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今から約1年3カ月前の2020年11月30日未明、東京都町田市の小学校に通っていた上野香織さん(仮名、当時12歳)が、自宅で首を吊って亡くなった。残された遺書には、いじめを指摘する内容が残されていた。学校が児童に貸し出した「タブレット端末」のチャット機能が、いじめに使われた事件。こう聞くと、思い出す人も多いのではないだろうか。

自殺の原因を調査した報告書

小学6年生の女の子が、いじめを苦に自殺した痛ましい事件。これまでそのように報道され、町田市や学校側の対応を問題視する論調が圧倒的だったが、サキシル編集部が「町田市教育委員会いじめ問題対策委員会」の「重大事態調査経過報告書」を読み込み、さらに関係者への取材を通じて香織さんの遺書を入手した。これらを総合的に検討すると、報告書でも明記されているように、「いじめ以外にも原因があった可能性」が浮上している。

報告書によると、香織さんが死亡した当日、町田警察署から小学校に連絡があった。両親は警察に対して、こう語った。

「自分たち家庭に原因があると思う」

学校に関する話はなかったという。また、香織さんの母親は児童相談所にたびたびこのような相談をしていたという。

「子育てに苦労している。夫が香織に手をあげることがあり、どうしたらよいか」

児童相談所の職員が家庭訪問をしようとした際、香織さんの母親は承諾したが、父親は受け入れなかったため、訪問は中止となった。児童相談所の職員は、小学校を訪れ香織さんと面談した。

児童相談所が学校を訪問するのは、一般的には、虐待など家庭環境に何らかの問題がある場合に限られる。

香織さんの遺書に書かれていたこと

その手がかりになるのが、香織さんの遺した遺書だ。いじめを受けていたという告白のほかに、家庭でも辛い思いをしていたことが書かれていた。

1回しせつ(注・施設、児童養護施設か)入れようとしたでしょ??

死にたい けってもどうにもならないよ 殺してよ いらないなら なんで産んだの?

育ててくれないなら 産まないで

望んでないなら産まないで

いらないなら殺せば

香織さんを追い詰めたものは複合的な要因か…(※画像はイメージです。KatarzynaBialasiewicz /iStock)

明らかに苦悩した様子を伺わせる内容だ。先述したように、報告書では、「当該児童の自死の原因は、いじめだけが原因ではない可能性があった」とも指摘している。香織さんが死を選ばざるを得なかった理由は、厳密には本人にしか分からない。だが、報告書と遺書を読む限り、「いじめ」と「家庭環境」の問題が複合的に絡み合って、少女の心を追い詰めて行った可能性が考えられる。

昨年9月、香織さんの両親が文科省で記者会見したことに端を発した、この問題は「いじめ」ばかりがクローズアップされたが、委員会も遺書の内容は把握しているとみられ、報告書では遺書の内容を明言こそしていないものの、あらゆる原因を想定していた可能性をうかがわせる。

「町田小6いじめ自殺」のセンセーショナルな報道は、児童や学校関係者、教育行政、地域社会にも重大な影響を与えたが、新聞、テレビ、大手週刊誌などの一面的な“ストーリー”で当事者が振り回されてきた可能性が浮き彫りになった

サキシル編集部は、香織さんの両親に話を聞いたが、応対した父親は「そういう家じゃないから」と家庭環境の問題については否定した上で、「代理人を通して欲しい」と述べるにとどめた。これを受け、編集部では、代理人の弁護士に繰り返し連絡を取ったが、期日までに回答はなかった。

町田市は、「いじめ問題対策委員会」の報告を受け、「いじめ問題調査委員会」を設置。両者はよく似た名称で非常に紛らわしいのだが、まったく別の組織で、メンバーも異なる。現在は、「調査委員会」によって調査が進められており、今春にも報告書が提出される見通し。