沖縄の地元紙「琉球新報」は4月1日、「米兵が本紙記者に銃口 那覇軍港警備訓練の取材中に」との記事を掲載し、3日には「米兵、本紙記者に銃口 取材への威嚇に抗議する」と社説で主張した。
これらの記事について、米軍側は「武器は記者を指していない」「写真で、当該兵士は照準器をのぞいていない。つまり、狙っているわけではなく、訓練で警備するべきエリアを確認していた」などと説明し、琉球新報の記事を否定。日本政府は、松野官房長官の記者会見で言及するなど、国を巻き込む騒ぎになっており、ツイッター上でも記事に対してミスリードではないかという疑問の声が続出している。
この件について、琉球新報はどう考えているのか。本社に問い合わせると、写真を撮影した同紙写真映像部のジャン松元カメラマンが取材に応じた。
「銃を向けられた瞬間、ドキッとしました」
ツイッター上では、画像加工を疑う声もあるが、写真はそのまま撮影したものとのこと。また、現場には他の記者はいなかったという。
写真は、米兵の訓練の動きをそのまま撮影したものです。その時はたまたま他社の記者は軍港の反対側のゲートにいて、その場には私しかいなかったんです。一人で脚立に座って様子を見ていたら、武装した一団がやってきて、それを撮影していたんです。主にスチール写真を撮りながら、同時に動画も同じカメラで交互に撮影していました。
新聞社が読者を欺くような画像加工を行えば、大問題となる。いくらなんでも、琉球新報がそんなことをするとは考えにくい。威嚇というのは言い過ぎではないかと問うと、松元カメラマンはこう答えた。
これまで普天間飛行場などさまざまな場面で訓練を取材してた経験上、米兵は通常、訓練時でも銃口を必ず下げているんです。銃口を向ける際は基地のなかに向けるので、民間地に向けることは今までに例がなかった。その経験から、銃を向けられた瞬間、ドキッとしました。
こうした経験は、初めてだったという。
米兵は決められたマニュアル通りに訓練したのでしょうが、私のところで数秒間仁王立ちをして銃を構えていました。スコープ(照準器)を見ていないとはいえ、銃を向けられたのは初めてでした。他の記者もいたとしたら、同じようにドキッとして撮影していただろうと思います。
800㍉・レンズで撮影
米兵と松元カメラマンの間には、約250メートルの距離があったと見られる。
肉眼では、人の動きが分かるぐらいの距離です。脚立に座りながら、三脚に載せたカメラを使って撮っていました。私が撮っている場面は米軍のほうも撮影していたので、お互いに存在は確認していました。
撮影の際は、特大の大型レンズを使っていたとのこと。
800㍉のレンズを使っていました。時間的には5秒以内でしたが、私の前でピタッと止まったのでドキッとしました。肉眼では表情まではわからない距離です。
報道用の800㍉・レンズといえば、5キロ近い重量があり、希望小売価格が200万円近いものと思われる。サッカーコート2面分ほども離れた距離から米兵の表情が分かる写真が撮るには、そのぐらい必要だったのだろう。
意図的に脅そうとしている感じではなかったですが、仁王立ちして正面に銃口をこちらに向けられ、ドキッしたのは事実です。過去には牧港補給基地で、米軍の隊員らが国道側の民間地に銃口を向けた問題もありましたが、その時も銃口は斜め下を向けていました。
「米軍や防衛局から抗議来ず」
ひょっとして米兵がマスコミ向けに気を利かせてポーズを取ってくれたのでは?と問うと、その可能性はないと答えた。
それはないでしょうねえ。マニュアルに忠実に訓練していたのだろうと思います。
ドキッとしたのは事実であり、記事に問題はないとの説明だった。
米軍も「250メートル先から望遠レンズで撮った者からすれば、武器がその方向を指していたように見えたかもしれない」と言っている。記事について、米軍や防衛局から抗議も来ていません。
訓練であっても、銃口を水平に近い体勢で構えるのは問題だと強調した。
民間地に向けて銃口を水平に向け攻撃姿勢に近い体勢を取ったことは、やってはいけないことだと思います。これまで米軍は過去の基準を守っていたのに、そのタガが外れてきたという印象を受けます。一瞬ドキッとしたことは事実ですし、周囲にそうした不安を与えるような訓練をすべきではないと思います。
都市部に位置する那覇軍港での訓練には、市民の反対も多いという。米兵の今回の動作は威嚇と見なすべきなのか、あるいは感じ方の問題という程度の話なのか……今しばらくさまざまな意見が出てきそうだが、撮影者本人は米軍の訓練取材の経験があり、脅威に感じたことは分かった。