2022年に入って、7日にはホンダの新型「ステップワゴン」が、その6日後となる13日には、トヨタの新型「ノア/ヴォクシー」が、と、相次いでミドルサイズミニバンの新型が発表されている。発表同日に発売開始となったノア/ヴォクシーには、すでに多くの受注があるようで、ミニバン人気の底力を改めて感じている。
いま日本で販売されている「ミニバン」は、2×2×3の7人乗り、もしくは2×3×3の8人乗りのどちらか。以前は前席に3人乗ることができるシートをもつモデルも存在したが、乗用モデルではすでに絶滅してしまった。なぜ前席3人掛けシートは受け入れられなかったのか。その理由を考察しよう。
文:吉川賢一
写真:NISSAN、HONDA、FIAT
ファミリーカーとしては理想的なコンセプト
前席3人掛けシートを備えていたクルマは、1998年に登場した日産「ティーノ」、日本では2003年に登場したフィアット2代目「ムルティプラ」、2004年に登場したホンダ「エディックス」などが挙げられる。どれもすでに姿を消しており、いま新車で買えるのは、ハイエースやキャラバンといった商用車くらいしか生き残っていない。コンパクトカーや軽自動車でベンチシートタイプがあるが、必ず2人掛けだ。
前席が3人掛けとなることで、子供を真ん中に載せ、一列に並んでドライブすることができる。視界が運転者(親)と同じになるので会話が弾むし、ドライバーひとりのときも、子供をすぐ横に座らせることができて、安心感が高い。ファミリーカーとしては理想的なコンセプトだ。
実際、エディックスを購入したユーザーからは、直ぐに手が届く範囲に子供を座らせることができるので、後席に座らせておくよりも安心できた、といった声が多かった。当時ホンダも、中央席に固定するベビーシートをアクセサリーとして販売しており、需要に対する答えを用意していた。
他にも、ベンチシートタイプの場合は、助手席側から運転席へのスライド移動が簡単にできるし、運転席のすぐ横に荷物を置くことができる、といったメリットがあった。
しかしデメリットが目立ちすぎて思うようには売れず
しかし、こうしたメリットを享受できた反面、前後のシート間のウォークスルーができないことや、横方向が狭い(特に足元)こと、フロントセンターシートは乗降口からは遠くなるため、子供を座らせるのが結構大変(後席に乗せる方が早い)なこと、運転者が端に寄っているので運転に慣れが必要、など、ネガティブな部分もあった。
もちろん自動車メーカーとしては、これらデメリットは承知の上で、「3人掛けの楽しさ」がもつ可能性を信じ、デメリットを消す努力をしていた。なかでもエディックスは、なかなかの力作だったと思う。
だが、デメリットが悪目立ちしてしまったことや、2列5人乗り、3列6/7人乗りの商品力の高いコンパクトカーが多く登場したことで行き場所を失ってしまい、(ちょっと変わった外観のムルティプラはさておき)ティーノにしてもエディックスにしても、販売台数は思うようには伸びなかった。
これらがもっと売れていれば、後継車やライバル車が増え、前席3人掛けシート車は、もっと便利で使いやすく進化していっただろうが、残念ながら台数減には勝てず、絶滅となった。
ちなみに、前席3人掛けシート車が絶滅した理由を、「側面衝突安全性の辛さ」とする方が多いが、ドア内部への緩衝部材、補強部材など、その気になれば対策できたはずだ。だが、コストや時間をかけて衝突性能を上げるほどの価値が見いだせない(売れない)ため、モデル廃止にせざるを得なかった、と言うのが正確な事情だろう。
いつかまた復活するのでは!?
ロマンスカーの先頭に座って前方の景色を見ている、楽し気な子連れファミリーを見るに、やはり、横一列で座るのは格別なのだろう。今は絶滅した状態ではあるが、いつの日か、前席3人掛けシート車は復活するのではないだろうか。それだけの可能性は十分にある、と筆者は考える。
【画像ギャラリー】チャレンジしすぎて短命に レアすぎる3×2シート車たち(45枚)画像ギャラリー投稿 便利だったのに…前席3人掛けシートはなぜ滅んだのか? は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。