もっと詳しく

地方自治体が公認するNFT(非代替性トークン)があることをご存じだろうか。新潟県長岡市山古志地域にある地域活性化団体「山古志住民会議」が発行している、「Colored Carp」がそれだ。地域の名産である錦鯉をモチーフにしたNFTアートで、地元自治体の長岡市が公式パートナーとなっている自治体公認のNFTプロジェクトだ。

山古志住民会議プレスリリースより

プロジェクトの背景には、山古志地域の深刻な人口減少がある。山古志地域は2005年に長岡市に編入されているが、それまでは「新潟県古志郡山古志村」として独立した自治体だった。2004年には山古志村を新潟県中越地震が直撃。全村民が長岡市など近隣自治体への非難を余儀なくされた。震災前の2000年に2200人ほどいた人口は震災後も戻らず、現在、山古志地域の住民はわずか800人ほどだ。

住民が減っていくことは、さらなる人口減少につながる。ある程度の人口を維持できないと、生活することすらままならない。たとえば、山古志地域は雪国・新潟でも屈指の豪雪地帯で、今月6日には積雪が3メートルを超えた。屋根に積もった雪を下さなければ、家がつぶれる。しかし、高齢者の一人暮らしの場合、自分で雪下ろしをすることは無理だ。地域にある程度の住民がいれば住民同士の助け合いで何とかなるかもしれないが、山古志地域のような限界集落ではそれも難しい。いくらその地域で暮らし続けたいと思っていても、現実がそれを許さないのだ。

住民が減り続ける山古志地域を、デジタルの力で何とか持続可能な地域にすることはできないかというのが、このプロジェクトの趣旨だ。

山古志地域(プレスリリースより)

NFT保有者に一部の予算執行権限

昨年12月に発行されてから2カ月ほどが経つが、2月9日時点で550点あまりが購入されている。価格は0.03ETHなので、約1万600円ほどだ。すでに600万円近い資金調達に成功していることになる。

さらに、このNFTプロジェクトが画期的なのは、デジタル住民票が付与される点。デジタル住民票付きのNFTは世界初の試み。デジタル住民から「持続可能な山古志」を実現するためのアイデアを募集し、NFTの販売益で実現していくという。

danijelala /iStock

また、デジタル住民票を持つ人、つまりこのNFTを保有する人に、一部の予算執行権限を渡す点も特徴的。今月には、山古志地域を存続させるための施策を、デジタル村民の投票によって決定する「山古志デジタル村民総選挙」が行われる。

施策のアイデアは2月18日まで募集されており、26日から28日にかけて投票される。当選アイデアを考案した人には、NFT第1弾セールの売上の約30%(3ETH=約105万円)が活動予算として支給される。この活動予算を使って、アイデアを実現していくというわけだ。

「Colored Carp」は、デジタル住民票を兼ねたNFTだが、購入する人はどの地域に住んでいても構わない。そのため、意思決定の権限を山古志地域に住んでいない人に渡してしまうことにもなりかねない。

この点について、山古志住民会議は、「デジタル村民に予算執行権限を委ねること、時間感覚の違う山古志のリアルとデジタル村民コミュニティの接続についての葛藤はあります」と、ブログで複雑な心境を明かしながら、次のように綴りこの取り組みのメリットを強調している。

私たちは彼らのことをゲストでも、ボランティアでもなく、口先ではない「仲間」として認めたいのです。お互いに、仲間として認めあい、信頼関係を築いていく過程の葛藤や嬉しさ、気づきも体感し合いたいと思うのです。

この地で生き、私たち山古志の文化を保持し、体現し続ける山古志住民と、居住の有無や様々な制約を越えた共感者であるデジタル村民とともに、持続可能な「山古志」を目指し、挑戦し続けます。

世界でも類を見ない、先進的なこの取り組み。発売から2カ月で約600万円を調達するなど、第一段階である資金調達の滑り出しは順調だ。次は、その資金をどのように使って行くのかというフェーズに移る。

日本には現在、2万カ所以上の限界集落があるという。山古志地域で今行われているプロジェクトは、そうした限界集落を今後も持続可能にしていくためのモデルケースになるのか注目したい。