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米国長期金利の上昇につられ10年物日本国債の金利が先週金曜日に6年ぶりに0.2%をつけた。日本銀行にとっても日本にとっても容易ならぬ状態に近づいた。日本銀行が現在保有する国債521.1兆円のうち、507.8兆円は長期国債だが(これ自身も大問題)、この長期債の平均利回りは0.226%に過ぎないのだ。

※画像はイメージです(loveshiba /iStock)

「評価損」ギリギリに接近

先週金曜の利廻り0.2%は保有国債の利廻りが高かった6年前ではそれ程の大事件ではなかったとしても保有国債の利廻りが0.226%にまで落ちこんできた今日では、大事件になりうる。令和3年度下期平均利回りは、今まで同様、満期の高め利回りの長期債は償還され、ゼロ%に近い長期債を買い増しているから、保有利回りはさらに下落していくと予想される。

筆者作成

新聞では利回り上昇(価格は低下)と注意書きしているように債券の利回りと価格はコインの表裏の関係で、金利が上昇すれ価格は必ず下落する。すなわち現在の長期国債の市場価格が、日銀保有価格より低くなる、すなわち評価損が生じるギリギリのところに近づいているということだ。

国債の市場金利がさらに上昇して評価損が出始めると、日銀の買い増し継続に対し「評価損の拡大が予見される時、買い増しは許されるのか?」との疑問の声が出てくるのではないか? たとえ世間から疑問が出なくても外資系格付会社が日本の格付けを据え置いてくれるのだろうか?格付会社はXデイの引き金を引きたくなくても格下げしないうちに日本がXデイを迎えたら、信用失墜で自身の生存が危うくなる。

もっとも世間や外資系格付け会社から、いくら批判が出たり、格下げがあろうとも日銀は長期債を買い続けなければならない、日銀が購入をあきらめれば長期金利は暴騰し、日銀の債券評価損はターボが効いたように拡大していくからだ。さらに国の支払い金利も増大し、予算が組めなくなる。デフォルトのリスクも出てくる。

2月6日の日経新聞の「日本にも金利上昇圧力 迫る0.25%」の記事中に「日銀は0.25%に近づけば、臨時の国債購入で金利上昇を抑える考えだ」とあったが当たり前だ。自分の存続が危機にさらされるのだから、いくらインフレが加速しても逆に緩和を加速させなければならない。いくら市場で、緩和修正の観測が広がろうと、修正など日銀には出来ないのだ。もっとも、いつまでも長期金利が低いままと言えるわけではない。日銀は市場の力には勝てず、長期金利は急騰すると思っている。

さらに長期金利が上昇すると、日銀の債務超過、円暴落、ハイパーインフレの危機さえ出てくる。

サマーズ元米財務長官の恐るべき発言

少し古い資料だが私が国会議員時代、金利のパラレルシフト(全期間で金利が同レート上昇する)の前提で金利が上昇する際、どのくらいの評価減が生じるかを聞いた。1%の金利上昇で24.6兆円、2%で44.6兆円、5%上昇で88.6兆円、11%時上昇(1980年に経験した)で140兆円だった。

この数字は2017年末時点でのシミュレーション結果で、この時の長期国債残高は377.1兆円に過ぎない。現在の507.8兆円ならさらにドでかい評価減が生じるはずだ。これほどの評価が下がれば、令和3年9月末の国債の評価益9.8兆円、ETF の評価益16.6兆円の計26.4兆円は簡単に吹っ飛ぶ。(2021年9月30日の日経平均は29,452円、6日の終値は27,249円だから現在のETF含み益は昨年9月末よりかなり減っているはず)

サマーズ氏(ツイッターより)

元米財務長官、元ハーバード大学学長のローレンス・サマーズ氏は先週、「過小な引き締めにとどまり、結果的に基調的なインフレ率が4%を超える経済状況になるリスクは大きい。そうなれば、1970年代末に当時のボルカー連邦準備制度理事会(FRB)議長がやらざるを得なかったようなことをやる以外にある時点で選択肢はなくなる」と発言した(2月5日ブルームバーグニュース)。

「1970年代末に当時のボルカーFRB議長がやらざるを得なかったようなこと」とは「サタデー・ナイト・スペシャル」のこと。FED Fund レート(1日の金利)はたしか24%、10年国債金利は20%まで上昇した。

こんな事態にでもなったら、円金利もさすがに暴騰し、日銀にはすさまじいほどの債務超過が起きてしまう。

長期金利がそれほど過激に上昇しなくても日本がスタグフレーションに陥り、株価も債券価格も下落すれば、これまた大変だ。2020年にはETFの評価損が一時2兆~3兆円規模に達したという試算もあったが、株の含み益がなくなった段階で国債に評価損が発生したら、日銀はすぐに債務超過だ。

