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帰ってきたラリーアートに感涙! やっぱりカッコよかった!! 今後の展開に期待!!!

 三菱自動車は3月17日、ラリーアートブランドの国内復活第1弾として、クロスオーバーSUV「アウトランダー」「エクリプスクロス」、コンパクトSUV「RVR」、ミニバン「デリカD:5」用の専用アクセサリーを設定し、発売した。

 さらに翌日、待ちに待ったモータースポーツへの再参入も発表され、三菱自動車が技術支援するプライベートチーム「チーム三菱ラリーアート」が今年8月に行われるアジアクロスカントリーラリーに参戦し、増岡浩氏が総監督に就任することが伝えられた。

 また海外では、昨年11月にタイでトライトンとパジェロスポーツにラリーアート特別仕様車を発表、3月に開催されたバンコクモーターショーではその第2弾としてトライトン進化版とミラージュのラリーアート特別仕様車を出展した。

 ついに、三菱自動車の栄光の時代を象徴するラリーアートが本格的に復活したのだ。そこで、今回は、ラリーアートの最新状況はどうなっているのか、報告したい。

文/柳川 洋、写真/三菱自動車

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■「ラリーアートブランドの復活」という言葉の真の意味

 2021年5月、三菱自動車の2020年度決算が発表された。コロナ禍の影響で3000億円を超える最終赤字という極めて厳しい内容だったが、決算発表プレゼンテーションのなかに、見る人が見たら驚く1ページがあった。

 そこには、ピックアップトラックが豪快に未舗装路をドリフトしている写真と、ラリーアートパーツと書かれたリアスポイラーの写真の2枚の上に、そっけなく「三菱自動車らしさの具現化に向けて ラリーアートブランドの復活」とだけ書かれていた。

「ラリーアートブランドの復活」という一行には、非常に深い意味が込められていた

 あまりにさりげなく書かれているので、これが何を意味するのかわからない人も多かったようで、決算内容を報じるメディアでもこれに着目した人はほとんどいなかった。だが、実はこれは、三菱自動車復活に向けた「のろし」だったのだ。

 ラリーアートとは、三菱自動車自らがヘリテージブランド、すなわち伝統として残していくブランドと位置付けている、三菱自動車のかつての黄金時代を象徴するブランドだ。

 1981年、オイルショック後のモータースポーツ活動休止を経て再び世界ラリー選手権(WRC)に参戦した時のチーム名「チームラリーアート」に始まり、1984年には三菱自動車のモータースポーツ事業専門の会社として「株式会社ラリーアート」が設立された。

 1985年にパジェロが日本車初のダカールラリー総合優勝の快挙を達成した時も、そのロゴは車体側方後部に掲げられていた。

 かつての三菱自動車は、ラリーを中心としたモータースポーツで鍛えられた高い技術力を活かし、クルマとしての素性がよく運転して楽しい市販車を作り、WRCやパリ・ダカで優秀な成績を収めるとそのニュースを見て三菱ファンが増えてクルマが売れた。

 「今度は三菱はどんなクルマを作ってくるのだろう」と、クルマ好きだけでなく普通のドライバーまでワクワクさせてくれるような自動車会社だった。

 1985年からパリ・ダカールラリーがNHKで大きく取り上げられ、初代パジェロを駆る篠塚健次郎の活躍の知らせに日本中が盛り上がり、クルマも大人気に。

 1991年には篠塚健次郎が今度は日本人ドライバーとして初めてラリー最高峰のWRCに優勝し、1992年にはパジェロがパリ・ダカ総合優勝を1-2-3フィニッシュで決めた。

1992年のダカールラリーで1-2-3フィニッシュを決めるパジェロ3台

 その年、300万円を超える高価格帯のクルマだった二代目パジェロが、アウトドア・スキーブームにも背中を押され、国内4WD車最多販売台数を達成して8万1707台も売れた。

 ピンとこないかもしれないが、2021年の新車販売台数ベスト6のライズの台数とほぼ同じ販売数だ。続く1993年には再びパジェロがパリ・ダカ総合優勝。

 レースで証明された技術力の高さで、三菱自動車のブランドイメージはさらに高められ、1994年と1995年には国内販売シェアで三菱自動車がホンダを抜き、トヨタ、日産に次ぐ3番手となった。

1991年にデビューして大ヒットとなった2代目パジェロ

 WRCでも1996年から1999年までのトミ・マキネンとランサーエボリューションによる前人未到の4連覇と、三菱として初となる1998年のマニュファクチャラーズチャンピオンシップ獲得を達成し、国内でもランエボは大人気となった。

