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市販化実現可能!! ピックアップトラックEVモデルの現在と今後の行方

  2021年12月、トヨタはバッテリーEV戦略に関する説明会を開催した。この説明会の会場内に、2022年発売予定のbZ4X含む16台の新型EVモデルがお披露目された。近年人気の高いSUVモデルから、スポーツカーまで幅広い車種が勢ぞろいし、その最後列には、ピックアップトラックがあった。

 すでにピックアップトラックの主力市場である米国では、ピックアップトラックのEVモデルが登場している。2022年春には、フォード初EVピックアップトラック「F-150ライトニング」が発売される予定だ。

 そこで本稿では、米国市場を軸にピックアップトラックEV事情を解説。さらに、重要な課題の一つである未舗装道路走行時の耐久性能、今後の展開についても解説する。

文/御堀直嗣、写真/TOYOTA

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ピックアップトラック主力市場米国ではすでにEVモデルが登場!!

フォード初のEVトラックとなるF-150ライトニング

 2021年12月にトヨタが開催したバッテリーEV戦略に関する説明会で、会場に並べられた16台のbZシリーズ最後列に、ピックアップトラックがあった。2022年日本で発売される予定のbZ4Xは、近年人気のSUV(スポーツ多目的車)であり、ピックアップトラックのEVを意識する人は少なかったかもしれない。

 かつて、ピックアップトラックは、国内でも経済活動の発展を支えてきた車種だった。トヨタ・ハイラックスはもちろん、ダットサン・トラック、いすゞ・ファスターなどがあった。それらはいずれも国内販売が終わり、ハイラックスも2004年にいったん販売を終えていたが、現行車が13年ぶりに国内で復活はしている。それでも、その存在にまだ気付いていない消費者もいるだろう。

 いま、ピックアップトラックの主力といえるのは、北米や東南アジア、あるいはアフリカの市場ではないか。たとえば三菱自動車工業のトライトンは、タイで生産される世界戦略車だ。一時日本でも販売されたが、現在は終了している。

 ピックアップトラックが広く一般に普及しているのは米国だ。米国では、もっとも手軽で身近なクルマとしてピックアップトラックが位置付けられている。日本でいえば、軽自動車のような価値観だ。そしてピックアップトラックのドレスアップなども行われ、トラッキングと呼ぶ。

 米国は、公共交通機関が必ずしも便利でなかったり、路線バスも走る地域によっては不安があったりと、安心や安全確保の点でも一人ずつクルマで移動するほうが日常的だ。ピックアップトラックは、そうした移動の足として充分であり、荷台には荷物もたっぷり載せることができ、暮らしのなかで活用範囲の広い車種なのだ。

 米国で親しまれるピックアップトラックのレースも行われており、ストックカーレースで名高いNASCARシリーズには、ピックアップトラックの戦いもあり、トヨタは米国で販売するタンドラを参戦させてきた。

 日本人には馴染みの薄いピックアップトラックも、米国では売れ筋の車種であり、だからこそテスラもサイバートラックを2019年に公開し、発売へ向けて準備を進めている。ほかにも米国には、ゼネラルモーターズ(GM)のシルバラードRST、ハマーEV、新興のリヴィアンR1Tなど、EVピックアップトラックが目白押しだ。

 フォードは、マスタングEVに次いで、初のEVトラックとなるF-150ライトニングを2022年の春にも発売予定で、15万台以上の予約注文があるとされる。また、このF-150ライトニングを活用した、EV to EVの充電機能も発表している。1時間の充電で、約32km走行できる能力があるという。長距離移動には不充分だが、たとえばバッテリー切れを起こした場面で活用できる。

 冬の豪雪による渋滞でバッテリー切れを起こしても、こうしたEVtoEVの充電機能を使えば、最寄りの充電器まで移動して急速充電すれば助かる。未舗装路でも一般的な乗用車に比べ走破性に優れるピックアップトラックやSUVなどがEVになれば、単なる排出ガスゼロだけでない活用法が生まれる可能性がある。

