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 NTTインディカー・シリーズは西海岸に移動し、歴史あるロングビーチで第3戦を迎えた。昨年は9月の最終戦として行われたために、およそ半年でロングビーチに戻ってきたことになる。

 佐藤琢磨は、その最終戦でレイホール・レターマン・ラニガンで最後のレースを走り、インディカーで199戦目のレースを9位で終えていた。そして今年はデイル・コイン・レーシン・ウィズ・リック・ウェア・レーシングのドライバーとして202戦目として迎えることになった。

 開幕のセント・ピータースバーグでは、グリッドの後方から10ポジションアップのオーバーテイクショウを見せ、第2戦のテキサスでは予選で快走し予選3番手を手に入れて、レース序盤で上位入賞を期待させた。いずれのレースも光るところを見せ、歯車さえ噛み合えば、また上位に戻ってくるのは容易に想像できた。

 だが思惑通りに事が運ばないのも、またレース。金曜日のプラクティスでは、なんと23番手。いくらタイム差が出にくい難しいロングビーチと言えど、トップから2秒離れての23番手は由々しき問題だ。

伝統のロングビーチGPに挑む佐藤琢磨
伝統のロングビーチGPに挑む佐藤琢磨

「出るたびにトラフィックに引っかかっていました。でもストレートでのスピードが遅くて、ストレートエンドのスピードは最も遅いんですよ。チームメイトと比べても明らか。テキサスでは良かったんだし、エンジンではないようで、マシンの全体のバランスででドラッグが大きくなってると思う。何だろう?」と琢磨も首を傾げる。

 土曜日のプラクティスでも状況は一変せず23番手。このままでは予選での苦戦は目に見えていた。

「いろいろなところを見直して、少しはよくなってますがまだ足りない。全部を見直してますが……」

 予選はグループ1での予選を11番手となり、総合で22番手と厳しい順位。予選を終えてマシンをガレージに戻すと、琢磨はエンジニアのドン・ブリッカーとマシンを隅から隅まで舐め回すようにチェックしはじめた。

 マシンのフロアを覗き込んでみたり、いまだかつて見た事のない光景だった。それはそうだ。チームメイトのルーキーにさえ劣るスピードに納得がいくわけがなかったのだろう。

 マシンが遅い原因がどこまで究明できたのかわからないが、翌朝日曜日のウォームアップでは走り初めのタイムは良かった。これは気温が涼しくてダウンフォースの量が変化したからと推測していたが、終わって見れば22番手と厳しいポジションは変わらなかった。
「いつもならダウンフォースをトリムして、レースに臨みますが、あまり減らしすぎてもタイヤを傷めてしまう。何もなければ3ストップだから残ったレッドをうまく使って上がっていきたい……」

 琢磨も描いた思惑通りにレースはうまく運ぶのだろうか。

 レースのスタートは比較的静かだった。オープニングラップでイエローコーションも出る事なく、6周目にAJフォイトのダルトン・ケレットのクラッシュでイエローになるまでは、大きな乱れはなくレースは進んだ。

 このイエローが解除されグリーンになった瞬間に琢磨に勢いがついた。まずは目の前のフンコス・レーシングのカラム・アイロットがもたついた瞬間にこれをかわしてポジションアップ。

 その次の獲物は、昨年までの自分のマシン、カーナンバー30のクリスチャン・ルンガードを、ターン1で抜いた。

 19周目、今度はチームメイトのデイビット・マルーカスを同じくターン1の進入で追い抜く。

 20周を過ぎると3ストップのマシンが次第にピットに入り始め、ブラックでなおかつ燃費も慎重にコントロールしていた琢磨はポジションを上げていった。

 琢磨は26周目にベストラップをマークすると9番手までポジションを上げて、29周目にピットへ。これでうまく行けば2ストップで走り切れる計算になった。

レッドタイヤで追い上げを狙う佐藤琢磨
レッドタイヤで追い上げを狙う佐藤琢磨

 ピットアウトして順位が落ち着くと14番手となった琢磨は、しばらくこう着状態に陥った。前のエド・カーペンター・レーシングのコナー・デイリーをマークしながら周回を続け55周目を境に2回目のピットインが始まった。

 琢磨は56周目に思うように走らなかったレッドタイヤを脱ぎ捨てるようにブラックタイヤに変更して、最後のスティントに備えた。

 波乱は最後に訪れた。この週末3度目のウォールにヒットとなったNASCARのレジェンド、ジミー・ジョンソンがターン8でマルーカスを巻き込む形でクラッシュ。

 残り6周で最後のドックファイトとなったが、琢磨の後ろにはイエローの間にニューレッドに履き替えたリナス・ビーケイが虎視眈々と上位を狙っており、グリーンになるやいなや、またもターン8で琢磨に襲いかかってきた。

ヴィーケイと争う佐藤琢磨
ヴィーケイと争う佐藤琢磨

 ビーケイは琢磨のイン側にダイブ。琢磨はそれを避けるようにはらむと、アウト側のタイヤカスに乗りタイヤバリヤに。マシンに大きなダメージはなかったものの、残り1周では戦列に戻る時間もなく、実質レースは終了。

 22番手から13番手まで上がっていた順位を失い、結局17位で終わった。

 琢磨は「まるで昨年のF1最終戦のようでしたよね。あの状況になったらニュータイヤの方が有利だったけど、あそこに飛び込まれたら、どうしようもない。今週はずっと苦しかったし、レースで10ポジションくらいは上がれていたので内容は悪くなかったのに」と唇を噛みしめた。

「次のアラバマは僕も良い思い出のある所だし、デイル・コインのクルマはロードコースで速い。チームメイトがテストで良いタイムを出しているので楽しみにしてます」と次戦に期待を抱かせた。