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 電動車が続々登場する現在だが、やはり課題となっているのは急速充電器だと考えられる。

 そんな急速充電器を独自に開発して、数は多いとは言えないものの設置しているのがテスラだ。最新のスーパーチャージャーは、最高250kWでの充電を可能にしている。そんなスーパーチャージャーが、国内に設置されている急速充電器に比べて、EVユーザーからの評価が高いと言われている。

 このスーパーチャージャーとはどんなものなのか? またなぜ国内の急速充電器よりも評価が高いと言われるのか? 考察していきたい。

文/御堀直嗣
写真/テスラ

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■なぜテスラのスーパーチャージャーは評価が高いのか?

 米国テスラの電気自動車(EV)は、今日なお世界最先端の商品性を備えると思う。クルマとしての斬新さや独創性、高性能さ、なおかつ使い勝手のよさはいうにおよばず、充電のしやすさや充電器の高性能さも知られるところだ。車両および充電器ともに評価が高い。

 今日につながるEV市場導入の動きは、1990年代初頭に米国カリフォルニア州を中心にはじまった。エンジン車を改造してコンバートEVを製作したあと、問題なのはいかに充電するかにあった。その課題は、永く解決されずに来た。

 日本では、2009年に三菱i-MiEVが、続いて2010年に日産リーフが発売されるに至り、充電網の整備が不可欠となり、自動車メーカーだけでなく充電に関連する電力会社を含む企業連合として、CHAdeMO(チャデモ)協議会が設立され、統一した充電規格を定め、これを世界標準とする活動が推進された。

 これに対し、テスラは独自に充電設備を開発し、自社で世界へ整備拡充する戦略をとった。それが、急速充電のスーパーチャージャーであり、家庭などでのウォールコネクターである。なかでもスーパーチャージャーは、大容量バッテリーを車載するテスラ車に短時間で充電できる高性能さが当初より評判になった。

テスラは独自に充電設備を開発し、自社で世界へ整備拡充する戦略をとった。大容量バッテリーを車載するテスラ車に短時間で充電できる高性能さが当初より評判されていた

 評価の理由は、充電能力の高さにあった。CHAdeMOが最大50kW(キロ・ワット)であったのに対し、スーパーチャージャーは120kWと2倍以上の電力を出力できる。したがって、1回の急速充電で走行できる距離も長くなり、充電しながらの移動に不安を生じさせないことにつながる。

 現在は、CHAdeMOも90kW級へ移行する作業が行われているが、テスラの120kWに比べなお75%の出力に止まる。そこに、ポルシェ タイカンが日本市場へも導入されるにあたり、日本仕様のタイカンの車両側の許容電力は150kWであるため、CHAdeMOも150kWへさらに高性能化を希望する声がある。

 こうなると、テスラの120kW超えになるのだが、テスラはモデル3用として250kWのより高性能な仕様を整備しはじめている。

■専用品という強みで、ほかの急速充電器よりも柔軟性を持ったスーパーチャージャー

 スーパーチャージャーへの高い評価は、なお進化し続けている。

 スーパーチャージャーが高い評価を得る背景にあるのは、供給電力の高さにあるのは事実だが、なぜテスラだけがそれを可能にできるのか?

 最大の理由は、EVを製造するメーカー(すなわちテスラ)自らが充電器も開発し、世界展開しているからだ。ここが、既存の自動車メーカーや、新興EVメーカーと異なる。

 承知のとおり、EVの充電はまず、車両と充電器の間で通信し、車載バッテリーの充電状況はもとより、その温度情報などをやり取りして、安全が確認されてから充電を開始する。この点は、CHAdeMOも、欧州が主流のCCS(コンバインド方式)も同様だ。

 そのうえで充電を行う際に、テスラのように自社で製造したEVであれば、どのような特性のバッテリーで、どのような冷却特性であるかなど、バッテリー情報を熟知したうえで安全を損なわない充電の仕方を決められる。

