「女子は苦手意識を持ちすぎ」、国立情報学研究所の新井紀子教授
理工系分野に進む女性が増えないのはなぜだろうか。女子高校生らを対象にしたイベントなどで講演している国立情報学研究所の新井紀子教授に尋ねると、「女子は苦手意識を『持ちすぎてしまう傾向』があるのでは」と言う。文系として大学進学した後、数学者になった新井教授。これからの時代を生きる女子生徒に向けて「数学ができると百人力」と呼び掛ける。(共同通信=河村紀子、三浦ともみ)
▽OECD調査で、女子は理数系で男子より劣っていない
―多くの女子が、理数系の教科・科目に苦手意識を感じていると言われています。
「15歳を対象に『読解力』『数学的応用力』『科学的応用力』の3分野をみる経済協力開発機構(OECD)の学習到達度調査(PISA)などの結果を見ても、女子が男子より理数系で劣るということはありません。にもかかわらず、理数系を苦手だと感じ、文系を選ぶ女子が多いことを、長年疑問に感じてきました」
「あくまで一つの仮説ですが、女子は言葉をつかさどる脳の言語野と呼ばれる部位の発達が早いことが考えられます。物語的な文章はよく読めるという自己認識がある一方で、事実を淡々と書いた数学や理科の文章はとっつきにくく、物語のようには分からないと感じてしまう。相対的に自分の中で理数系に苦手意識を持ってしまうのではないでしょうか」
▽文系だったのに「読む力」で数学者に
―新井さんは数学者ですが、大学では法学部に進学しました。中高生の頃は文系でしたね。
「私自身がもともと文系で、文学はすごく好きだったけれど、中学と高校で一番嫌いな教科は数学でした。それでも大学受験で必要だったので、大嫌いな数学も嫌々勉強し、法学部に入学しました」
「ところが、法学部だから数学の授業はないと思っていたのに必修でした。詐欺に遭ったような気分でがくぜんとしましたが、いざやってみたら一番よくできたんです」
―それまで苦手だった数学が、なぜできるようになったのでしょうか。
「高校までの数学は『解く数学』だったけれど、大学の数学は教科書に書いてある理論を理解する『読む数学』でした。自分が周囲より読め、よく理解できたことが転機となって、数学者の道に進みました」
―理数系ができることの良さを教えてください。
「数学は今でも苦手です。でも、数学で考え、判断することができると百人力だと感じます。現代社会では、あらゆる場面で統計や論理推論のような数学的な考え方が求められます。パソコンの基本ソフト(OS)のように数学が備わっている方が、選択肢は広がります」
▽「ものづくり」から「ことづくり」に変化する社会
―政府が「第5次男女共同参画基本計画」で、科学技術分野への女性の参画拡大を目標に掲げるなど、社会全体で機運が高まっています。そもそも「なぜ女性を増やす必要があるのか」という問いにはどう答えますか。
「私はさまざまな企業でアドバイザーをしたり、講演をしたりしています。そういった場で感じるのは、今後も持続可能に発展していきたいと考えている企業の多くが、女性の視点を必要としているということです」
「これまで、日本の企業は性能を上げることと、コストを下げることの2軸を追求し、『ものづくり』に成功しました。ですが、今求められている軸は、サービスやサステナビリティなど『ことづくり』へと変化しています。『ことづくり』に対応しようとする企業で求められるのは、三つの“言葉”を備えた人材です。一つ目は日本語という基本的なコミュニケーション能力、二つ目は英語というグローバルなコミュニケーション能力。そして三つ目が、数学に代表されるサイエンスのコミュニケーション能力です」
「三つの言葉を共通言語として話し合い、より多様になったニーズを把握し、新たな商品を世の中に提供する。そのために、男性だけでなく女性が必要だということを理工系分野の人たちは痛感しています」
▽高校生になる前に「扉」を閉ざす印象(略)
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あらい・のりこ 1962年、東京都生まれ。数学者、国立情報学研究所教授。読解力を測るテストを実施する「教育のための科学研究所」所長
47NEWS 2022/4/5 07:00 (JST)
https://www.47news.jp/47reporters/7617840.html
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