オラオラ顔。「威圧感にあふれ周囲を威嚇するようなデザイン」のクルマがそう呼ばれ、メッキ部品を多用することから最近は「ギラギラ顔」と呼ばれるようにもなってきた。
いわゆる「マイルドヤンキー層」と呼ばれる購買層に向けて繰り出されるこのデザイン群は、日本含めた世界中で一定の支持を得ている。とはいえ、クルマ好きに比較的多いといわれる保守層からは、周囲の景観に与える影響などからあまり好意的には受け止められていないのも現状だ。
ということでギラギラ顔とプレーン顔、これからはどっちが優勢になるのだろうか。そこの辺りを予想してみた。
文/伊達軍曹
写真/ベストカーWEB編集部
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■それは「海の向こう」から始まったグローバルな戦い
今、ミニバン界では「ギラギラ顔」対「プレーン顔」の静かなる戦いが繰り広げられている。
いや正確には、圧倒的な戦力を誇るギラギラ顔の超党派軍団に、プレーン顔のホンダが孤軍奮闘、「それでいいのか?」とばかりに思想闘争を挑んでいる――という図式だろうか。
海の向こうのアウディで生まれた「フロントグリルはデカいほうがいい」という思想の波は、2015年に日本へも到達し、現行型トヨタアルファード前期型の「総銀歯グリル」という形で炸裂した。
そしてその後はアルファード以外のグリルも総じて大型化ないしはギラギラ化され、直近では5ナンバー級ミニバンであるトヨタ ヴォクシーのグリルも超獣化。さらには、シンプルなデザインであることが大義だった兄弟車ノアも――超獣化まではいっていないものの――ギラギラ軍団の一員と化した。
このようにしてミニバンの世界では「ギラギラ顔こそが正義」という風潮が定着しており、今年秋に登場する次期型日産セレナも、そこまで極端ではないが、基本的にはギラッとしたニュアンスの顔つきとなると予想されている。
■流行りに疑問を投げかけ続けるホンダ
だが、そんなムーブメントに「我々はNoと言いたい!」とばかりに殴り込みをかけたのがホンダだ。
ご承知のとおり、ホンダは「ギラギラ系、オラオラ系のフロントマスクにあらずんばミニバンにあらず!」とすら言えそうな現在のマーケットに、プレーンすぎるほどプレーンなフロントマスクを採用した新型ステップワゴンを投入。
それだけでも驚きだが、ホンダはさらに、ステップワゴンのイケイケ版である「ステップワゴンSPADA」のほうにも比較的プレーンな、近年の勝ちパターンから考えると面積的に小さすぎるフロントグリルを採用してきたのだ。
■リセール価格を考えたらやっぱりアルファード!
トヨタを中心とする「ギラギラ系超党派軍団」と、ホンダ ステップワゴンを中心とする「プレーン顔軍」のどちらが今後、勝利を収めるのか? そして我々ユーザーは、今後登場してくる新型ミニバンを買うのであれば「どちらの方向性」を選択するのが正解なのだろうか?
まずは2番目の議案である「ギラギラ顔とプレーン顔の、どちらを選択するのが正解なのか?」という問題だが、これについては、個人レベルで考えるなら正解も不正解もない。「とにかく好きなほうを買えばいい」という話でしかないのだ。
ギラギラ顔の、あのオラオラ感がどうしても好きになれないならば、プレーン顔のステップワゴンを買えばいい。また顔の好き嫌いはさておき、「リセール価格の高低」がどうしても気になってしかたないのであれば、おそらくは抜群のリセール相場となるだろう新型ヴォクシーや、次期型アルファードを買えばいいだけの話だ。
それらを買った結果、基本的にはプレーンな顔つきを好み、ギラギラ顔を軽蔑する守旧派カーマニアからは、いろいろ言われることになるだろう。
だが、そんなものは無視すればいいだけのこと。「自分が好きなモノを買う」、「好きではないが、家族を経済的に守るため、高く売れそうなモノを買う」というのは絶対的な正義。私もギラギラ顔を個人的にはまったく好まないが、それを選ぶ人の正義を邪魔するつもりはない。
■向こう5年くらいはギラギラ顔優勢?
このように、個人レベルにおいては「どっちでもお好きなほうをお選びください」という話にしかならないわけだが、もう少しマクロに物事を見た場合には、どういうことが言えるのだろうか?
すなわち、今後のミニバンは新型ヴォクシーに代表されるような「超獣系ギラギラ顔」がマーケットを完全に席巻するのか? それとも、新型ホンダステップワゴンに代表される「プレーン顔」も、今後はそれなりに増えていくのだろうか?
もちろん未来のことを100%正確に予想することなどできない。特に、長期スパンでの予測は難しい。だが向こう5年間ほどの短期目線で考えるのであれば、「相変わらず超獣系ギラギラ顔が市場を席巻することになるだろう」と筆者は読んでいる。
■ギラギラ顔は、今まで売れていた
そう考える理由のひとつは「直近の実績」である。
昨年1年間の販売台数データから、一番わかりやすい検体である「ギラギラ顔の旧ヴォクシー」と「プレーン顔の旧ノア」の対比を抽出してみると、ギラギラの旧ヴォクシーが7万85台で、プレーン顔の旧ノアは4万4211台。要するに旧ヴォクシーのほうが1.6倍近く売れたということであり、「市場はそれ=ギラギラ顔を選んだ」ということでもある。
個人的にいろいろ思う部分はあるが、結局のところ「いい製品」とは「売れる製品」のことなのだ。多くの人がギラギラ顔を求めるのであれば、企業としては――趣味で会社を経営しているわけではないので――いい製品=よく売れるギラギラ顔のミニバンを作るしかないのだ。
■世界情勢が不安定になると・・・?
そして「今後5年ほどは超獣系ギラギラ顔が市場を席巻することになるだろう」と考える第2の理由は「世相」である。
ご存じのとおり、海の向こうでは不幸にして理不尽な侵略戦争が始まっており(2022年4月6日現在)、日本国内でも、理不尽な通り魔事件などが後を絶たない。そしてちょっと前までは、これまた理不尽な「あおり運転に端を発する不幸な事件」も頻発していた。
こういった世相のなかでは、人はどうしても「自衛」に走る。自衛力とは要するに武力であるというか、「武力に基づく抑止力」である。
そうなると、家族の命を預かるお父さんとしては、仮にピースフルな顔つきのミニバンが本当は好きだったとしても、いかにも「抑止力」がありそうな顔つきのミニバンを選びたくなるのが人情というものだ。
■残念な話
こういった選択は、意識的に行われる場合と無意識に行われる場合とがあるが、いずれにせよ現在の世相は「いかにもピースフルでオープンマインドな感じのファミリーカー」を選ぶのを躊躇させるものがある。
その結果として現在のデザイントレンドは、例えばクルマ以上に単価が高い買い物である「住宅」においても、高い壁で住居を覆う「要塞型」が主流となっているのだ。
そういった各ジャンルのトレンドを見るにつけ、Lサイズミニバンや売れ筋5ナンバー級ミニバンは当然として、その下のトヨタシエンタくらいのクラスにおいても、ミニバンの顔つきはまだしばらくの間、「ギラギラ系」が主たるトレンドであり続けるだろう――という答えにしかならない。残念な話ではあるのだが。
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