ここまでは今注目されているメタバースの不動産取引に焦点を当ててきたが、今後定まっていくであろうメタバースの定義次第によっては、メタバースの不動産価値がリアルなものになるか、それともハイプ(高利回りを謳った誇大広告)になるかが問われていくことになる。
メタバースの定義は未完成
報道によれば、ディセントラランドの土地を約250万ドルで取得したトークンズ・ドット・コムのアンドリュー・キゲル最高経営責任者(CEO)はこう述べたという。
「マンハッタンに街がつくられ始めていた250年前にその土地を購入するようなものだ」
この言葉どおり、今後、仮想空間内にマンハッタンに匹敵する経済価値を持った都市が現れるとしたら、確かに過去に類を見ないほどの素晴らしい投資だといえるだろう。
※参考:The Wall Street Journal「メタバースで不動産ブーム、史上最高額再び更新」
メタバースの完全な定義づけにはまだ時間を要する。メタバース内への不動産投資が、新しい未来都市への素晴らしい投資となるのか、単なる仮想空間での都市開発ゲームで終わるのかはまだわからない。だが、メタバースが現実世界にもたらす可能性は仮想空間での都市づくりにとどまるわけではない。
政府の「ムーンショット目標」とメタバースの未来
現在、政府は「ムーンショット型」と呼ばれる目標を設定している。ムーンショットとは言葉どおり、「月に向けて打ち上げる」という意味だ。1961年、ジョン・F・ケネディ大統領が、「1960年代が終わる前に月面に人類を着陸させ、無事に地球に帰還させる」という実現困難な月面着陸プロジェクト (アポロ計画)を発表し、1969年にその目標を達成した。
実現困難だが、実現すれば大きなインパクトが期待されるため、「ムーンショット型」と名付けられた政府の目標は全部で9つ。なかでも興味深いのは、9つある目標のうち「目標1」の項目だ。
これは、「2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現する」というもので、具体的にはアバターとロボットを組み合わせることによって、人の能力を拡張し、空間と時間の制約を超え、年齢や価値観にとらわれることなく、人々の多様なライフスタイルを実現しようという試みだ。
※参考:内閣府「ムーンショット目標」
アバターと同期するような高性能なロボット開発は別にして、これに近いことがすぐに実現するのはまさしく仮想空間だ。自分のアバターが空間や時間、身体的制約などの物理的な制限を超えて様々な場所に行き、様々な人と交流し、買い物や様々なアトラクション、エンターテイメントを楽しみ、そしてビジネスの新形態という意味においても、メタバースが発展し普及すれば現実世界と同じような体験・体現が可能となる。
少子高齢化の進行や年々激甚化している自然災害の危機に見舞われている日本では、メタバースはまさに今必要な急進的イノベーションだといっても過言ではないだろう。
現実世界の不動産も仮想空間の不動産も、その機能や意味合いは酷似している。そこに経済的価値を見出すことも当然だ。しかしメタバースが廃れず、経済的価値を保つためには、高い普及率が不可欠なのは先に述べたとおりだ。今後は、メタバースについて経済的な発展性や投資的な視点だけではなく、多くのユーザーがメタバースを利用しやすい環境整備がどう進むかについても注目していくべきだろう。