いまや次世代のクルマとして各国のメーカーで開発が進んでいる「電動車」。2022年3月23日から4月3日に開催された「バンコク国際モーターショー」では、アジアの大手メーカーによる最新の電動車同士が火花を散らしていたという。
特に注目を集めたのが、2021年12月にBEV(バッテリー電気自動車)フルラインナップを発表したトヨタと中国系メーカーだ。
多くのメーカーが工場を持つタイにて、最新の電動車開発の現在を確認した。
文/小林敦志、写真/小林敦志、TOYOTA、ベストカー編集部
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■バンコク国際モーターショーで感じた変化
2022年3月23日から4月3日の会期で、“第43回バンコク国際モーターショー”が開催された。
トヨタモータータイランドの資料によると、タイでの2021暦年締めでの新車販売台数は75万9119台、そのうち日本車の販売台数は66万4014台となり、全体の約87%が日本車となっている。さらに、そのなかでもトヨタ(レクサス含む)は約31%で販売トップとなっている。
今回ショー会場を訪れるのは3年ぶりで、コロナ禍となってからは初めてとなる。コロナ禍前の様子からいけば、販売台数が圧倒的に多い日本車がショーの主役となっていたのだが……。久しぶりに会場を訪れると、その変化に驚かされた。
中国系ブランドが存在感を強く見せていたのである。コロナ禍前まではタイに進出していた中国系ブランドは上海汽車系のMGだけであったが、2021年からGWM(長城汽車)が、撤退したGM(ゼネラルモーターズ)の生産設備などを買収する形でタイへ進出しているのである。
タイ政府が電動車普及への政策を打ち出しており(地元ではどこまで本気か懐疑的)、今回タイを訪れる前から、BEV(バッテリー電気自動車)のラインナップの多い中国系は元気なんだろうなあ思ったのだが、ここまでとは思わなかった。
しかし、実際にMGやGWMのブースへ行くと、BEVばかりが展示されているというわけでもないのである。とくにGWMではHEV(ハイブリッド車)の展示が目立っている。ショー会場で初披露されたT300というSUVもHEVであった。
MGはHEVこそなかったがPHEV(プラグインハイブリッド車)なども熱心に展示していた。HEVは中国における“新エネルギー車”の対象から漏れており、中国系ブランド車で搭載されているのは極めて珍しい。
電動車では出遅れている日系ブランド唯一の“得意技”ともいえるのがHEV。新興国での車両電動化は先進国のそれとは異なり、地球温暖化など気候変動対策というよりは、都市部の大気汚染防止や原油輸入量の削減など、もう少し現実的な理由で取り組むことが多い。そのため、“何がなんでもゼロエミッション車”というわけでもなく、燃料消費の少ないHEVやPHEVも重要な電動車になるのである。
中国とてBEVを熱心に自国メーカーにラインナップさせる理由のひとつは原油輸入量の削減というものがあるとも聞く。中国系メーカーも自国以外ではBEVも含む、PHEV、HEVも含んでの電動車ラインナップ強化を進めていくのならば、日本車はますます追い込まれていくことになりそうだ。
■トヨタを「ロックオン」する中国メーカー
ショー会場の展示ブースレイアウトも実に興味深いものであった。トヨタ&レクサスブースを両脇で挟む形でMGとGWMがブースを構えていた。狙ったものとは思いたくないが、まるでトヨタがロックオンされているかのように見えたし、地元の事情通も同じようなイメージを受けたと話してくれた。
中国系2ブランドが市販車ベースで、BEVだHEVだPHEVだとアピールしているのに対し、タイで販売トップのトヨタブースに展示してあったのは、bZ4Xのコンセプトカー(しかも左ハンドル。タイは右ハンドル左側通行)と、自動運転EVバスの“e-パレット”のみ。
自動運転については、e-パレットのようなコンセプトレベルではなく、実用レベルの自動運転技術について、MGがVIP招待日にトヨタへのあてつけのように長々とカンファレンスを行っている。
BEVとしては、すでにタイでもbZ4Xと同じSUVスタイルのBEVとなるMG ZS EVが2019年からタイ国内で発売され、年間1.5万台ほどの販売実績があり、バンコク市内でもよく見かけるようになっている。
一方GWMでは“どこかで見たような”とも感じされる、愛嬌のあるスタイルを持つコンパクトハッチバックBEV“オーラ グッドキャット”を販売しており、こちらも人気を博している。
MGでは売れ筋のZS EVのフェイスリフトモデルを発表するだけでなく、ステーションワゴンスタイルのBEV “EP”も展示しており、こちらも来場者の大注目を浴びていた。