サマーズ氏は「インフレにするのは簡単だ。中央銀行が信用を無くせばよい」とも発言している。中央銀行が信用を無くす最たるものは債務超過だ。また日銀の雨宮正佳副総裁も日本金融学会2018年度秋季大会での特別講演で「中央銀行への信用が一たび失われれば、ソブリン通貨といえども受け入れられなくなることは、ハイパーインフレの事例が示す通りです」と述べられている。

このように中央銀行の債務超過は大事件であり、その点で、今後の長期金利の動向は一大注目なのだ。

日銀が債務超過になる日

そもそも、このように「金利が上がれば」とか「株価が下がれば」などという話をしなくてはならないこと自体、日銀はもはや中央銀行としての体をなしていない。中央銀行は通貨の安定性を守るために、価格変動の大きなものは買ってはいけないという鉄則は昔は金融マンの常識だった。だから昔の日銀は株など買わなかった。今でも金融政策で株を買っている中央銀行は世界でも日銀だけだ。昔は長期国債も買っていなかった(現在は大部分が長期債)。同じ1%の金利の上昇でも長期債は価格の下落幅が短期債に比べて格段に大きいからだ。黒田日銀はそれらの鉄則を破ってきた。

国会議員の時、「日銀が債務超過になっても大丈夫か?」と質問すると、日銀の黒田東彦総裁、若田部正澄副総裁は「日銀は償却原価法(=簿価会計)を採用しているから債務超過にはならない」という趣旨の答弁を繰り返していた。

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しかし、信用の判断は信用供与する方の基準で行うわけであり、調査される方の基準で行われるわけではない。銀行ローンを借りる際、借り手が自分の信用は大丈夫だから貸せと言っても、銀行は聞く耳を持たないのを考えればすぐわかる。信用調査をするサイドの格付け機関や外資系銀行審査部において日銀採用の簿価会計などは前世紀の遺物なのだ。

インフレが加速した時は「金利引き上げ」と「市中にばらまいた資金の回収」が必要だ。満期が来た国債の元本を回収し、借換債を購入しないという穏やかな資金回収は、インフレ加速が過激な今回は難しいだろう。日銀が今まで主として買ってきたのは10年債だが、満期待ち政策だと市中からの資金回収に10年かかってしまう。

インフレが加速すれば、異次元緩和と真逆のオペレーション、すなわち民間銀行に国債を売って資金を急速に回収する必要が出てくる。評価損が出ている環境でそのオペレーションを行えば、巨額の未実現損失が、巨額の実現損に変わる。

相対的に高い金利の債券を購入し、10兆円以上の受け取り金利があるFRBと異なり、日銀は1兆4000億円程度の年間純利益しか生み出していない(しかも、なんと半分近くが株式関係益だ)。すぐに債務超過だ。

長期金利上昇で直面する財政破綻危機

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日銀だけでなく、日米の長期金利上昇は、日本の銀行、とくに地銀にダメージが大きく出るだろう。地銀が保有する日本国債や米国債の大部分には時価会計が適用されており、途中売却の可能性があるからだ(それ自体は日銀よりよほどに健全だ。民間銀行に時価会計を強いている日銀自身が簿価会計なのは恐れ入るばかりだ)。そうであれば金利上昇で大きな損失を計上せざるを得なくなる。

米債は円をドルに換えての購入なら為替の益が、キャピタルロスを多少なりとも相殺するが、多くの邦銀はドル調達ドル運用で長短金利差を取りに行っている。為替の益が出ずにキャピタルロスのみが計上される、

景気が良くなり(もしくはスタグフレーションで)金利が上昇すれば、日本と日銀は幸せどころか逆に危機を迎えてしまう。これら日本にとっての様々な不都合は、財政再建をないがしろにして起きた財政破綻危機を、異次元の量的緩和という名の財政ファイナンス(政府の資金繰りを中央銀行が紙幣を刷ることによりファイナンスする)で先送りした結果で起きる。

政策ミスに加え、MMTや「統合政府で考えれば大丈夫」「さらなる財政出動を」論者がお先棒を担いだ結果だ。その結果、中央銀行のとっかえ、円紙幣の紙くず化という大きなコストを国民が払うことになる。ポピュリズム政治に陥った政府に頼らず、ドルMMF の購入、暗号資産の購入で自己防衛を真剣に考える時期だと思う。