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<p>年末に観たい、ラストシーンに心を打たれる2021年ベスト映画10。(Toru Mitani)</p><p>映画『 #ドライブ・マイ・カー 』がアカデミー賞で作品賞を含む4部門にノミネート! #Oscars エディターによる感想はこちらから:</p><p>ドラマでは韓国が一強。しかし映画では『ドライブ・マイ・カー』が世界的に高い評価を得たり、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の興行収入が100億円を突破するなど、日本作品が大健闘。個人的に、ラストシーンの華麗なる裏切りや伏線回収で、一気に感動を束ねる作品に心を惹かれた2021年だった。</p><p>35人、みんなが愛おしい。第10位『14歳の栞』 ©︎CHOCOLATE Inc. 実在するとある中学の2年6組、35名の生徒“全員”にフォーカスしたドキュメンタリー作品で、主人公は不在。言い換えれば、すべての生徒たちが主人公だ。鑑賞中は14歳の頃が何度もフラッシュバックし、ふいに登場する「あの子」「この子」に重なっていく。意図しない一言で思いもよらぬ結果を招いた生徒の切なさだったり、“キャラ変え”のタイミングを見失い自身に重い蓋をする生徒の迷いだったり、誰もが目撃し共感するエピソードが淡々とスクリーンに映し出される。「大人になっても忘れたくないことは?」という質問にとある男子生徒はこう答える。「アイスを食べているときと、○○さん(好きな女の子)と電話をしてるとき」。永遠に続く、一瞬。14歳のみずみずしい“宇宙”がぎっしり詰まった約2時間、エンディングで流れるクリープハイプの「栞」(2018)と桜の景色に、思わず涙がこぼれてくる。 ひと束の希望。第9位『ミナリ』 ©2020 A24 DISTRIBUTION, LLC All Rights Reserved. Melissa Lukenbaugh 成功を夢見て渡米した韓国人の家族による物語で、映し出されるのは、不器用ながらも必死に生き抜く家族たちの姿。主人公の妻の母、“おばあちゃん”スンジャが、ストイックな家族の足並みをいい意味でぶち壊す描写が非常に面白い。そして、物語が進むうちに、おばあちゃんの無償の愛に心が動かされていく。一家の必死な努力、良かれと思って起こす行動は裏目に出てしまい、幸せはするりと手から抜け落ちていく。ラスト、木漏れ日に照らされた生い茂るミナリ(セリ)があまりにも美しく、そこに浮かぶ希望に救われる。そして、息子・デビッドがウェスタンブーツでアメリカの大地を踏みしめる──この描写にすべてが凝縮されていたことに気づく。 今作でおばあちゃんを演じたユン・ヨジョンは、73歳にしてアカデミー賞「助演女優賞」を受賞した。 言葉の内側にある熱。第8位『ドライブ・マイ・カー』 ©︎2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会 言葉には、さまざまな情報が余分に肉付けされている。声、音量、抑揚、そして、それこそ言葉で表すことができない波動のようなもの。これらによって、より他者の心に届いたり、逆に意図しない受け取られ方をしたりする。まったく同じ言葉を使っていても、すべてはわかりあえない。その究極の“事実”を叩きつけられた気分だ。俳優、舞台演出家の家福悠介(西島秀俊)は、劇中で舞台に出演する役者たちに“空(から)”で脚本を読ませ、心の所在地をあいまいにさせる。同時に、この映画に登場する人々もどこか“空”のまま。何気ないシーンも突如として切り抜かれ、情報不足のまま。しかし、「正しく傷つくべきだった」と吐露し、言葉に魂が宿っていく終盤にはあらゆる真意が浮き上がる。とある場所を赤い車が走るラストシーン。“生きる意志”のバトンタッチに、とてつもない感動を覚える。 女の曖昧な決意。第7位『逃げた女』 ©︎2019 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved 心の立ち位置が定まらない。大きな不満があるわけではないけど、理由なき不安はある。そんな曖昧な女性の気持ちをゆるやかに描いた、ホン・サンス監督作。主人公、ソウルに暮らすガミ(キム・ミニ)は、夫の出張中を利用し、過去つながりのあった女性たちの元を訪ねてまわる。「夫とは5年間ずっと一緒にいる」「今回初めて彼と離れる」と都度繰り返す。言葉とはうらはらに、そこには幸せのかけらすら見えず、孤独しか受け取ることはできない。ガミの孤独を無意識に引き出していく女たちとの会話から見えてくるのは、「同じ場所に居続けることの安心感」と「常に変化することで得られる充実感」。ガミが最後のシーンで見据えた景色は、“逃げた”というネガティブなものではないはずだ。現代人が抱える小さな痛みに、きっと誰もが共感する。 激動、躍動の景色。第6位『春江水暖〜しゅんこうすいだん』 ©2019 Factory Gate Films All Rights Reserved グー・シャオガン監督は、弱冠32歳。今作でデビューし、カンヌ国際映画祭批評家週間のクロージング作品として上映されたという中国の新星だ。彼がスクリーンに映すのは、中国の劇的な社会・環境の変化に、憂いと希望をレイヤードした壮大な景色。うねり流れる広大な大河の再開発エリアに暮らす4人の兄弟とその家族たちのめくるめく生活を、四季の移り変わりとともに描いている。「とある中国の山水画から着想を得た」というだけあり、壮大な絵巻物をスキャニングしたような圧巻の映像美が脳裏に焼きつく。そこに息づく、大河で暮らす人々。彼らの役者にまったく見えないたたずまいには、ただただ驚くばかりだ(一般人にしか見えない)。景色の一部になったかのような追体験をさせてくれる、素晴らしきマジック。最後のシーンでは、不安定ながらも、それでもやっぱり続いていく家族──その絆がやわらかく垣間見れる。 