あくまで私見だが、このような市場環境でSUVスタイルのしかもコンセプトモデル段階のBEVしか展示できなかったトヨタ。トヨタだけではないが(むしろトヨタでさえ)、改めて日系ブランドはHEV以外の電動車でかなり出遅れている印象を強く受けた。
先走って気になるのは価格設定。例えばMG ZS EV Dグレードの車両価格は118万9000バーツ(約449万円)、MG EPは99万8000バーツ(約377万円)となっているが、bZ4Xは国内でも638万円からスタートとなっている。タイでの値付けも気になるところである。
トヨタはメルセデスベンツやBMW、BMWミニのように富裕層が相手の高級ブランドではなく、レクサスもラインナップしているので、むしろ中国系ブランドに近いものといえる。中国メーカーはたとえ中国国内メインとはいえ、すでに多くのBEV販売実績を持っている。
価格を同列にしろとはいわないが、割高感を持たれるような値付けにならないかは非常に不安の残るところである。
ただ、日本よりはるかにローン利用率が高く、すでにタイでもトヨタはKINTO(個人向けカーリース)を展開しているので、セールスプロモーションなどでのフォローで挽回できる可能性は十分高まっている。
■「中国車だから」はBEVではポジティブ要素
このあたり日本だと「中国車だからねえ」とネガティブに“安かろう、悪かろう”的なイメージを持つひとが多いだろうが、逆にBEVでは「中国車だからねえ」がポジティブに働くのである。
本国でたくさんのBEVをラインナップし、さらにZSもMPもけっして最新型というわけではなく、むしろ古いクルマとなる。つまり量産効果が価格に反映されているのである。
また地元事情通によると、タイの人は比較的短期間で次の新車へ乗り換えるとのこと。また日本ほど維持費がかからないので複数保有も珍しくないので、「試しに」とばかりに中国系BEVを購入するケースも多いようだ。
タイでの価格設定はそのような“お試し乗り”を当て込んだものではないかとも考える。とにかく一度使ってもらう、そして囲い込むのが目的かもしれない。
日本では大手マスコミを中心に中国車といえば、遠い昔のコピー車に溢れていたころを引きずっているが、すでにデザインや見た目質感では日本車を越えているケースも珍しくはない。
現地でMGのステアリングを握ったことのある日本人に聞くと、「故障はもちろんないし、不具合などもない」とか、「日本車よりもトレンドを敏感に採り入れている」など好印象な話を聞くことができた。
現地在住の事情通は、「タイの現地で駐在しているメーカー(日系)のひとが、導入モデルの相談をしても日本の本社は聞く耳持たずで、『与えられたなかで売り上げをアップしろ』といってくるそうです」と話す。聞いていると、まるで80年前の太平洋戦争を思わせる話である(それだけ世の中は結局変わっていない?)。
日本で様子を見ていると、どうも電動車、とくにBEVを内燃機関車の延長とでしか捉えていない印象を強く受ける。ただ、諸外国をみるとその辺りはリセットして取り組んでいるように見える。
事実、内燃機関車ではステイタスの高い日系ブランドやVW(フォルクスワーゲン)あたりはリセットしきれていない印象をうけ、BEVを苦手としているように見える。
GWMのプレスカンファレンスでは、中国の(トルツメ)ヘッドクォーターにいる東南アジア担当重役が会場にきてスピーチした。ご存じの通り、いま中国は再パンデミックの最中でおいそれとは海外に出られる状況ではない。しかし、あえてタイにきている(トルツメ)。それだけでも何か気合というものを感じてしまう。
また、これは地元事情通と共通認識だったのだが、一般公開日にトヨタもGWMも多くの来場者でにぎわっていたのだが、明らかに訪れる“客層”が異なって見えた。トヨタは日本と様子が似ていて、長い間トヨタ車を乗り継いでいる年配の人や、家族でトヨタ車に乗っているという感じの人が多かった。
一方でGWMはグッドキャットのおかげもあるのか、若い女性が多いことにまず驚いた。さらには、クルマ好きな人や最先端製品に敏感な感度の高い人がボンネットを開けパワートレーンを熱心に見ていた。大げさに言えば“時代の転換点”を見た思いがした。
たとえ中国系メーカーがトヨタをはじめ、日系ブランドをロックオンしても、長い間にタイで構築された販売ネットワークなどもあるので、すぐにどうなるということはないし、中国系もそこはわかっている様子。
逆にそこがわかっていて中長期的視野であちこちエサをまいているような中国系の動きがしたたかで、奥が深いものに見えて怖くなってしまった。中国系は明らかにゲームチェンジを狙っているのは間違いない。
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