ピックアップトラックをEVへの改造が容易な理由とは

 かつて、まだ市販EVがなかった時代、ピックアップトラックはEVへの改造が容易な車種として注目された。理由は、車体と別構造のフレームを持つためだ。外から見える車体とは別にフレーム構造を持ち、ここにエンジンや駆動系、サスペンションなどが取り付けられる。生産財として仕事で使うクルマだけに、フレームを持つことで耐久性や頑丈さいっそう保証される。

 そうした丈夫なフレーム構造があることにより、重量がかさむ駆動用バッテリーを車載するのに好都合なのだ。

 もともと米国で人々に身近なピックアップトラックを、EVに改造することがすでに1990年代から行われてきた。米国では16歳で運転免許を取得でき、それによってはじめて親元を離れて外出ができるようになる。高校生にとって、運転免許証は親の手を離れる第一条件になるのだ。日本では簡単に鉄道やバスで移動できる生活環境があるので、クルマを運転できることが親の手を離れる自立につながることは実感しにくい。

 そうした米国の高校生たちが、90年代から課外授業の一環として身近な車種でのEV改造をはじめ、学校対抗でその性能を競うことをはじめた。その一つがアリゾナ州で開催されたEVレースだ。そこには多くのピックアップトラックの改造EVが参加していた。

 私も、1996年にダイハツ・ミゼットIIを購入し、EVに改造して所有していた。日本EVクラブ代表の舘内端が持つ同じ仕様のEVミゼットIIは、フランスへ空輸し、ミシュランが開催した98年の第1回チャレンジ・ビバンダムに参加して、ミシュラン本社があるクレルモンフェランからパリまで約400kmを走破している。

未舗装路での走行耐久性は? EVピックアップトラック今後の展開はいかに?

2021年12月に行われたトヨタのバッテリーEVに関する説明会で公開されたピックアップトラックEVのコンセプトカー「Pickup EV」

 ピックアップトラックはそのように、自作のEV改造に適した車種であり、日常の移動で実用性を発揮することができる。それを自動車メーカーが実現したのが、テスラやフォードのEVピックアップトラックだ。米国市場を重視するトヨタにとっても、bZシリーズにピックアップトラックを加えるのは当然の成り行きといえるだろう。

 舗装路だけでなく、未舗装路を走る可能性も出るピックアップトラックのEV化で、耐久信頼性はどうかとの懸念があるかもしれない。

 しかし、新年にサウジアラビアで開催されたダカール・ラリーに、ドイツのアウディはEV技術を応用したモーター駆動で参戦した。総合優勝はトヨタ・ハイラックスだが、そちらはエンジン車であった。

 アウディのRS・Q・e-tronは、正確にいえばシリーズハイブリッド、あるいはレンジエクステンダーといえるだろう。駆動はすべてモーターであり、フォーミュラEのモーター・発電機が使われている。これに、発電用としてDTM(ドイツ・ツーリングカー選手権)で使われた排気量2.0Lの直列4気筒ターボエンジンを併用する。これによって、競技中の走行距離を確保し、また砂漠地帯での充電拠点の課題を解決したのだろう。

 総合成績では9位に終わっているが、完走し、また参加したドライバーすべてがステージ優勝するなど、走行性能や耐久性において、世界的にも初の参戦で充分な威力を発揮したといえるのではないか。

 そもそも、モーターは1台のクルマが寿命を終えてなお、次のクルマでも使えるといわれるほど耐久性がある。また、リチウムイオンバッテリーも、廃車のあと、セルごとに性能を検査することによって、高水準を維持しているセルを集めEVへの2次利用もできる。

 頑丈なフレーム構造はもちろん、乗用車においても丈夫なバッテリーケースに収められることによって、万一の衝突事故に際しても安全が保たれている。事故車から回収したバッテリーを再利用することも、品質を確認すれば不可能ではない。

 制御に関わるコンピュータは精密機械であるから、取り扱いには配慮が必要だ。とはいえ、エンジン車もコンピュータなしでは走れないのであって、精密機器を車載することは特別なことではない。

 以上から、ピックアップトラックやSUVなど、未舗装路を走る可能性のある車種でもEV化は何ら支障なく、逆に、近年の自然災害による対処には未舗装路での走行性能に長けたピックアップトラックやSUVがより活躍の場を広げることになっていくだろう。当然ながら、その際にはEVからの電力供給も考えられる。

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