したランボルギーニ カウンタックはその主役といっていいだろう。マンチェロ・ガンディーニによる美しく近未来的なデザインは、シザーズドアと共に最高のマッチングを見せた。

 リトラクタブル式ヘッドライトは、規格型のヘッドランプ(レンズカットにより配光するタイプ)しかなかった時代、前端の低いスポーツカーの車体デザイン上の自由度を高めることや、空気抵抗追求のために考案された装備。

 当時スポーツカーは、空気抵抗を減らすため、前端が低いものが主流であったが、ヘッドライトは保安基準で決められた高さより低い位置に設置することができなかったため、せり出してくる方式にすることで、車体デザイン上の自由度を高め、また、普段は格納しておくことで、空力性能を少なくすることもできた。

 技術的にいろいろ制約があった時代に生み出された仕組みだったわけであるが、「普段動かないところが動く」という構造は、結果的に多くのスポーツカーファンを魅了した。

 そんなリトラクタブル式ヘッドライトを採用した名車をいくつかご紹介しよう。

世界初のリトラクタブルヘッドライト装着車と呼ばれる「コード810」。開閉は室内から手動で行う

リトラクタブルヘッドライト搭載の名車たち

・マツダ (サバンナ)RX-7
 1978年登場のSA22型初代サバンナRX-7、2代目のFC3S型、そして3代目のFD3S型まですべてリトラクタブルヘッドライトを採用していた。多くの人が、リトラクタブル式の代表車種として挙げるのがRX-7だろう。

 初代の低く構えたフロントノーズとウェッジシェイプデザインは、やはりリトラクタブルヘッドライトがなければ完成しない。RX-7の象徴的な装備であるが、2002年にRX-7が生産終了して以降、国産モデルではリトラクタブルライトの採用例がない。日本のリトラの歴史はRX-7が主役だったといって過言ではないだろう。

FD3S型RX-7。初代から最終型までリトラクタブルヘッドライトを貫いた

・トヨタ スープラ(A70型)
 1986年登場のA70型スープラは、先代に相当するセリカXXのスペシャルティカー要素にスポーツの要素が加えられたモデルで、特に1999年8月にマイナーチェンジで追加された2.5GTツインターボは、走り屋の間で人気のグレードだった。

 長いボンネットにリトラクタブルヘッドライトというスタイリングは、シンプルでスマートな本格スポーツカーという印象。まさに機能美と優雅さの融合、といったモデルだった。

ホンダ 初代NSX(NA1/2型)
 世界初のオールアルミモノコックボディーを持つスーパースポーツモデルとして1990年に登場したNSX。軽量なシャーシに3.0L V6DOHC VTECエンジンをミッドシップに搭載し、世界のライバルと渡り合える究極のハンドリングマシンを目指して開発された。

 2001年のマイナーチェンジでヘッドライトが固定式に変更されたが、初代NSXと言えばリトラクタブル式のイメージが強い方は多いだろう。

トヨタ 初代MR2(AW11)
 日本の自動車メーカーで初となるミッドシップモデルとして、1984年に登場した「MR2」。5ナンバーサイズのコンパクトなボディにミッドシップレイアウト、直線基調のデザインに低いボンネットというスタイリングで、抜群にリトラクタブルヘッドライトが似合っている。

 1989年登場の2代目もリトラクタブル式だったが、ボディが大きくなったせいかリトラクタブルの印象はやや薄く、個人的には、初代モデルのほうが好きだった。

技術の進化で、デメリットが目立つように

 リトラクタブル式が採用されなくなった理由にはいくつかあるが、ひとつは、ヘッドライトの技術が進歩し、プロジェクター式やマルチリフレクター式が登場したため、形状・サイズの自由度が格段に向上し、格納式にしなくてもスポーツカーとしての機能性とデザイン性を両立できるようになった、ということがある。

 リトラクタブル式は、メカニズムが複雑なため、装備することでボディ先端部の重量が増加してしまう。これはハンドリングの悪化につながるし、格納しているときはいいが、展開した時には空気抵抗が大きくなってしまう、というデメリットもある。もともとスポーツカー向けに採用されたリトラクタブル式だったが、技術の進化で、格納式を採用する技術的理由がなくなるばかりか、デメリットのほうが多くなってきたのだ。

 また、自動車の安全基準も徐々に高くなり、歩行者衝突時になるべく衝撃を和らげるよう突起を極力少なくしたり、ボンネットに厚みを持たせる設計にしなければならなくなってきた。イザという時にポップアップしない、という故障のリスクも避ける必要がある。

 こうして実用性という面でも安全性という面でも、リトラクタブル式は採用されることがなくなっていった。

NSXも2001年のマイナーチェンジで固定式に変更されたが、究極のハンドリングマシンを目指すなら当然の選択だったのだろう。が、やはりリトラクタブル式の方がデザイン性は高い

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 現代の自動車に求められる安全性能や車両の軽量化を考えると、リトラクタブル式が復活する可能性は限りなくゼロに近い。しかし、やはり「変形」するカッコ良さは格別だ。文中で触れたように、国産車最後のリトラ搭載モデルは、2002年のRX-7、すでに20年選手となる。憧れのリトラのクルマに乗るなら、今が最後のチャンスだ。

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