エースナンバー1のゼッケンをつけてランサーエボリューションVを駆るトミ・マキネン、フロントフードヘッドライト上、リアタイヤ上にラリーアートのロゴも

 つまり、ラリーアートの成功の歴史は、三菱自動車の成功の歴史といっていい。

 だがその後、さまざまな不祥事が起こり、会社としての存亡の危機を乗り越えるためにダイムラーからの出資とその解消、日産・ルノーアライアンスへの参加など資本関係も変わり、モータースポーツからも撤退し、三菱自動車としてのDNAが希薄になってしまっていた。

 かつての栄光の時代を知っている社員や技術者の方たちは、長い間悔しい思いをし続けてきたに違いない。

 ラリーアートの成功が三菱自動車の成功であるとすれば、今回の「ラリーアート復活宣言」は、「三菱自動車復活宣言」であり、長く暗いトンネルを経て、三菱自動車が本来の「らしさ」「DNA」を取り戻す、という決意が示されたと受け取った人も多かったのではないか。

 そして今回のアジアクロスカントリーラリーへの参戦発表で、三菱自動車のモータースポーツへの回帰という「本気の復活」が始まることが明らかになった。

■「三菱自動車のDNA」ラリーアート復活への道筋

 それでは今回のラリーアートブランド復活の流れを改めて整理してみよう。

 2021年5月の「復活宣言」の後、11月にラリーアート復活第一弾となるピックアップトラックのトライトンとミッドサイズSUVのパジェロスポーツの特別仕様車がタイで発表された。

左からパジェロスポーツ、トライトンシングルキャブ(2ドア)、トライトン目がキャブ(4ドア)、いずれも大きなサイドデカールがラリーアート車であることを主張)

 エクステリアでは、かつてのラリーアートモデルを思い起こさせる大きなサイドデカールや、三菱自動車のコーポレートカラーである赤地にラリーアートのロゴが入ったマッドフラップが装着されている。

 グリルは標準のシルバーからブラックアウトされ、赤いフロントガーニッシュとのコントラストが目をひく。インテリアにはラリーアートのロゴが入ったフロアマットが採用されている。

悪路走破性と実用性が高いのに乗用車の乗り心地、というかつてのパジェロの美点を受け継いだピックアップトラックトライトン、日本で乗ってもかっこいいはずだ
ブラックアウトされたフェンダーアーチモールとホイールが足元を引き締めて、もともとダイナミックなスタイリングがさらにアグレッシブに

 三菱自動車にとって最もクルマが売れて利益率も高い、経営再建の頼みの綱であるアセアン市場の中でも、最も市場規模が大きいタイ。

 そこでの主力車種である現行トライトンは、デビューからすでに7年近くが経過し、テコ入れが不可欠だった。今回のラリーアート復活による特別仕様車の発売は、タイでの営業現場にとっては渡りに船だった。

 そして翌月の2021年12月、東京オートサロン2022で、ラリーアートコンセプトカーが世界初公開された。

アウトランダーPHEVをベースによりスポーティーで高級感のあるオンロード中心のハイパフォーマンスSUVを作りたいという意識が伝わってくる

 フロントグリルや22インチホイールにはラリーアートのロゴの中心部にある10本線があしらわれ、存在感をアピール。

 このコンセプトカーは、「内燃機関車によるラリーカー」というこれまでのラリーアートの世界を、PHEVなどの電動車やオンロードに広げていこうという意欲が示された、将来を見すえた1台となっていた。

 三菱がそれまでのクロスカントリー車の概念を覆して成功したかつてのパジェロのように、新しい環境の下で新たな市場を切り開いていく都会でも映える三菱らしいクルマを作りたい、という願望をカタチにしたものなのかもしれない。

ラリーアートのロゴの中心部にある10本線がフロントグリルに光る

 単に既存の三菱車にスポーティーなアクセサリーを提供するだけにとどまらず、ラリーアートの名前のもとに新しいクルマを作っていく可能性を示唆するこのコンセプトカーにも、三菱自動車復活への思いが込められていたように思えたのは筆者だけではないだろう。

 3月17日には、国内でもラリーアートブランドが正式に復活し、クロスオーバーSUV「アウトランダー」「エクリプス クロス」、コンパクトSUV「RVR」、オールラウンドミニバン「デリカD:5」向けのアクセサリーが発売開始となった。

