ホンダインテグラ。FFスポーツ界を牽引してきた1台であり、日本だけでなく世界的にもスポーツカーとは何かを世界に発信してきた存在であることは誰も否定しないかと思う。その新型が米国、中国で復活すると話題になっているが、肝心の日本では復活しないとか。
ホンダよ、本当にその選択でいいのか。販売戦略に問題提起する!
文/渡辺陽一郎
写真/ホンダチャイナ、USホンダ
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■クルマ好きのユーザーから支持されたインテグラだったが……
2022年に、ホンダは高級車のアキュラブランドを使い、海外でインテグラを復活させることになった。
インテグラは、かつて日本でも販売されていたホンダの代表的なスポーツモデルだ。初代は1985年に発売され、当時はコンパクトだったシビックと、スポーツクーペとなるプレリュードの間に位置づけられ、手頃なサイズのスペシャルティカーとして人気を高めた。
1989年に登場した2代目インテグラは、高性能なVTECエンジンで話題になり、1993年に発売された3代目は、2年後に高性能版のタイプRを追加する。このようにインテグラは、各世代ごとに話題性があり、クルマ好きのユーザーから高く支持された。
しかし、1996年には、ホンダから初代ステップワゴンが発売されてヒット商品になり、2001年に登場した初代フィットも売れゆきを伸ばした。実用的なミニバンやコンパクトカーが売れゆきを伸ばす時代に入り、2001年に発売された4代目インテグラは、4ドアボディを廃止して3ドアクーペのみになった。この後、2006年に生産を終えている。
そしてインテグラは、北米ではアキュラブランドでも売られていた。4代目インテグラの北米版は、車名をアキュラRSXに改めたが、日本版のインテグラと同じくこの世代で終了している。
■メーカーの考えは「日本市場には必要ない」
以上のような経緯を経て過去の存在になったインテグラが、海外で復活する。新型インテグラの外観は、イエローの外装色ですでに披露されており、ボディタイプはミドルサイズの5ドアハッチバックだ。外観は、シビックをスポーティにアレンジしたような雰囲気になる。エンジンは直列4気筒1.5LのVTECターボを搭載する。
気になるのは日本国内の販売だ。販売店に尋ねると以下のように返答した。
「新しいインテグラについては、お客様からの問い合わせも多い。私たちも日本でぜひ売って欲しいと願っているが、その可能性は低い。新型インテグラの中身はシビックと基本的に同じで、今後はシビックにタイプRも加わる。従ってメーカーの考えは、インテグラは必要ない、というものだ」。
要するに、新型インテグラが国内で発売される見込みは乏しい。そしてホンダは、新型インテグラについて、国内で何も発表していない。今後、国内で売ることも検討しているなら、海外で新型インテグラがデビューしたことを国内でも公表するだろう。
■いま、日本市場で売れているホンダ車は軽自動車やコンパクト車ばかり
ホンダが新型インテグラの国内販売に消極的な背景には、今の国内状況もある。今日のホンダのブランドイメージは「小さなクルマのメーカー」になり、新型インテグラのような車種を売りにくくなったことだ。
2021年(1~12月)に国内で新車として売られたホンダ車の内訳を見ると、全体の33%をN-BOXが占めた。2022年1月(単月)には、N-BOX比率が40%の大台に乗った。N-WGNなども含めると、2021年に国内で新車販売されたホンダ車の53%が軽自動車だ。2022年1月は57%に達した。
このような具合だから、軽自動車の届け出台数に、小型車のフィット/フリード/ヴェゼルの3車種を加えると、2021年に国内で売られたホンダ車の85%に達する。ほかの車種は、すべて残りの15%に片付けられてしまう。
この販売格差が、今の国内で売られるホンダ車に、大きな影響を与えている。
■ミドルサイズ車は他社と真っ向勝負を避けたいという思惑
例えば2022年2月に販売店で受注を開始した新型ステップワゴンは、フロントマスクのデザインがおとなしい。開発者は「ミニバンを買うお客様の70%は、存在感の強い通称オラオラ顔を好む。そこでステップワゴンは、シンプルでなじみやすい顔立ちの好きな30%のお客様に合わせた」という。
