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 以前に特にバスにかかわる運転免許のことについて記事を書いたが、2022年5月にまた免許制度の改正がある。免許区分や運転できる車両に変更はないが、今度は免許取得年齢と必要な履歴に関する改正だ。方向は規制ではなく大幅な緩和になっている。

文/写真(一部引用):古川智規(バスマガジン編集部)


最初に少しだけ法律のお勉強

 法律とは面倒くさいもので一般的に法律の一部を改正する時は、「一部を改正する法律」を制定して元の法律を改正する手順を取る。多くの改正法律には施行日については政令で定めるとなっており、これは準備や周知を行う相当の期間を考慮しての措置だ。

帝国議会で憲法改正案が可決された瞬間の速記録が掲載された昭和21年10月8日の官報(出典:国立国会図書館)

 特殊な例としては日本国憲法は大日本国憲法の改正扱いなので、名称も条文も全て改正・公布により入れ替えられた。日本国憲法の改正には国民投票による国民の賛成が必要だが、大日本帝国憲法の改正には帝国議会の特別多数議決により改正できる規定だったので、当該規定により改正されたのが日本国憲法である。

改正はすでに行われていた!

 さて、今回話題とする道路交通法の改正については「道路交通法の一部を改正する法律(令和二年法律第四十二号)」として令和2年にはすでに成立しており、施行日は公布日から2年を超えない範囲で政令により定めるとなっていた。

官報に掲載された令和2年法律第42号(出典:インターネット版官報)

 公布とは内閣の助言と承認により天皇が国民に広く法律の制定を周知する国事行為で、判例により東京都の官報販売所で閲覧できる時点で公布されたと擬制(みなすということ)される。法律の効力が生じる「施行」はまた別の話で、特段の規定がなければ公布後20日後に、規定があればそれ基づいて法律の効力が生じる。(公布と同時に即日施行という場合もある)

ようやく施行日が決まる!

 そしてようやく内閣府令「道路交通法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(政令第15号)」で令和4年5月13日に改正条項を施行することが決まった。これにより2022年5月13日以降は中型・大型・二種の運転免許試験の受験可能年齢が緩和される。

官報に掲載された政令第15号(出典:インターネット版官報)

 まず中型免許と大型免許については「普通自動車免許等を受けていた期間が通算して一年以上」で受験資格が与えられる。普通免許が満18歳で取得できるので、最短では1年以上経過した19歳の時点で取得可能になる。

注目の二種免許は?

 一方で第二種免許については「十九歳以上であり、かつ、普通自動車免許等を受けていた期間が通算して一年以上」と緩和される。前項の規定に基づいて普通免許を18歳で取得すれば最短で19歳で大型二種免許も取得できることになる。

免許区分の変遷

 もともと、普通免許で4トン車が運転できた時代に慣れない運転者が事故を多発させたために中型免許が新設され規制が強化された。

 ところがこれまで普通免許で運転できていたトラックが運転できないことから若い運転手不足に陥り、まずは陸運業界から悲鳴が上がる。そこで準中型免許を新設してトラックが運転できるように若干の緩和をした経緯がある。

バス業界では?

 バス業界では中型二種で運転できるバスもあるが、基本は大型二種免許だ。二種免許が必要なことでは同様のタクシー業界でも結局は二種免許取得の年齢的条件や免許経歴年数がネックになり運転手が集まらないと悲鳴を上げる。

路線バスの例(京王バス)

 ここでは運転免許制度につてのみの考察なので、待遇や労働時間等の問題は議論の対象にはしないが、とにかくトラックやタクシー業界も含めて行政に対して要望を出した。行政としては規制に踏み切った理由が事故の多発だったので、安全対策ができるならば受験資格の見直しを検討してもよいとの結論に至った。

現有免許には影響しない

 今現在持っている免許には一切影響せず、乗れる車両にも変わりはないが、取得制限が緩和されることにより、今後は新たに中型・大型・二種の免許が取得しやすくなるのは事実だ。

路線バスの例(京王バス)

 免許が取得しやすくなることによる若年運転者への安全性の問題が指摘されそうだが、免許を持っているからと採用者を直ちに営業運転に就かせる事業者はないと考えられるので、優良な運転士を持続的に育てる事業者の力量が試されるのだろう。

路線バスの例(京成バス)

 規制と緩和を短い期間に繰り返してきた運転免許制度だが、これを機にバス業界の運転士不足は抜本的な解決を見るのかが注目される。

投稿 運転免許制度改正!! バス業界の運転士不足は解消するか?自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。