もっと詳しく

 東京オートサロン2022で、華々しい日本登場を果たした新型フェアレディZ。いよいよ登場となったわけだが、新型フェアレディZの行き先はまさに前途多難。残念ながらその未来は決して明るくはない。

 この手のスポーツカーは、このご時世では発売されること自体が僥倖であり、同時代同地域のクルマ好きにとって幸運ではあるが、しかし開発し、生産し、発売することと同じくらい「販売し続けること」は難しい。それは、新型フェアレディZを含む「スポーツカー」全体にとって、一筋縄ではいかない「壁」が立ちふさがっているからだ。

 新型フェアレディZを待ち受ける3つの壁、それは「CO2排出量規制」と「騒音規制」、そして「販売台数」だ。

文:吉川賢一
写真:NISSAN、エムスリープロダクション

【画像ギャラリー】東京オートサロン2022での、日本仕様の新型フェアレディZ発表のようす(31枚)画像ギャラリー

第一の壁はCO2排出規制

 最高出力405ps、最大トルク475Nmを発揮するV6ツインターボエンジンは、歴代Zの中でも最強のユニットだ。スカイライン400Rと同じユニットだが、およそ250kgも軽いZ34(Z34は車両重量1510 kg、V37スカイライン400Rは車両重量1760kg)との組み合わせともなれば、パフォーマンスの高さは保証されたようなもの(トラクションコントロールがなければ簡単にホイルスピンするはず)。だがその反面、CO2排出レベルは酷いレベルだ。

 特に欧州で強化されているCAFE規制(走行1km走行あたりの企業平均のCO2排出量)では、基準を満たさなければ高額な罰則金が課される。この規制値は、段階的に厳しくされていく。もちろん日本も追従しており、「2030年以降に企業別平均燃費で25.4km/L(WLTCモード)を求める」といった規制案が提出されている。

 現行(E13)ノートが、WLTCモード燃費28.4km/h。このままでは、8年後にはZを1台売って出た燃費の「赤字」を、ノートを何台も何台も売って埋めなければならない状況となる。Zは、電動化へと邁進している日産において、足を引っ張る存在なのだ。

2022年10月の騒音規制強化もダメージに

 また騒音規制も同じく、フェアレディZの存続を難しくさせている。現在(2022年2月)の日本の騒音規制は、国際基準で決められた、「フェーズ2」と呼ばれる規制値を新車の義務としている。これが、2022年10月より、「フェーズ3」という、さらに高い規制値へと引き上げられるかも知れないのだ。

 Z34の騒音値は76dB(全開加速時の騒音レベル)。現状は「平成10年規制に適合する」ということで新車販売が許可されている。だが、Z34のような高出力スポーツカーが属するカテゴリ(※エンジン最高出力と車重の比率によって分類)は、フェーズ2で73dB、フェーズ3は71dB(予定)と、Z34は既にNGゾーンにいる。

 現在はその車両が発売された時点の騒音規制に則していればOKだったが、新車販売される全車に対して規制適用となった瞬間、Z34は規制未達となり、規制値をクリアするまで、販売停止となる。もちろん、ハイブリッド化してエンジン音を下げる、エンジンルーム全体を遮音して音が漏れないようにする、タイヤ性能を上げてロードノイズを下げる、と対策はできるが、それをやれば当然車両価格は上がっていく。

 ASC(アクティブサウンドクリエーター:エンジンサウンドを増幅させて、車内のスピーカーから出す)のようなデバイスが搭載され始めてはいるが、走行音が静かになったスポーツカーに、そして価格が高騰したスポーツカーに、ファンはどこまでついてきてくれるのか。Zだけでなく、現在販売されているスポーツカーには、「モデル廃止か、高額化か」という、厳しい選択が迫られているのだ。

 新型フェアレディZは、Proto Specの価格が694万円、通常モデルでは、500万円後半になると思われるが、それでも、ギリギリ300万円台で購入できた従来型フェアレディZに対しては、100万円以上も高額となった。「誰でも買えるスポーツカーを!!」という意気込みから始まったモデルであるフェアレディZが、時代の流れとはいえ、これ以上の高額化をファンが受け入れてくれるかは、難しい判断だ。

 なおフェーズ3の導入は、現時点決定しているわけではない。騒音規制が先行している欧州国連の騒音専門家会合の動向を見ることになっていたが、コロナ禍によって調査会の会合は延期、中止とされており、議論は進んでいない、というのが現状だ。

自らもZファンだという、日産自動車の内田誠社長。社会人になって初めて買ったクルマがZ32で、「自分をカッコよく表現させてくれる存在」だったという

話題の新型とはいえ、販売台数は見込めない

 現行Z34の販売台数は、14年間で約13万台(2020年は395台、2021年は461台)だ。1969〜1978年の10年間で48万台も売れた初代S30型や、1978~1983年の6年間で約42万台が売れた2代目のS130型のように、フェアレディZの売り上げが、日産の収益へ直接的に貢献していた昔とは、状況が大きく異なり、内外装のデザインを刷新したとはいえ、2ドアクーペであるフェアレディZの需要が大きく増えることは考えられない。欲しい方がひと通り購入したあとは、じりじりと台数を落とすことになるだろう。

 そうなると当然、「モデル存続の危機」となる。上記のような規制に対応しなければならないとなったらなおさらだ。

「限定販売方式」にしてはどうか

 2021年8月、日産はGT-R NISMOの2022年モデルを発表したが、事前予約が殺到し、発表時点ではすでに予定販売台数を超えて受付終了となっていた。その翌月登場したGT-Rの2022年モデルの100台限定特別仕様車「T-spec」の両モデルは、なんと抽選制という販売方法がとられたが、やはり申し込みは殺到、追加で100台販売されたそうだが、こちらも即完売だったそうだ。

 新型フェアレディZは、限定の特別仕様車「Proto Spec」が用意されているが、レギュラーモデルの方も、「2022モデル限定販売1000台」といった形で、稀少価値を持たせてはどうだろうか。Z34はこれまで、マイナーチェンジとは別に、「ヘリテージエディション」(2018)や、50周年記念モデルの「50th アニバーサリー」(2019)を、期間限定車として発売してきた。

 これらは飽きられたZマーケットに刺激を与える施策となり、売り上げにも貢献したという。スポーツカーという特性(趣味性)を考えれば、レギュラーモデルを用意しておくよりも、このような限定販売方式のほうが有効なのではないだろうか。

 東京オートサロン2022では、アフターパーツを装着したコンセプトカー「フェアレディZ CUSTOMIZED PROTO」が登場したが、こちらはおそらく、「世界限定432台」として用意されるだろう。Zファンならばピンと来るであろうが、「432」という数字は、初代フェアレディZのトップグレードとして設定された「Z432」にあやかったもの。こうした意味のある数字はアピール力が強く、使わない手はない。

東京オートサロン2022で登場した、アフターパーツを装着したコンセプトカー「フェアレディZ CUSTOMIZED PROTO」

◆      ◆     ◆

 次の節目は、60周年となる2027年モデルあたりだ。規制強化でZ34に残された時間は少ないが、売り方で、長きにわたって日産のスポーツモデルとして貢献してきたZ34に有終の美を用意してほしい。そしてその先には、バッテリーEVとして、フェアレディZが生き残る道を用意してほしい、と思う。

【画像ギャラリー】東京オートサロン2022での、日本仕様の新型フェアレディZ発表のようす(31枚)画像ギャラリー

投稿 祝・新型フェアレディZ登場!! めでたいし誇らしいけど…Zを待ち受ける3つの試練自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。