タイでの特別仕様車よりやや地味だが、同様のアクセサリーが車種を拡大して国内でも展開される、国内でラリーアートのロゴが再び見られるのは感慨深い

 筆者は三菱自動車の本社ショールームで、エクリプス クロスのラリーアートアクセサリー装着車を公開初日に実際に見に行き、写真を撮っていたら、ショールームのスタッフの方たちが「ラリーアートが復活するんですよ」と嬉しそうに話しかけてきてくださった。

 また社員の方たちまでショールームにクルマを見にきていた。

実際に見てみると後付けパーツ特有の「やり過ぎ」感がなく、それでいてしっかりラリーアートの存在感があり、バランスよく感じた
赤い三菱カラーとラリアートのロゴ、ブラックアウトされたホイールとホイールアーチという鉄板の演出が、ホワイトメタリックの美しい塗装面に上品に浮かび上がる

 さらにその翌日、3月18日には、タイで新型の戦略車「エクスパンダー」に加え、「トライトン ラリーアート」「ミラージュ ラリーアート」が発表されると同時に、「チーム三菱ラリーアート」が2022年8月に開催されるアジアクロスカントリーラリーにトライトンで参戦することも発表された。

ロールゲージが組み込まれたラリー仕様のトライトンは8月開催のアジアクロスカントリーラリーに向けて順調に仕上がってきているように見える

 筆者は、三菱自動車のマネージャー級の方にお話を伺ったが、「アクセサリーの販売をするだけでなく、ラリーアートが実際にクルマを作ってレースに再参戦する日が来るなんて、本当に信じられなくてびっくりしています、社員の士気も上がりました。これで日本でもラリーに参加してくれればいいのですが」とおっしゃっていた。

 筆者が「日本だけではなく、WRCにも再参戦できたらいいですね」と水を向けたら嬉しそうに「それはいきなり無理でしょう」と笑っていた。社員の方達にとっても、ラリーアート復活というのは喜ばずにはいられないニュースだったのだろう。

 「チーム三菱ラリーアート」はタイのタント・スポーツが運営するプライベートチームではあるものの、今回「ラリーアート」のブランドを背負って三菱自動車の技術支援を受ける上、総監督には40年間三菱のラリードライバーを務め、2002年、2003年とダカールラリーを2連覇した増岡浩氏が就任したことからも、セミワークス的な立ち位置であることがわかる。

 増岡浩氏はこうコメントしている。

 「三菱自動車は長年にわたり世界ラリー選手権やダカールラリーなどに参戦し、それぞれで頂点を極め、どんな天候や道でも安心して楽しめる三菱自動車らしい走りを実現させてきました。

 今回の技術支援という形でのアジアクロスカントリーラリーへの挑戦は、アセアンでの主力商品であるピックアップトラックやクロスカントリーSUVの商品強化に繋がる活動です。ファンの皆様のご期待に沿えるよう、しっかりと準備をすすめてまいりますのでご期待下さい」。

ロールゲージが組み込まれたラリー仕様のトライトンは8月開催のアジアクロスカントリーラリーに向けて順調に仕上がってきているように見える

 アジアクロスカントリーラリーは、タイを主な舞台とするFIA公認のレース。過去2年間はコロナ禍で開催されなかったが、2019年はタイのパタヤからスタートし、ミャンマーのネピトーをゴールとする合計約2200kmにもおよぶ6レッグを7日間で競うというものだった。

 四輪部門は34チームがエントリーし、総合優勝はランドトランスポート・アソシエーション・オブ・タイランドいすゞのピックアップトラック、D-MAXで、7連覇達成となった。

 はたして今年は、ラリーアートのトライトンが、いすゞD-MAXの8連覇を阻み、ラリーアートのモータースポーツ復帰初戦を飾ることができるのだろうか。

 三菱自動車が最も多くのクルマを売り、高い利益率を維持しているアセアン市場。オフロードで速くて曲がり、耐久性に優れた4WD技術を持つ三菱自動車「らしさ」が最も強く発揮されている。

 そこでの電動車への移行にあたっては、充電インフラの整備の難しさから、先進国のように純粋なBEVに一気にシフトするのではなく、三菱自動車の得意とするPHEVへの移行が主流となる。

 アジアのモータースポーツ界でラリーアートが成功すれば、成長を続けるアジアの自動車市場での三菱自動車のさらなる成功につながり、三菱自動車の完全復活が見えてくるだろう。

 その意味でも、8月のアジアクロスカントリーラリーでのラリーアートの活躍に期待せずにはいられない。

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