 120kWだろうが、250kWだろうが、それほどの高電圧、高電流で流しても、発熱したり、短絡(ショート)したり漏電したりしないことを承知のうえで、高出力での充電が可能になる。なおかつ、充電口の形状も、急速と普通と同じ接続形状とし、安全かつ手軽でお洒落な使い勝手にできる。

 一方、社会基盤としての充電網を使う場合は、各メーカーが製造するEVのバッテリー銘柄が異なり、冷却方式も様々で、そうした多様な仕様のEVへ高出力の充電を行うには、多面的な目配りで安全を確保する必要がある。端的にいえば、守りの充電の仕方になる。すべてを知ったうえで、攻めの充電ができるテスラとは、そこが違う。

 テスラは、英国ロータスのコンバートEVであるロードスターのあと、専用開発のモデルSを発売し、モデルX、モデル3と発展させてきた。そのあとには、日本へはまだ導入されていないが、小型SUV(スポーツ多目的車)のモデルYがある。

 モデル3は、テスラのなかでは価格帯が低い量販車種だが、EVとしては最先端であり、技術進化もしたはずだ。したがって、250kWという高出力の充電をしても安全が保たれる開発を行ったうえで、スーパーチャージャーの高性能化が成っている。モデル3の台数が増えても、充電渋滞を予防する効果が見込まれる。

■EV時代をリードするのは、クルマも急速充電器も作れる会社

 充電ひとつを採り上げても、充電基盤は協調領域だという意識を持ち続ければ、EVの車両としての真価もおぼつかないだろう。

 欧州では、ドイツのフォルクスワーゲングループを中核としたアイオニティ(IONITY)と呼ばれる充電組合を組織し、急速充電の拡充に乗り出している。

 たとえばタイカンが、欧州で270kWの高出力に対応するとされるが、それも単にスポーツカーとしてのEVを開発するだけでなく、VWグループ傘下のメーカーとして急速充電普及の一端に関われるからこそであり、それによってテスラと同じような攻めの充電ができるのである。ちなみに、アイオニティは、最大350kWの急速充電器をもつという。

 車両と充電が一組であるという発想が、EVでは不可欠であり、そこがハイブリッド車(HV)を含め、従来のクルマと違う点だ。同じことが水素自動車(燃料電池車=FCVおよび水素エンジン車)にもいえる。

 充電を含めた普及が進むことでEV事業の裾野は広がり、市場や時代を一変する力を持つ。水素を使うクルマが同じモーター駆動でありながらなかなか普及しないのは、水素の供給体制が昔ながら(ガソリンスタンドと同一)であるからだ。

車両と充電が一組であるという発想が、EVでは不可欠であり、そこがハイブリッド車(HV)を含め、従来のクルマと違う点だ

 21世紀の自動車社会の中核がEVである理由がそこにある。そこは家庭電化製品やスマートフォンなど、電気を利用する身のまわりの機器についても同じことがいえる。自宅に太陽光発電を備えれば、電力会社による系統電力にあまり依存せず暮らしを営むことができる。

 つい先日、首都圏に発令された電力逼迫の危機に際しても、今回は大都市停電に至らなかったものの、万一の事態に際し、普段通りの暮らしを続けられる基となるのが自家発電の発想だ。

 そしてEVを所有し、ヴィークル・トゥ・ホーム(VtoH)の機器を備えれば、同様に数日間の電力はEVから家庭へ供給し、普段通りの生活を続けられる。

 話がややそれたが、以上のように、充電は車両と一体のものであり、両方を一組で設計開発できるメーカーが、EV時代の主力となりえるのである。

 日産自動車は、テスラのように独自の充電網を築いたわけではないが、初代リーフ導入当初、自動車メーカー自ら急速充電器を開発することで原価を半減させ、CHAdeMOによる充電網の拡充に大きく貢献した。日本の日産も、EVと充電を一組で考え、電力需給を含めた次代を築ける資質を持つ自動車メーカーである。

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