コロナに感染したときに給付される「コロナ保険」が好調です。ネットから手軽に加入できる商品の登場もあり、第6波に入った今年は特に契約件数が急増しています。ただ、コロナ保険にはあまり知られていない盲点もあります。コロナ保険は“使える”のか、ファイナンシャルプランナーの視点から検証します。
オミクロン拡大で契約数が急増
国内の新規感染者が10万人を突破し、第6波が続くいま、新型コロナウイルス感染症への保障(補償)を売りにした保険の人気が急上昇しています。
2020年9月に「感染症プラス入院一時金保険」を発売した太陽生命は、昨年末に販売件数20万件を突破。スマホ決済のPayPayアプリから加入できる損害保険ジャパンの「コロナお見舞い金保険」(以下、PayPayほけん)は、20万件を発売からたった1カ月半で突破するなど、オミクロン株の拡大とともに驚異的な販売件数を記録しています。
全国で感染者増が報じられる度にコロナ保険への注目も高まっており、SNSでは「不安だからとりあえず入っておこう」「いつかかってもおかしくないから早く入っておかねば」というコメントが散見されます。一時期は500円の保険料で、感染時に5万円や10万円といった一時金を受け取れたことから、「500円が100倍、200倍になる」と、なかばギャンブル的に加入した人もいるようです。
加入者殺到で販売停止・保険料値上げも
いわば熱狂的な売れ行きに、実は保険会社側は苦しい対応に迫られています。2月4日、日本生命傘下の大樹生命は、コロナを含む感染症での入院で10万円が給付される医療保険「おまもリーフ」の販売を停止(参照:同社リリース)。「当初想定を大幅に超過」する感染者数が理由といいます。第一生命グループの第一スマート少額短期保険(以下、第一生命)も、コロナと所定の感染症の診断時に10万円が支払われる「コロナminiサポほけん」の保険料を2月から4倍以上に値上げ。前日まで3カ月890円だった保険料は3,840円と、発売以来の最高値になりました。同社は第5波だった昨年9月には新規加入を一時的に停止したこともあり、今後も再度販売停止になる可能性もあります。また、最低500円からの保険料を売りにしていたPayPayほけんも、 2月10日に3倍となる1,500円への値上げを断行しました。
保険は本来、基本的には加入者から集める保険料収入と、病気などで保険金を受け取る人への支出が等しくなるように設計されています。しかし感染爆発などで加入者から想定以上の保険金請求がくると、保険金支払が収入を上回ってしまいます。筆者が業界関係者に聞いたところによると、コロナ保険を扱う保険会社はどこも収支は「火の車」といいます。感染拡大が続けば今後、他社も追随して販売停止や保険料値上げに踏み切るとも考えられます。
急な感染や子どもには対応不可
このような状況では、コロナ保険に急いで加入せねばという心理にかられそうですが、安易に保険に加入するのは早計です。コロナ保険には盲点があるのです。
最も注意したいのが、保険の対象にならない期間です。PayPayほけんや第一生命のコロナ保険などは、補償開始が申込から15日目とされており、契約直後に感染しても保険はおりません。かりに2月10日に申込んだら、2月25日以降の感染からでないと対象外です。身近に陽性者が出て、自分が濃厚接触者になったときに慌てて保険に加入しても、補償開始前に陽性になれば、保険はおりないのです。
また、年齢制限もあります。ほとんどは18歳以上など大人が対象です。オミクロン株は10代以下の感染が目立ち、学校や保育所の休園が相次いでいますが、子どもにかけられるコロナ保険はほとんどありません。
ちなみに、コロナ保険は被保険者本人が感染した場合のみ保障(補償)されます。かりに子どもが感染し、コロナ保険に加入していた親がその濃厚接触者になったとしても、保険はおりません。子どもの感染対策としては、コロナ保険はあまり使えないのではないでしょうか。
ほかにも、加入できる職業が限られている、他のコロナ保険と重複契約ができないなど、制約のあるコロナ保険もあります。いくら保険料が手頃であっても、各保険が自分の条件に合うかどうかを確認してから加入することが肝要です。
コロナの拡大がこの先どうなっていくかは誰にも予測不可能です。予期できないリスクにこそ、保険で備えるものですが、幸いにして感染しなければ保険は掛け捨てです。そしてコロナ禍が長引けば保険料がどんどん高くなったり、最も保険が必要なときにかぎって対応できないリスクがあることは、十分に理解しておく必要があります。
そもそも一般の医療保険でも対応可
そもそも、実はコロナ保険でなくてもコロナへの対策はできます。一般の医療保険や生命保険の対象になるためです。
病気で入院したときに給付金がおりるような、ごく一般的な医療保険や生命保険の医療特約であれば、コロナでの入院も対象になります。基本的には病院への入院が要件ですが、現在は多くの保険会社が特別対応として、自宅療養やホテル療養も対象としています。陽性になったときの入院や自宅療養期間は発症日や検査日から10日間が基本ですから、たとえば1日1万円、入院1日目から給付される保険に加入していれば、10万円を受け取れることになります。
つまりコロナだけのために慌ててコロナ保険に入らずとも、すでに契約中の保険で対応できることがあるわけです。新しく加入するよりは、いま入っている保険の内容を確認するのが優先でしょう。
また、コロナは感染症法の指定により入院費用や治療費用はすべて公費負担で、医療費に関しては個人の自己負担はほとんどありません。経済的な負担は医療費よりもむしろ、感染したときに仕事ができなくなることでの収入減や、外出自粛の生活で生じるイレギュラーな出費の方と考えられます。
感染拡大の不安にかられてとりあえず加入する前に、そういった観点をふまえて、コロナ保険が自分にとって使えるかどうかを考えることが大切です。