愛おしくなる、時間。第5位『ファーザー』 Netflixにて独占配信中。 © NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINÉ-@ ORANGE STUDIO 2020 「ものすごい作品を観てしまった」。それが観終わった時の感想だ。痴呆を題材にした親子ドラマに見せかけて、実はサスペンス。しかし、ラストシーンに入った瞬間に人間ドラマへと変貌を遂げるアメーバーのような作品でもある。また、今作で痴呆の老人を演じたアンソニー・ホプキンスはアカデミー賞「主演男優賞」を受賞。培ってきた知識や人々と積み重ねてきた信頼、それらが儚く崩れ壊れていく痴呆の恐怖──“ボケ”を実際に体験しているかのような錯覚に陥り、その恐怖に耐えられなくなってくる。見事としか言いようのない表現力と演技力だ。不可解になってく時間軸、現実がかき消されていくような白昼夢。ラストに向かってようやく時間軸が定まり、記憶から突き放された老人が言い放つ最後の一言。その瞬間、涙がとことん溢れ、どうしようもなく“人生”が愛おしくなる。 サプライズで、脳内破壊。第4位『アンテベラム』 全国の劇場にて公開中。©2020 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved. 『ゲット・アウト』(2017)、『アス』(2019)のプロデューサー、ショーン・マッキトリックがまたもやとんでもないスリラーを生み出した。今作はジョーダン・ピール監督が手がけてはいないが、今までに劣らず、むしろ驚きは今までで一番かもしれない。前作に続き、根深き黒人差別問題に迫りながらも、全体を通して感じるのは、黒人女性への強烈な敬意。あらゆるバイヤス問題へと切り込む社会学者のヴェロニカ。一方、奴隷制度がはびこる世界で息を潜めるエデン。それぞれを演じるのは、シンガーソングライターのジャネール・モネイだ。あらゆる平等を願う彼女の思想と、ヴェロニカ、エデンの想いがシンクロする事実も素晴らしい。劇中にはびこる不穏な違和感、そこら中にばら撒かれた数々の伏線。それらが一気に回収されるラストでは、脳内の回路が壊れるような衝撃を受ける。主人公の恐怖が骨の髄まで伝わる生々しい描写に、強い覚悟を。 刹那的な愛。第3位『声もなく』 2022年1月21日より、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開。 © 2020 ACEMAKER MOVIEWORKS & LEWIS PICTURES & BROEDMACHINE & BROCCOLI PICTURES. All Rights Reserved. “韓国のゴールデン・グローブ賞”とされる百想芸術大賞で「最優秀演技賞」をはじめとする数々の主演映画賞を総なめ(日本公開は22年1月だが、今年の代表作としてランクイン)。憑依型で役作りにストイックなユ・アインは、今作で15kgの増力をし挑んだというから驚きだ。激しい貧困生活の中でとある闇の仕事を請け負う青年が感じる、疎外感や絶望。そして、一筋の“生きる”という強い意志。愛情を知らない彼が懸命に他者に愛をあたえようとする姿に、何度も何度も心を奪われる。人は生まれた環境を選ぶことはできない。人生においての不可抗力についても、深く考えさられる場面も数多く存在する。とくに最後のシーンで繰り広げられる心理戦では、あまりの衝撃に鳥肌が。皆、少なからず何かに囚われており、何かのかたちでそこから抜け出さないといけないのかもしれない。ちなみに、主人公のセリフはゼロ。「どうせ世の中が耳を傾けないだろう」という、悲痛のようだ。 すべてへ回帰。第2位『シン・エヴァンゲリオン劇場版』 総監督:庵野秀明 Amazon Prime Videoで配信中。©カラー さらば、全てのエヴァンゲリオン。そのキャッチコピーの通り、幾度にも重なり広がった“エヴァ”のすべてがひとつに束ねられた。もしくはそれぞれに放たれた、といったほうがいいかもしれない。思えば、中学生の頃から夢中になっていたエヴァンゲリオン。テレビシリーズから、直後に公開された映画版、さらに『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』から始まった新たな世界。その完結編になる今作。勝手な予想だが、自分の中に“碇シンジ”を見出す人たちが、この四半世紀ずっと心のエールを贈っていたように思う。少なからず、僕もそのひとりだ。現実の世界は試練だらけで、過酷だ。できるなら、空想の中で自分が思うがままに自由でいたい。でも、生きている限りは現実と折り合いをつけなくてはならない。エンディングで碇シンジが新たな世界、本当の世界に着地する描写は自分にとってあまりにも美しい景色だった。宇多田ヒカル『One Last Kiss』のイントロが流れ出した時の、幸せな気持ちは今でも忘れることができない。 美しすぎる景色。第1位『すばらしき世界』 ©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会 殺人を犯した男が“世界”に着地した瞬間から、あらゆることが起こる。職は見つからず、犯罪歴からあらぬ疑いもかけられる。バイアスをかけられ、“人”に追い込まれていくが、点と点を繋ぐように“人”に救われる──このさざなみのような繰り返しが、今作の醍醐味、心に刺さるリズムだ。“まっとう”であることは何か。そして、自らの信念はどこまで通してよいものなのか。正解のない中、男は世の中と折り合いをつける。不器用ながらも実直で真摯なその姿に、強く心を動かされる。ラストシーンでは、大きな空へと向かってカメラが角度を変えていく。空でスクリーンが埋め尽くされた瞬間に、「すばらしき世界」というタイトルは静かに浮かぶ。不器用ながらも世界に寄り添った男の美しき姿と重なり、涙が止まらなくなる。人間のつじつまの合わなさを追求する、西川美和監督、至極の一作だ。 Read More</p>