世界的な半導体不足によって、新車の納期遅延が長期化している。多くのユーザーは現在所有しているクルマが車検を迎えるタイミングで次のクルマを購入する。そのため現在にように新車の納期遅延が発生すると、納車される前に車検が切れてしまう人が続出する。
車検が切れる前にクルマを乗り換えたいという人が、今駆け込み寺のように購入しているのが、“新古車”や“登録済み未使用中古車”と呼ばれる高年式で、走行距離が非常に少ない中古車だ。
現在、このような“登録済み未使用中古車”は軽自動車が中心となっているが、過去には人気の高い輸入車ブランドでも多く見られた。今回は、未使用中古車が全盛期だった時代を振り返ってみたい。
文/萩原文博、写真/ベストカー編集部、ベストカーweb編集部
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■まずは“新古車”とは何か?
“新古車”というのは、コンディションが非常に良い新車のような中古車のこと。ただし、国内において、クルマは一度も登録されたことがないと新車、一度でも登録されると中古車の2つに分類されるので、新古車という分類はない。
しかも自動車構成取引協議会のルールで中古車を販売する際に、新古車という言葉を使うことはNGとなっており、それで登録済み未使用中古車というワードが生まれたのだ。
かつて、このような高年式の少走行距離の中古車はフルモデルチェンジやマイナーチェンジをした際の在庫一掃で市場に出回ることが多かった。しかし、現在ではこのような未使用中古車は軽自動車では常態化しており、専用のショップまで登場している。
例えば大手中古車検索サイトで調べてみると、軽自動車で新車販売台数No.1を続けているホンダN-BOXは、現在約9,300台の現行モデルの中古車が流通している。これを年式は2021年~2022年式、走行距離500kmで検索すると、なんと約2670台もヒットする。
走行距離わずか10kmの現行型N-BOX Gが諸費用込みの乗り出し価格で約128万円となっている。N-BOXは2021年12月に一部改良を行い、電動パーキングブレーキを採用したので、この登録済み未使用中古車はその一部改良前となる。
こういった登録済み未使用中古車は価格が割安になる反面、車検期間が短くなるのをはじめ、ボディカラーやグレードなどに制約があるなどデメリットもある。割安な価格というメリットとデメリットが納得できる人にはオススメだ。
現在では、軽自動車が主流となっている登録済み未使用中古車だが、かつては国産車だけでなく、輸入車でも多く見られた時期があった。ここからはその登録済み未使用中古車が全盛期だった時代を振り返ってみる。
某国会議員が「2位じゃダメなんですか」と言っていたが、輸入車の新車販売台数No.1を巡って激しいバトルが繰り広げられた時期があった。その激しい販売競争によって大量に生まれたのが、登録済み未使用中古車だったのだ。
ほとんどの輸入車ブランドはインポーターと呼ばれる日本法人が、年初に販売台数計画を本国に送り承認してもらうようになっている。
したがって、あるクルマが想像以上に販売台数が伸びても、増産してもらうことは非常に困難なのだ。したがって、人気の高いモデルはボディカラーや仕様を事前に見込み発注するということも多いのだ。
輸入車で登録済み未使用中古車が多くなったのが2013年頃から。この時期はメルセデス・ベンツとBMWが新車の販売台数を増やしていて、人気の高いメルセデス・ベンツAクラスやCクラス。BMW3シリーズセダンやツーリングなどで登録済み未使用中古車が大量に発生した。
輸入車を本国から輸入するのは日本法人の役割だが、販売するのはディーラーだ。もちろん日本法人直轄のディーラーもあるが、ディーラー権を手に入れて販売している独立した販売店も多いところが、国産車とは異なるところだ。
2013年の新車販売台数はメルセデス・ベンツが5万3731台。そしてBMWは4万6037台とメルセデス・ベンツは前年より約1万2000台、BMWは約5000台も延ばしていた。
そして、メルセデス・ベンツに後塵を拝していたBMWは日本法人から各ディーラーに「メルセデス・ベンツに勝て!」と檄が飛んだ。それと同時に各ディーラーに対してのノルマが過剰と思われるほど増え始める。
その結果、BMWはメルセデス・ベンツを新車販売台数で上回るような数字のノルマが課せられ、このギャップを埋めるために、各ディーラーは月に数億円という資金を投じて登録済み未使用中古車を作っていたのだ。
つまり、見込み発注するクルマの台数をかなり水増しし、これが登録済み未使用中古車となっていたのだ。
当時実際にBMWディーラーへ行き、見積もりをしてもらったことがある。最初はX1やBMW2アクティブツアラーの話をしていたのだが、当時の3シリーズツーリングならば、在庫があるので、納車も早いし値引き額も大きくなると言われた。
グレードは320dのMスポーツ、ボディカラーは白ならば、モデル末期ということもあったが、一声で100万円近い値引きを提示された。このときは登録済み未使用中古車ではなかったが、実際には登録済み未使用中古車になる直前の在庫車だったのだろう。
■登録済み未使用中古車にはデメリットも
ほぼ新車といえるような高いコンディションのクルマが大幅な値引きで買えることはユーザーにとっては魅力だが、デメリットもある。
登録済み未使用中古車のようなクルマが割安な価格で大量に市場に出回れば、当然残価が下がる。その結果中古車の販売価格が安くなるだけでなく、買い取り価格や下取り価格などが安くなるという副作用があるのだ。
また、これは当時ニュースにもなったが、東京23区にあるBMWのディーラーでは、ディーラーが販売台数の目標を達成することができなかったため、ディーラー権を剥奪されたという事例もあった。
その事例でも2013年ごろから、ディーラーに対して過剰なノルマを課すようになったと書かれている。ノルマは「計画台数」というもので、実際にユーザーに販売した台数と自社登録したクルマ(登録済み未使用)の台数を合計したもの。この計画台数が自動車業界での実績と見なされるのだ。
2013年以降はこの計画台数が異常といえるほど増えて、登録済み未使用車の台数を増やさないとノルマを達成できなくなった。もちろん、計画台数をクリアすると、日本法人からボーナスが出る。しかし、このボーナスがなければディーラーの経営は成り立たないという。
この事例では、自社登録したクルマ、つまり登録済み未使用車の比率が計画台数の約40%まで増えていったという。こんな状況ではたとえ計画台数をクリアし、ボーナスをもらっても登録済み未使用車に掛けた費用を賄えなくなっていたという。
したがって、この費用を埋めるために、登録済み未使用車を100万円引きなどの割安な価格でリリースして資金を確保する販売店が多くなっていたのだ。
このディーラーでは、徐々にノルマの達成率が下がり、ディーラー権を剥奪される直前になると、日本法人からプレッシャーをかけられるようになったという。月末になると連絡があり、非常に苦しめられたということだった。
新車の販売台数にこだわり、無謀とも言えるノルマをディーラーに課した結果、登録済み未使用車が多く出回り、BMWやメルセデス・ベンツはこれまで築いてきたブランドイメージを失墜させることになったのだ。そしてBMWジャパンには公正取引委員会の査察が入ったことは多くのメディアで取り上げられた。
この公正取引委員会の査察により、輸入車の登録済み未使用車は沈静化に向かう。新車の納期遅延が深刻化するなか、注目が集まる登録済み未使用車。つい数年前で輸入車ではこのようなディーラーが身を切るような登録済み未使用車発生のメカニズムがあったのだ。
しかし、現在は輸入車の登録済み未使用車の発生量は一時よりは減少している。そもそもコロナ禍により輸入車の納車も遅延しているので、登録済み未使用車があれば、すぐに売れてしまうはずだ。
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