これはつまり、新型ヴォクシー&ノアとのガチでの競争を避けたわけだ。先代型のヴォクシー&ノアは、運転感覚から安全装備まで、すべてが遅れていた。プラットフォームの基本設計が古く、エンジン、ハイブリッド、各種の安全装備などを進化させられなかった。
そこで新型ヴォクシー&ノアは、多額の開発費用を投入してプラットフォームを改め、ハイブリッドは5世代目を新搭載して、2Lエンジンもハリアーなどと同じタイプに刷新した。
そうなると大量に売らねばならず、ノアのフロントマスクは、売れ筋路線のオラオラ顔で進化させた。ヴォクシーは個性化をさらに進めて、従来のミニバンに興味を持たなかった新たなユーザー層の獲得に乗り出した。
これだけでは弱いので、スマホを使って車庫入れの操作ができたり、渋滞時に手離しでも運転支援機能が作動したりする最新機能も盛り込んだ。従来型のヴォクシー&ノアは膨大に売れたから保有台数も多く、これらの先進装備を効果的に訴求すれば、新型への乗り替えも促しやすい。
新型ヴォクシー&ノアがここまで周到な開発を行うと、ステップワゴンとしては真っ向勝負を避けたい。そこで30%のユーザーを獲得する顔立ちに仕上げた。
■販売店も納得できない「オデッセイはなぜ消えた」
このほかのホンダでは、オデッセイが狭山工場の閉鎖に伴い、生産を終えてしまった。工場は商品を生産する設備だから、商品の終了に伴って工場を閉めるなら理解できるが、オデッセイは逆だ。
しかもオデッセイは、2020年11月にフロントマスクを大幅に刷新するマイナーチェンジを行い、2021年1~12月の対前年比は、218%の大幅な増加になった。1カ月の平均登録台数は1762台だから、クラウンやCX-5と同等に売られている。売れ筋価格帯が350万~450万円の高価格車としては、立派な売れゆきで、オデッセイを乗り継ぐユーザーの期待にも応えた。
それをマイナーチェンジの約1年後には生産を終えている。これについて、ホンダの販売店からは次のようなコメントが聞かれた。
「オデッセイは知名度が高く、愛着を持って使うお客様も多い。価格が高いのに販売は堅調だから、販売店の売り上げにも貢献している。従ってオデッセイをやめる理由がわからない。ステップワゴンのように、(寄居工場などに)生産拠点を移せばいいだろう」。
■ミドルサイズ車減少。負のスパイラル
オデッセイはすでに廃止され、インサイトもシビックハイブリッドの投入に合わせて終了する可能性が高い。CR-Vとアコードもサッパリ売れない。
この販売規模では、1.5Lターボのシビックに、高性能なタイプRとハイブリッドのe:HEVを加えれば、ミドルサイズ以上のセダン&ハッチバックは充分という判断も成り立つ。小さなクルマが販売総数の85%を占める今の国内ホンダにとって、インテグラは日本では不要な海外向けの商品なのだろう。
ただし、この状態を続けると、シビックを含めて、普通車が「残りの15%」に片付けられる状況が続く。ますますホンダのダウンサイジングが加速する。
そこでシビックのほかに、ホンダファンの気持ちに刺さるインテグラも設定して、ミドルサイズハッチバックの価値観を多様化させる方法もあるだろう。
■「売れないからやめる」経営判断は芸がない
ちなみにトヨタの場合、以前は販売系列によって取り扱い車種を分けたが、今では全店が全車を売る。その背景には、販売系列のために用意した姉妹車を廃止することも含まれたが、ヴォクシー&ノアは姉妹車を残した。ノアをミニバンの本流に位置付け、ヴォクシーは個性的なフロントマスクによって、従来とは違うユーザーを獲得するためだ。
ホンダはスポーティカーのメーカーとして名を馳せたのだから、ヴォクシー&ノアと同じように、シビックとインテグラがあってもいいだろう。互いに似ている間柄でも、車両のコンセプトやセッティングを変えて、共存しながら売れゆきを伸ばす。インテグラは記憶に深く刻まれた車名だから、シビックとの共存も可能だ。
それなのに過去の実績を生かさないまま長い時間が経過すると、インテグラの車名も、スポーティで楽しかった思い出も薄れてしまう。ホンダのブランドイメージをアップサイジングするためにも、新型インテグラを国内で販売すべきだ。
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