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 皆さんのクルマに装着されているタイヤは、どのメーカーのものだろうか。欧州、日本、北米やアジアまでタイヤメーカーは数多く存在し、日本国内での流通も増えてきた。量販店ではプライベートブランドタイヤまで登場し、タイヤメーカーの選択肢は年々増えている。

 こうした中、カーディーラーでタイヤを購入すると、「このブランドは取り扱ってないんです」「この中から選んでもらえますか」と言われ、タイヤメーカー選択肢が狭い場合がある。ところによっては、1つのメーカーだけしか取り扱っていないというお店もしばしばだ。誰もが知る有名メーカーのタイヤでさえ販売できないと言われることもある。

 ディーラーでは、なぜタイヤの取り扱いメーカーが少ないのだろうか。ユーザーが買いたいタイヤを、ディーラーが売れない実情に迫る。

文:佐々木 亘
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※記事内の画像はすべてイメージです

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■ディーラーが部品を仕入れる「共販店」

 各ディーラーが部品を仕入れるために利用するが「共販店」だ。そのメーカーの車両部品を一手に扱う専門卸売店のようなもので、必要な部品を端末で頼んでおくと、1日に数回、各店舗へ部品を配達してくれる。

 部品・用品の仕入れは、ほぼ共販店から行われ、ユーザーへ提供する商品は、共販店を通して販売をしているというわけだ。そのため、共販店が取り扱わないメーカーのものは、ユーザーへの提供を断るディーラーが多い。

 カスタマイズに明るいディーラーでは、独自に社外品を入手するルートを確保し、共販店以外からの商品入手を積極的に行うケースもあるが、まだまだ数は少ない。したがってディーラーで販売しているタイヤは、共販店と取引をするメーカーに限られることが多いのだ。

■タイヤ交換を手伝ってもらう代わりに

 ディーラーでは、概ね夏タイヤや冬タイヤの取り扱いに関して、3メーカー程度をメインに取り扱うお店が多い。メインに扱うクルマの車格によってまちまちだが、ブリヂストン・ヨコハマ・ダンロップという3社を取扱うというお店がメジャーだろう。

 高級車ディーラーではミシュランが加わることもあるし、お店によってはトーヨーやグッドイヤーをラインナップすることもあるだろう。

 複数社を比べられるようにしているディーラーが多い中で、1つだけのメーカーに絞ってタイヤの販売を行うところもある。ディーラーにタイヤをお願いしたら、ブランドの相談なく「この価格になります、よろしいでしょうか」と話が進み、毎回装着されるタイヤメーカーが同じという経験をしたことがある人も多いのではないだろうか。

 こうしたケースでは、ディーラーの本社(販売店本社)が、特定のメーカーと契約をしていることが多い。ディーラーにとっては仕入れ価格面でのメリットがあり、タイヤメーカーの社員がタイヤ交換などの実務も手伝ってくれるのだ。

1つだけのメーカーに絞ってタイヤの販売をしているところは、ディーラーの本社が、特定のメーカーと契約をしていることが多い。ディーラーにとっては仕入れ価格面でのメリットがあり、タイヤメーカーの社員がタイヤ交換などの実務も手伝ってくれる(488106808@AdobeStock)

 最近では、特定タイヤメーカーの社員が、繁忙時期になるとディーラー整備工場の一角で、タイヤ交換(脱着や剝き替え)を行っている姿を見る機会が増えてきた。

 毎年、季節ごとのタイヤ交換が発生する地域では、こうした対応は珍しくない。自社のメカニックを整備に集中させ、タイヤ交換(特に剥き替え)については専門家に任せるという分業制を取り、作業の効率化を図っているのだ。

 タイヤメーカーの作業員を常駐させることで、ディーラーでは全力で整備に力を注ぐことができる。特に偏平率が低いタイヤが標準装着されるようになった昨今、タイヤの剥き替え作業は、技術的にも難しくなったため、販売店としてもタイヤのプロがいるのはありがたい。

 交換用タイヤを1メーカーしか取り扱わない代わりに、作業の効率化を図り、売り上げを伸ばす。タイヤメーカーも自社だけで販売するよりも、ディーラーの販売網を使ったほうが売り上げは高まるため相乗効果が期待できる。

 ディーラーが、取り扱いタイヤメーカーを絞り込む裏には、こうした事情があるのだ。

■売りたいのに売れない苦しさも

 実際に顧客と接する営業マンとしては、タイヤもしっかりと販売し、ユーザーとの関係をより強固にしたい。しかしながら、実際は販売できるタイヤメーカーは限られ、その中のブランドも限定されている。

 だが、季節ごとにタイヤ販売の目標本数が与えられ、達成できないと立場が難しくなるのも事実。あの手この手でユーザーを納得させて、数少ない選択肢から買ってもらう努力を、営業マンは行っているのだ。

 この制度の中で苦しい立場にあるのは、広い選択肢がないユーザーと、ユーザーに対して選択肢を提示できない営業マンなのである。

 タイヤは嗜好品であり、消耗品でもある。クルマを販売する上で、消耗品の交換は必須だが、交換サイクルが長いタイヤは、取り扱いが難しい。自然に劣化していくナマモノであり、大量在庫を抱えるわけにもいかないのだ。

 ユーザーの利便性を最低限保ちながら、お店が不利益を受けないようにしなければならないディーラーのタイヤ販売事情。メーカー絞り込みの裏には、ディーラーの経営戦略が隠れている。

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投稿 欲しいタイヤを買えない!? 売りたくても売れない!! 実は知らないディーラーのタイヤ販売事情自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。