アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)が、これまで予想されていた時期より早く3月にも金利引き上げを開始する可能性が高まって来た。
これがアメリカをはじめとする世界の株価に影響を及ぼし、ハイテク株を中心に株価の急落が起きているが、金利引き上げの影響はそれだけではない。長く続いた超金融緩和が生み出した過剰なマネーは、世界中で不動産など様々な資産価格を上昇させ、また好景気をもたらして来たが、金融引き締めとなると、それが一気に逆回転を始めて様々な問題が表面化して来る。
13年ぶり貿易赤字、すでに「韓国売り」
IMF(国際通貨基金)は、1月10日付けのIMFブログ(IMFBlog、IMFのスタッフが意見や研究成果を発表するサイト)で、アメリカの金利引上げが予想よりも早まると、金融市場に衝撃が走り、世界的に資金調達が難しくなり、アメリカ経済が減速して貿易量が減少するほか、新興国から資本が流出したり、新興国通貨が下落したりする可能性があると警鐘を鳴らしている。
実は、新興国ではないが韓国もそうしたリスクと無縁ではない。先進国クラブのOECD(経済協力開発機構)に加盟している韓国は新興国には分類されないが、アメリカの金利引き上げで輸出の減少、ウォン安、資本流出といったリスクにさらされる点では新興国と同じだ。
世界的な超金融緩和状況の中で昨年の韓国経済は、力強い輸出に牽引されてGDP成長率が前年比4%増と11年ぶりの高い成長率となった。しかし、昨年12月にはエネルギーや原材料価格の上昇で輸入が輸出を上回ったため、貿易収支は5億9000万ドルの赤字となり、この傾向は1月に入っても続いている。貿易収支の赤字は、新型コロナの感染拡大で一時的に赤字となった2020年4月を除けば2008年以来のことだ。今後アメリカの金利引き上げで世界貿易が縮小すると韓国経済は輸出に大きく依存した経済なので、貿易赤字の一層の拡大が懸念される。
その一方で、消費者物価は昨年春以来、韓国銀行が目標とする2%の目標値を上回る上昇が続いているほか、不動産価格が首都のソウルを中心にバブル的に上昇して国民の間で不満が高まっている。
こうした中で、通貨安をもたらすインフレの進行と経済の先行き不透明感を反映して、韓国ウォンの対ドル相場は昨年半ば以降下落している。
また、韓国証券市場での外国人の株式取引は、昨年11月と12月は買いが売りを上回ったが、年間を通すと約26兆ウォン(約215億ドル)の売り越しとなっており、海外マネーが流出している。韓国経済の先行きを懸念して韓国売りが始まっているのだ。
韓国の中央銀行である韓国銀行は、今後のアメリカの金融引き締め政策の悪影響に備えて、今年1月14日に政策金利を0.25%引き上げて1.25%としたが、市場関係者は今年中にさらに1回ないし2回の利上げが必要になると予測している。
ところが利上げは国内の景気を冷やすとともに、借金を抱えている家計へ深刻な影響をもたらす恐れがある。韓国の家計負債は、対GDP比率で105.8%とGDPを上回るまでに膨張しており、アメリカの79.0%や日本の66.5%(いずれもBIS統計、2021年第2四半期末)と比べて非常に高い。今後、韓国銀行が政策金利を引き上げると、変動金利で住宅ローンを借りている人たちの中には、ローン破綻する人が多数出てくるだろう。
日本を逆なでした末の資金繰り苦慮
しかし、それでも政策金利を引き上げて為替と国際収支の安定を図らざるを得ないところが韓国経済の苦しいところだ。
韓国統計庁によれば韓国の対外債務のうち短期債務は昨年第3四半期末で約1650億ドルあり、その4分の3近くが金融機関の債務だ。これは世界の金融市場に混乱が生じてドルなどの外貨の調達が困難になると、すぐに金融機関の外貨資金繰りに問題が生じることを意味する。
韓国は急激な資本流出に耐えられるように、外貨準備を積み上げる努力を続けてきており昨年12月末には約4600億ドルを超えるに至っている。しかし今後急激なウォン安が発生すると、韓国銀行は為替市場に介入が必要となろうが、ヘッジファンドの投機も予想される中で、これだけの外貨準備で十分と言えるかどうか疑問だ。
もし日本やアメリカとの通貨スワップ協定があれば、ウォンを円やドルに交換することで外貨不足を避けられるが、アメリカは中国寄りの姿勢をとり続ける韓国に対して強い不快感を持っており、昨年末に失効したスワップ協定を新たに結ぶ気配はない。
そして日本も徴用工問題や竹島問題で神経を逆なですることをやめない韓国に対して国民の嫌韓感情は高まったままで、とてもスワップ協定を新たに結ぶ状況にはない。
アメリカが金融政策を引き締めに転換する中で、韓国にウォン安と国際収支困難の足音が近づいている。